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『誰も知らない基地のこと』 監督インタビュー/濱野千尋

2012.04.22 Sun

『誰も知らない基地のこと』は、米軍基地問題を追及するドキュメンタリーだ。イタリアのビチェンツァ、日本の沖縄、そしてインド洋に浮かぶディエゴ・ガルシア島。主にこの三か所の米軍基地を軸にしながら、いま起きている問題を明確にしていく。

共同監督を務めたのは、イタリア系アメリカ人のエンリコ・パレンティ氏とイギリス系イタリア人のトーマス・ファツィ氏。以前から友人同士だったという二人 は、2007年から基地問題の取材を始め、3年かけて本作を完成させた。「いいドキュメンタリーを作るための最大の秘訣は、いい友人を持つこと」というふ たりに、制作の道のりを聞いた。

パレンティ「初めはイタリア・ビチェンツァの米軍基地拡大に対する反対運動をテーマに、短いニュースレポートを作ろう、と思ってリサーチを始めました。しかし、取材を進 めるにつれ、米軍基地問題がイタリアに限らず世界中が抱える問題であることに気付きました。そこで我々は方針を変えて、長編のドキュメンタリーを制作する ことにしました」

ファツィ「基地問題を深く知るにつれ、地域的な視点ではなく世界的な 視点で取り組まなければ、と考えるようになりました。しかしそれは簡単なプロジェクトではありませんでした。というのも、われわれはこの映画を自主制作し たのです。ふたりだけで企画を立ち上げ、まずは資金作りのために働いてお金を貯めました。その後、3年かけて取材、撮影、編集を行い、ようやく完成にこぎ つけました。振り返ると、特に資金面で大変なことも多かったのですが、自主制作という方法を選択したことは正しかったと思っています。二人でじっくりディ スカッションをしながら切り口を探れましたし、身軽だからアクションを起こすのも早かった。米軍基地問題はいま追うべき題材だと確信していたから、スポン サー探しをする時間が惜しかったのです」

パレンティ「大きなテーマを扱うときには、と ことんまで話し合える仲間がいたほうがいい。基本的にふたりだけで作っていったので長い時間がかかったけれど、僕たちの取材の成果はこの作品にすべて注ぎ こめたと思います。ノーム・チョムスキーをはじめとして、素晴らしい言論人の面々に取材できたことも大きな実りでした。みなさんには直接メールを送って取材を申し込んだですよ。ほぼ全員が僕たちの企画に賛同してくれ、協力してくれました」

現在、世界中のおよそ40の国や地域 に700か所以上の米軍基地が存在し、全世界に駐留する米軍兵士の数は25万人にのぼる。これは米国防省が公式に発表している数で、実際にはもっと多いと いう。アメリカ人国際政治学者のチャルマーズ・ジョンソンは、本作のなかでインタビューに答え、「米軍基地は現代の植民地であり、米国は基地を作ることで “アメリカ帝国”を形成している」と断言する。

ファツィ「現在のアメリカの繁栄は、軍事力と軍事力による各国への干渉なしには成り立たなかっただろうと私は考えています。インタビューに答えてくれたチャルマーズ氏 はかつてCIAの顧問を務めていた人物で、冷戦時代にはタカ派でしたが、冷戦後にアメリカの軍事システムに疑問を抱き、反軍主義に転向した人物です。チャ ルマーズ氏が言うように、アメリカは常に敵を必要としてきましたが、これは軍産複合体を維持するためです。アメリカは基地を作るための口実として、常に敵 を作り続けてきたわけです。アメリカにとって現在の目下の敵はテロリズムですが、米軍基地がテロに対する有効な防衛手段になるとは、私には思えません」

イ ラク、アフガニスタン、中央アジアのアメリカ軍基地は、2001年の9.11以後、増え続けている。

「爆撃のあと恒久的な基地を作っていく。基地を残すこ とが戦争の究極の目的になっている」と、人類学者のキャサリン・ラッツは本作のなかで話す。「その背景には、軍産複合体の存在があることを忘れてはならな い」。イラク戦争の退役軍人である女性は、爆撃直後のイラクの新基地に、バーガー・キングやピザハットといった大手飲食チェーン店が当然のようにテナント として入り建設が進んでいく様子に唖然としたと語り、チャルマーズは「恒久平和のための恒久戦争がアメリカンドリームなんだ」という。

パレンティ「アメリカでは一般的には、自国の兵士たちが世界中に駐留していること、たとえば沖縄の森で爆音をあげながら軍事演習をしている事実は知られていません。映画 はもちろん、書籍でもこういった問題を取り上げているものはほとんどありません。世界の40カ国以上に700以上もの基地があることを、知っている人は少 ない」

(左)エンリコ・パレンティ、(右)トーマス・ファツィ

ファツィ「グローバリゼーションとは、さまざまな価値観、文化、差異を尊重しながらコミュニケーションを通じて世界中が社会的、経済的に連関しあう概念だったはず。作られた敵に対する防衛を盾にアメリカの帝国化を進めることが“グローバリゼーション”なのだとしたら、それには反対の声をあげなくてはいけない。それは社会的にも文化的にも、環境的にも、許されがたいものだから」。

取材・文/濱野千尋

『誰も知らない基地のこと』

http://kichimondai.com/

「シアター・イメージフォーラム」にて公開中。全国順次公開。

カテゴリー:新作映画評・エッセイ

タグ:憲法・平和 / 映画 / ドキュメンタリー / イタリア映画 / 濱野千尋 / インタビュー