2012.08.05 Sun
今回は、連日の暑さを煽るような題名の「太陽の女」(KBS2008、全20話)を取り上げよう。このドラマは、人生の成功と家族の愛を求めて熾烈に生きる二人の女性を描いた正統派メロドラマである。陰謀と復讐という通俗的な要素を含みながらも、十分感動的な作品である。このドラマには“悪事と嘘で成し遂げた成功では決して幸せになれない”、“過ちを犯したならばその罪を反省し、心から謝罪しなければならない”、“被害者は、加害者に復讐するのではなく、赦すことによってこそ心の平安を取り戻すことができる”という、普遍的なメッセージも込められている。
脚本は、「真実」(MBC2000)、「結婚したい女」(MBC2004)、「メリ・テグ攻防戦」(MBC2007)など、トレンディ・ドラマで有名な中堅作家のキム・イニョンが書いた。演出は、女性兵士が登場する「噂のチル姫」(KBS2006)のペ・ギョンスPDである。俳優たちの演技も安定しており、特に主人公シン・ドヨンを演じたキム・ジス(1972~)と、その妹シン・ジヨン(ユン・サウォル)役を演じたイ・ハナ(1982~)の演技が光っている。二人は年末のKBS演技大賞でそれぞれ最優秀演技賞と優秀演技賞を受賞した。また、ジヨンの幼馴染でドヨンを愛したドンウ役のチョン・ギョウン(1982~)が新人賞、ドヨンの子役を演じたシム・ウンギョン(1994~)が青少年演技賞を受賞している。低視聴率でのスタートだったが、次第に上昇して最終回は約27%に達した。
人気アナウンサー
主人公のシン・ドヨンは、若い女性たちが憧れる人気ナンバーワンのアナウンサーである。放送局の看板番組を受け持つ傍ら、韓国の広報大使としても活躍する。ドヨンの父親は会社役員で、母親は美大の教授である。また、M&Aスペシャリストで好青年のジュンセ(ハン・ジェソク)という婚約者もいる。スポットライトに照らされてにこやかに笑うドヨンを見れば、完璧な成功街道を歩んでいると誰もが思うだろう。だが、実は彼女には誰にも言えない秘密があった。
養女になる
シン・ドヨンの元の名はキム・ハンスク。庶民の家に生まれ、両親に愛されて育ったが、財閥家の運転手をしていた父親が会長の濡れ衣を着せられて失踪してしまう。そのために自分一人生きるのも大変になった母親が、幼いハンスクを孤児院に預けた。小学校に上がる頃、縁あって裕福な家の養女になり、ドヨンと名付けられた。ドヨンは、はじめの数年間は養父母の愛情を一身に受けて幸せに暮らしていた。ところが、長年子どもが出来なかった養父母に実の娘ジヨンが生まれ、それを機に状況が一変してしまう。特に養母ジョンヒ(チョン・エリ1960~)は実子を偏愛し、ドヨンを疎んじるようになったのだ。幼いジヨンすらも、母親の愛を独占して我が儘となり、ドヨンを度々困らせるようになった。
一瞬の過ち
そんなある日、ドヨンはジヨンにせがまれて外へ遊びに出かける。両親は海外出張中で、家政婦も昼寝中だった。魔が差したドヨンは、連休前でごった返すソウル駅にジヨンを連れて行き、置き去りにしてしまう。ジヨンさえいなければ、養父母の愛を以前のように取り戻すことができると幼心に思ったのである。ドヨンは怖くなってすぐに引き返したが、ジヨンを見つけることはできなかった。
出張から戻って、ジヨンの失踪を知った両親は大きな衝撃を受ける。ドヨンは怖さのあまり事実を言うことができず、「知らない」と嘘をつく。たまたまソウル駅でのドヨンの行動を遠くから見守っていた実母が、娘を窮地から救うために誘拐犯のふりをして養父母に手紙を送り届けた。そのおかげで、ドヨンは養母の疑念からは自由になったが、悲しみに打ちひしがれた養母は一層ドヨンに冷たく当たるようになる。
“一人娘”になったドヨンは、自らの罪深さから逃れるかのように養父母に尽くし、愛されようと努力する。熱心に勉強して韓国最高の人気アナウンサーになったのも、養母に認められたいという思いがあったからかもしれない。だが養母は、ドヨンが成功すればするほどジヨンを思い出し、心をかき乱された。そんな養母の前で痛々しいほどに良い娘たろうとするドヨン。
ドヨンの罪
一方、5歳の時にソウル駅で置き去りにされたジヨンは、その後、地方の孤児院に収容され、ユン・サウォルと名付けられた。家族に対する記憶はほとんど残っていないが、いつかきっと再会できるという希望をもって生きてきた。サウォルは根が明るく、歌や演劇が好きで、ファッション感覚にも秀でていた。孤児としていじめられ高校を中退したが、ファッションの才能と持ち前の明るさで、一流デパートのパーソナル・ショッパーとして就職する。その店は実母ジョンヒやドヨンも出入りするなど、上流層を相手にしていた。その上、時々孤児院に訪ねてきて励ましてくれたジュンセ(ドヨンの婚約者)とも再会する。
同じ頃、ドヨンも偶然香港で出会ったドンウから、孤児院時代の友人サウォルを捜してほしいと頼まれる。そのことがきっかけでドヨンは、サウォルがジヨンであることを知る。ジヨンの出現は、自分の悪事が露呈することにつながる恐れがある。そこでドヨンは、再びジヨンを闇に葬ろうとし、冷たく突き放す。その後は、このようにサウォルの家族捜しを妨害するドヨンと、事実を知ったサウォルがドヨンに復讐を企てる内容が展開される。
女性たちの描き方
このドラマの面白さの一つは、ドヨンとジヨンとジョンヒという女性主人公たちが、みな“善と悪”、“被害と加害”という二つの要素を併せ持つ、リアリティのあるキャラクターとして描かれていることだ。ドヨンにはジヨンを置き去りにした罪があるけれども、養母に冷遇された被害者でもある。ジヨンはドヨンによって家族を失った被害者だが、その原因がドヨンにあることを知ってからは復讐心に燃え、ドヨンの社会的地位を失墜させ、その幸せを奪おうと躍起になる。そして、ジヨンを偏愛することで、ドヨンにジヨンを捨てる動機を提供した養母ジョンヒは最も悪徳なキャラクターであるが、ジヨンを失って長年苦しみ続けるという痛みを背負っている。
しかもこの三人は、みなしっかりした職業をもつ社会人である。彼女たちにとって仕事は単なる飾りではなく、ドラマを構成する重要な要素として描かれている。ドヨンは放送局の花形アナウンサーとしてプロ意識をもち、日々の努力を怠らない。ジヨンはパーソナル・ショッパーとしても、舞台に立つ演技者としても初心者ではあるが、一生懸命に努力して才能を認められる。大学教授のジョンヒも教える傍ら自ら創作活動に携わっている。女性主人公たちの仕事をアクセサリー程度にしか扱わない多くのドラマとははっきり異なる。この点は、働く女性をリアルに描く作家キム・イニョンの特徴が見事に発揮された作品と言えるだろう。
そして、このドラマのもう一つの特徴は、男性たちの影が薄いことである。死闘を繰り広げる女性たちに対して、男性たちは誰一人として大きな力を持ちえない。しかも男たちは愛をめぐって優柔不断な態度を示す。ドヨンの婚約者ジュンセは、結局はドヨンよりもジヨンを選び、元々サウォルが好きだったドンウは、次第にドヨンに傾いてゆく。もちろんドヨンが、自分の過ちを認め、再出発を決心する上でドンウの愛は唯一の支えとなった。しかし、それでも自殺を止める力にまではなりえない。また、ジョンヒの夫は比較的ドヨンに同情的だが、ジョンヒの横暴を許したという点で養親としてはやはり失格であろう。
血のつながりを重んじる家族の中の女、男社会の中で働く女性の姿、揺れやすい恋人たちの関係を通して、現代の韓国社会に生きる女たちの孤独さが巧みに表現されているのである。終盤で、この三人の女性たちはそれぞれの方式で謝罪し、赦し、和解への道を歩もうとする。その最後のシーンは、ドヨンがジヨンの肩にもたれて息を引き取ったのか、それとも生き延びてドンウとともに新しい生活を始めたのか、はっきりわからないような描き方になっている。演出家はこの点について、「結論は視聴者の想像に任せたい」「多様な解釈が可能なように開かれた結末にした」と語っている。
中堅俳優チョン・エリ
最後に、このドラマの中で憎々しげな養母を演じたチョン・エリ(鄭愛利)について触れておこう。1978年に芸能界にデビューしたチョン・エリは、1984年から約1年間にわたって放映された金秀賢(キム・スヒョン)脚本の週末連続ドラマ「愛と真実」(MBC、全85話)で主人公ヒョソンを演じ、一躍有名になった。その後、数々のドラマに出演し、“ドラマに欠かせぬ名脇役”と称されている。毒々しいキャラクターから善人までこなす、演技力抜群の中堅俳優である。たぶん日本でもドラマ好きの人ならばお馴染みの俳優であろう。ちなみに私が最も印象深かったのは、同じく金秀賢脚本の「愛と野望」(SBS2006)で演じた、男性主人公テジュンの頑固な母親役である。
チョン・エリは敬虔なクリスチャンとしても有名だ。奉仕活動にも熱心で、20年以上前からソンロ園(朝鮮戦争中の1951年に建てられた児童施設)の支援をしている。また、2004年からは国際NGOのワールドビジョンで親善大使を務めており、開発途上国の105人の子どもたちのスポンサーになっているとのことだ(2009年現在)。私生活では、ちょうど「愛と野望」に出演中の2006年に離婚したが、昨年、教会で知り合った起業家と再婚した。今後も末永く活躍してもらいたい俳優の一人である。
写真出典
http://starin.edaily.co.kr/news/NewsRead.edy?newsid=01079126586503384&SCD=&DCD=A501
http://blog.naver.com/PostView.nhn?blogId=lielie1&logNo=80054495532&widgetTypeCall=true
カテゴリー:女たちの韓流