エッセイ

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色とりどりの、うどんのある日常。(晩ごはん、なあに?24) 荒木菜穂

2012.12.30 Sun

うどんその昔、サッカー日韓W杯の頃か、日本でキャンプをしたカメルーンの選手(大阪に住んだ経験があるらしい)が、キャンプ地での食事にうどんが出ないことを不満に思い、「うどんアリマセン」という名言(?)を残したそうな。

今でもこの「うどんアリマセン」、月に2~3回は私の脳内にコダマしています。乗り換え駅に立ち食いうどんが無かった時とか、家にうどん玉がなかったときとか。

そんなこんなで、うどんの話なのですが、どう考えても「晩ごはん」じゃなくて昼ごはんやんか!!!というご意見はまあ、、、、、許してくださいませ。

私はうどんにはとても興味があるのですが、なぜか、いわゆる、真面目なうどん、讃岐うどんや稲庭うどん、氷見うどんなどはそこまで心の琴線(うどん線?)に触れないのです。コシがあって美味しいし、しっかりしてる。でも、どこか、身構えてしまう。そういえば、まだ学会発表とか心細かった頃(今でも毎回ドッキドキですが)、自分の報告直前の、母からの「さっき讃岐うどん(お取り寄せ)が届いたよ。」という脈略の無いメールで、どんだけ気持ちが落ち着いたか、とか思うと、家族が集まった時に囲むうどん(釜揚げとか冷やし)なら、たしかに「真面目なうどん」なのかもしれません。

さて、私の日常のうどんは、もっとB級な、お一人様で楽しむ、主にいわゆる駅うどん。立ち食い中心。いわゆる、美味しい、という基準じゃない別の基準で善し悪しが決まる、私にとって唯一の食べ物。別の基準って何かよくわからんけど、そのときの腹具合、時間具合、雰囲気との相性みたいな?

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立ち食いうどんというのは、少し昔まで、若干、男性の聖域とされていたところがあります。コミック『ねこ神さま』(何巻かは忘れた)でも、女子高生が立ち食いにズラっと並んでいる様子に違和感を感じる、というようなくだりがありますし、最近は椅子のある店が増えてきたのも「女子客にも受け入れられるように」「でも邪道」みたいな話を、これはアメトークの「立ち食いうどん特集」でしていた(うろ覚え)気がします。

私は男女の区別には、いる区別といらん区別があると思ってて、いらん区別ってのがジェンダーだと思ってるんですが、まあ、立ち食いが男子の聖域ってのは、いらん区別でしょう。別に女子客が迷惑かけてるわけでもないんだし。それに、椅子があるのだって、店の構造上のいろいろでしょ。椅子がある店のほうが女性多いのなんて見たこと無いし、年配のお客さんとか子どもさんとか、椅子があるほうが入りやすくなった人がいたとしても、別に女性だけじゃないでしょう。

でも、酒やタバコももしかしたらそういう段階を踏んだ文化かもしれないけれど、無意味な男の聖域と呼ばれるところをあえて犯してやる心地よさ、みたいな気分で、若干最初は立ち食い行ってた時期もありました。子どもっぽいことでしたが。。

それよりも、駅を中心とした立ち食いうどんは、何か用事で別の土地に行った時、その土地の日常の場所を経験する感じで、必ず行くようにしています。どんな名物料理を食べるより前に、まずは、地域の日常の空気とともに、午前中に立ち食いうどん。

紅しょうが

当然のことながら、地域によってうどんも違う。普段私が生活している関西文化圏では、いわゆるかつおの薄味関西出汁だけど、大阪で食べる立ち食いは、どちらかといえば、大阪のうどん、て感じです。紅しょうがの天ぷらを入れて、お出汁を真っ赤にして食べるのも好き。京都のうどんは、もっとお出汁が薄い気がする。

そして、東京のおうどんは、お醤油の効いた真っ黒な感じですね。出汁度合いは関西のに慣れてたら物足りない感じがするけど、どすん、とのったかき揚げがお出汁を吸って、同時にお出汁にもコクが出て、いい感じ。

東京のうどん

あとは、麺の硬さ。京都で育ったうちの父などに言わせれば、うどんは麺が柔らかくないとダメなそうです。私も、基本的には柔らかい麺が好きなので、自分で湯がくときもそうだし、とんこつラーメン店(たいがい極細麺)でも柔らかめを注文してしまい、すぐ延びてしまい後悔することも多いです。

そりゃ、讃岐うどんに比べりゃ大阪のうどんも柔らかいと思うけど、京都は、もっと柔らかい。それが一種のアイデンティティなんだなあ、と、なんとなく自分でも思ってたけど、ところが、上には上がいた。そう、博多うどんです。博多のうどんは噛まなくていいぐらいやわやわ!!でものびてるわけじゃない!このお店のは、かき揚げ風のごぼうのてんぷらがのってて、麺との物理的な相性が抜群でとっても美味しかったです。大陸からうどんの原型が伝わってきたのは博多らしいので、こっちが本場なわけですね。

博多のうどん

名古屋は駅麺もうどんの代わりにきしめん!きしめんの独特の柔らかさもいいですね。平麺なのも好き。
きしめんポスター

あと、私の生まれた三重県では、もちもちした太い麺に濃いたれを絡めて食べる伊勢うどんなるものがあります。七味と葱がポイント。でも最近は、薄めで多めのたれにちょっと細めのうどん(普通のうどんに近い)のタイプが増えてきて、ちょっと残念。

伊勢うどん

うどんが日常の文化だ、という意味では、学食のうどんなんかもいくつかの大学で食べた気がします。自分の所属する大学以外では一人ではなかなか緊張してお一人様できないのですが。京都の大学なら薄味京うどん。神戸ならぼっかけうどん、など、地域色もあったりします。山菜うどんなんかもいいですね。でも大概の大学で天かす入れ放題なので、入れすぎてせっかくのさっぱりが台無しに…。。

山菜

でも、一番よく利用するのは、某電鉄各駅の立ち食いうどん。ここは、いわゆる駅そば発祥だそうです。しかも、十三駅と梅田駅で天ぷら(通称「白天」→概ねコロモでわずかに干しエビのやつ)の形状が違うのが気になって、偶然その日によるのか、そもそも違うのか、フランチャイズ(?)なのにどうなのか、気になって、2週間ぐらいかけて両店数回ずつ通い、日ごとではなく店ごとに違う、という、全くもって自分しか満足しない調査結果を得ました。

駅そば

さあ、そんなこんなで、自分の好きなうどんばかりをつれづれに書き綴ってきたわけですが、このうどんは店で食べるうどんだなあ、と思っていたけど、意外と家でもできるかも、と思ったうどんを最後にひとつ。

油かす
大阪名物「かすうどん」というものがあるのですが、牛のホルモンを揚げた「油かす」なるものが入った、出汁はどちらかといえば濃厚な甘辛い味のうどんです。初めて食べたのは、なぜか、奈良の観光地にあった食堂。それで感動して、大阪を通過した時なんかに、かすうどん店に行くようになったのですが、いつも肉とかハムとかコロッケとか買う近所の肉屋に、よく見たら、油かす売ってる!

油かすを煮る

ひとまずは買ってきて、最初はうどんじゃなくて鍋の具にしたのですが、結構煮込まないと硬いことに気付く。これはきっと最初に出汁で煮込むんだろうと思って甘辛い出汁と、なんとなく合うかと思って玉ねぎと一緒にしばらく煮込んだら、なんかトロトロになってしまって、これでこんにゃく入ってたら神戸のぼっかけみたい(ぼっかけは牛すじだったと思いますが)。かすうどんって、もうちょっと、しがしがした歯ごたえがあった気がするので、こっちのほうが高級な味になったけど、なんか違うなあ。

かすうどん

それにしても、すごい油!!そりゃ油かすですしね。あと、器に溢れすぎて、あんまり美味しそうに見えない…。

さて、油かすが残ったので、富士宮焼きそばを作りたいと思います(あれ?うどんは?)。

まあ、かすうどんはともかく、うどんは私にとって、移動中の食べ物、って感じで、非常勤掛け持ちの今の生活を象徴する食事でもあります。今の生活を、これからどうしていくか、考えていかないといけないのですが、とりあえずは、うどん食べて、歩き出して、電車に乗って、たまに違う土地のうどんも食べて、次も頑張ろう、と思う今日この頃です。

・・・なんと、ちょうど一週間ほど前に、祇園にうどんミュージアムなるものがオープンしたらしい。一度は行ってみなくては~。。

連載「晩ごはん、なあに?」は、毎月30日に掲載の予定です。以前の記事は、以下でお読みになれます。

http://wan.or.jp/reading/?cat=31








カテゴリー:晩ごはん、なあに?

タグ:くらし・生活 / / 荒木菜穂