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『かぞくのくに』 女性監督の描く普遍性 伊津野朝子[学生映画批評]

2012.07.27 Fri

あるひとつの家族をめぐる話というのは、ときに痛みや悲しみを伴うことがある。それは誰もが少なくともそれを経験したことがあり、自分自身を見出す場としての家族を持っているからだと言える。在日コリアン2世であり、本作は自身の実体験が下敷きになっているという、女性監督のヤン・ヨンヒは、静かに自分の家族の話を描きだした。ドキュメンタリー出身の監督ということもあり、自然なカメラワークとどこか残酷で冷たいイメージを持ち合わせた独自の視線は、初のフィクション映画の中で持ち味を発揮できたと言えるだろう。

この家族の兄である井浦新はほとんど喋らない。喋ることを禁止されているのかと思うほどの彼は、「帰国事業」という実際に日本と北朝鮮の間で行われた集団移住から、一時帰国を許された人物ソンホを演じる。韓国人のイメージもなく、国籍がどこかわからないような不思議な印象を持たせる井浦が好演している。

そして彼の妹のリエを演じる安藤サクラの存在感は、この兄と妹という、家族の中でも更に小さい単位のなかで起こる出来事を、観客に強く印象づける。この二人が物語の中心人物だ。少し驚くほど二人はどこに行くときも一緒であるのに、ほとんど会話はしない。しかし言葉を交わさなくても、この二人が兄と妹であるという距離感を、一瞬で感じることができ、そこに安心する。

ひとつの家族がある出来事をきっかけに壊れていくという物語は、これまでにもつくられてきた。この欄で以前筆者が紹介した『家族X』という日本映画もまさにそのテーマであり、ゆっくりと家庭が崩壊する姿を描いていた。『家族X』がより内的な原因で壊れていったのに対し、本作は「国家」や「政治」という更に大きなものを巻き込みながら家族が崩壊していく。しかしこの大きなものがもたらしたのは、「生きるとはどういうことか」「家族とは何か」といったより普遍的で、常に私たちに降りかかってくる問題提示であった。

日本を舞台にほぼ日本人キャストで、在日コリアンの監督が自分の社会を描いた映画は、日本人にとってこれまでにないリアルな印象を与える。どこか遠い国という存在の北朝鮮を、今回とても身近な存在と感じた。兄と妹と、二人の幼馴染たちとの再会のシーン。チョリ役の友人がソンホに質問攻めにするシーンで、空気が凍りつく。ソンホは何も答えられないし、答えることを拒否している。ここにはっきりと二つの国の壁があり、それが私たちの生活の中にある。

唯一の韓国人キャストで映画監督でもあるヤン・イクチュンが、映画全体を引き締める。彼がリエに「あなたの嫌いなあの国で、お兄さんも私も生きているんです。死ぬまで生きるんです」という印象的な台詞。動揺するリエを置いて、ソンホは強制帰還させられる。どこの国で生き、死ぬのか。そんなことは常に考える問題ではないかもしれないが、私は自分の「かぞくのくに」で生きて死にたいと初めて感じた。

(日本大学芸術学部映画学科4年 伊津野朝子/いづのあさこ)

『かぞくのくに』

(ヤン・ヨンヒ監督/2012/日本/100分)

8月4日(土)、テアトル新宿  109シネマズ川崎ほか全国ロードショー!

(C)2011『かぞくのくに』製作委員会

公式サイトはこちら

カテゴリー:新作映画評・エッセイ

タグ:くらし・生活 / 映画 / 多様な家族 / 伊津野朝子 / ヤン・ヨンヒ / 女と映画 / 邦画

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