2013.01.02 Wed
<WAN的脱・原発 岩手から発信せよ 2>
カードをかざせばロック、解除できる扉。通りかかれば、灯がつく廊下。前に立てば開くドア。扉を開ければ、ふたが上がるトイレ。座れば温かく、立ち上がれば水が流れる便座、手をかざせば出る手洗い水。ああ、なんて快適!らくちん!これぞ先進国。
でも、2012年3月11日東日本大震災で電気が止まったら何も動かなくなりました。
私の住む盛岡は、大きな揺れがあり、大量の蔵書が本棚から落下し、食器も飛び散り割れました。津波被害には合わなかったけれど、電気と水が止まった地域がありました。外は雪の降り凍てつく寒空。暫く信号機はつかず、街灯もなし。24時間営業の大型スーパーがひっそりと灯を消して、その日は月のきれいな夜でした。幸い我が家は、オール電化ですが、断水しませんでしたし、薪ストーブと夜間蓄電の床暖房がありましたから、停電の2日間は寒い思いはしませんでした。ただ、マンションやアパートでは電気ポンプで水を引き上げているから、断水地域じゃなくても断水。給水車からもらった水ポリタンクを両手に持って、オートロックも空きっぱなしの非常階段をえっちらおっちら自宅に運ぶことになりました。家じゅう真っ暗で、煮炊きもできません。お風呂も沸かせません。
後で聞けば、電気もガスも止まってしまった被災地の避難所では、外で瓦礫の乾いた木材を燃やして煮炊きをし、暖を取ったそうです。
ああ、なんて脆弱な現代先進社会。電気も水道もない途上国の方が、どれだけ強靭な生活力か。電気は限りある資源なんだからもっと大切に使わなきゃと実感。ところで電気ってどうやって家庭のコンセントまでは運ばれてくるの?そもそも日本では、石油も天然ガスもウランも採れないのに、火力や原子力にこんなに頼っていていいの?世界最先端の電子機器を誇る日本だけど電気なかったら用をなさないものがほとんどじゃない?などと暗闇の中で考えて眠りにつき、翌日の夕方近くにようやく電気が復旧!暗い部屋に灯が灯り、家族で「やったー!」と歓声を挙げました。そして、早速TVをスイッチON!
黒い大津波が三陸沿岸を襲う映像に驚き、友人が住む地域が浸水していることにショックし、「東京電力福島第一原発が津波被害で事故発生。放射能漏れの危険がありますが、直ちに健康に被害はありません」とのニュ―スです。
えっ?放射能が漏れてる?しかもどうも異常事態の様子。福島県だけが危険なの?放射能を浴びるとどういう健康被害があるの?脱毛、鼻血、白血病、ガン、不妊症?どれくらい浴びるとダメなの?
原子力発電を利用していながら、私はまったくそんな知識もあやふやだったことに愕然としました。広島、長崎に原爆を落とされた国なのに。子を産んだ母親なのに。
その後の政府の対応の悪さは、パニックを防ぐためとはいえ、余りに無責任でした。
770000テラベクレルの放射能が飛び散っていながら、住民にも事態の重大さを知らせないまま、少しずつ範囲を広げて避難を促しました。そして、原子炉冷却のために放射能汚染水を1万1500トンも海に放出してしまいました。
チェルノブイリよりも低い上空を漂った放射能は、雲に乗って雨となって日本の大地に降り注ぎました。山に、川に、畑に、町に、学校に。色も匂いも気配もなく、ひっそりと静かに。その回避も国民に促しませんでした。
このときから私たちは、これから一生、放射能汚染と共存して行かなければならなくなったのです。
「このときから」?それ以前は全くなかったの?臨界事故もあったし、原発施設の周辺や、核のゴミを再利用するための原発関連施設周辺になにもなかったのでしょうか?反対運動をする人たちはいるものの、近くに住んでいないからと、どこか他人事で、多くの国民がちゃんと意識していなかっただけでしょう。
では、まず、この原発事故でどういう放射能がとび散ったのかを考えて行かないと。
この図は、岩手日報新聞に毎日掲載される岩手県内の放射線量を表すものです。
この図の数値をどう見るかわからないまま、ただ、「盛岡より、一関の方が高いのね」だけで次の紙面に視線を移してしまう人が多いと思いますが、実際安心できる数値なのかをどうやって調べればいいのでしょうか? (以下、文部科学省が平成23年(2011年)10月に発行した『中学生のための放射線副読本 解説編(教師用)』という冊子を参考)
1. 放射性物質にはどういうものがあるのかな?
放射性物質にはたくさんの種類があります。例えば、温泉のラジウムやラドン、バナナやトマトなどに含まれるカリウムも自然放射能。一方、ヨウ素131、セシウム137、134、ストロンチウム90、プルトニウムなどは人工放射能。その単位は,「シーベルト又はグレイ」や「ベクレル」などで表します。
シーベルト(㏜):大気を調べるときには、放射線が体に与える影響の大きさを測る グレイ(Gy):放射線のエネルギーが物質や人体の組織に吸収された量を測る ベクレル(Bq):土や食べ物に含まれている放射性物質が1秒間に放射線を幾つだすかを測る
宇宙からの宇宙線や、46億年ほど前に誕生した地球の地表にも放射性物質が含まれていて、こうした環境下で、すべての生きものが生まれ適応し進化してきました。だから、私たちヒトは、普段生活する上で、自然放射線ついては、恒常的な一定量は浴びても対応できるものだそうです。破壊されたDNAを修復効果できる能力や、免疫系が働いて排泄してしまえるものもあります。
一方、意図的に核分裂させて作り出すのが、人工放射線で、医療用や、原爆、核実験、原子力発電などで発生するものです。これについては、近年急激に現れたもので、進化の歴史の中では対応ができずに、身体に蓄積され、悪影響を及ぼすと考えられています。
1Sv=1,000mSv
1msv=1,000 Sv
⇓
1,000,000μSv=1Sv
〈自然放射線〉
外部被ばく(身体の外から放射能をあびる)・・・年間の日本平均は宇宙から0.29m㏜/y、大地から0.38m㏜/yで、合わせて0.67m㏜/y.
内部被ばく(身体の内部に取り込んで体内で放射能をあびる)・・・吸入(ラドン)が0.59m㏜/y、食べ物から0.22m㏜/yで、合わせて0.81m㏜/y.
だから、0.67+0.81=1.58m㏜/y
日本ではこの程度の被ばく量を原発事故前から日常に受けていたのです。 そして、これにプラスして、原子力関連施設周辺では、低濃度の人工放射性物質が漏れ出る危険があるので、政府は、線量制限をしています。
2.政府が出している年間被ばく量の上限値はどのくらいでしょう?
JAEA日本原子力機構のHPによれば、
「国際放射線防護委員会は、次の線量限度を勧告しました。 (1990年勧告)
対象者 線量限度
放射線業務 従事者 5年間で100ミリシーベルト(年平均20ミリシーベルトに相当)かつ1年間の最大50ミリシーベルト
一般公衆 1年間で1ミリシーベルト
日本の原子力発電所では、周辺の一般公衆が受ける放射線の量を、線量限度のさらに20分の1(0.05ミリシーベルト)以下になるように努めています。」
また、「200ミリシーベルト以上の大量の放射線を短時間に被ばくした人には、がんが発生する可能性があることがわかりました。その発生割合は、被ばくした放射線の量とともに増加しています。一方、200ミリシーベルト未満の少量の放射線で、がんが発生するか否かについては明らかになっていません。」と書かれていました。
✔?ちょっとまって、「線量限度のさらに20分の1(0.05ミリシーベルト)以下」に努めるということは、普通の生活で受ける線量+0.05m㏜ってことよね。放射能漏れがないように万全を期していますってことね。で、「200ミリシーベルト未満の少量の放射線」って全然「少量」じゃないでしょうよ。このふり幅の大きさはなぜ? ちなみに、文部科学省の冊子では、「(人が一生涯であびる放射線が)100m㏜以下はがん死亡が増えるという明確な証拠はない」と記載してあります。ならば、低濃度の放射線に長期にわたり被曝し続けたら、100m㏜は数年のうちに越えてしまう危険があるってことよね。
放射線は、その電離作用によって細胞の核に含まれるDNAに損傷を起こします。DNAが破壊されると、ガンのリスク上昇や胎児の発達異常、様々な病気の心配があります。 しかも子どものリスクは、少なく見積もっても、大人の3倍以上。だから放射線管理区域(年間20m㏜相当)では、18歳未満の子どもや、妊婦は立ち入り禁止にしています。
文部科学省は原発事故後に、「子どもの年間被曝が20m㏜」の基準を新たに認めたために、それは危険だと各方面から抗議があり、では半分の「10m㏜に」と原子力安全委員会がいい、それでも抗議が高まり、「20~1m㏜をめざす」変えたのです。放射線業務従事者と同じ数字を子どもにもあてはめて、原発事故後に基準値を変えてしまう横暴さに驚きます。
〈放射線の種類〉
α(アルファ)線・・・紙で遮断できる(プルトニウム・キュリウムなど)
γ(ガンマ)線・・・金属で遮断できる(ヨウ素・セシウムなど)
β(ベータ)線・・・鉛や鉄の厚い板、コンクリートで遮断できる(ストロンチウム・セシウムなど)
などの種類があって、それぞれ物を通り抜ける力や、身体に与える影響が違います。
✔?ということは、外部被ばくで、マスク、雨合羽、手洗いうがい、洗髪、シャワーではα線は除染できるけど、γ線、β線は特別な防護服じゃなきゃ無理ってこと。だから、空中線量の高いところは、立ち入り禁止になるし住めないんだ。また、放射線を吸い込んだり、含まれた水を飲んだり、土に含まれた放射性物質を吸収して育った野菜や、果物、その草を食べた家畜、汚染海水を飲んで育った魚、それを食べた大きな魚・・・これらを食べれば内部被ばくするんだね。そして、体内に取り込んで内部被ばくした場合、身体の中から放射線を出してしまうから、β線は飛び出していくこともあるけど、α線・γ線は周辺の器官にとどまってかなり厄介なことになるってことね。
ここまで、基本的なことを見てきたけれど、では、実際の2012年12月9日付けの岩手日報新聞にある放射線量の数値から考えてみましょう。
2012年12月8日
盛岡市 0.04μ㏜×24時間=0.94μ㏜/d(日間)
0.94μ㏜×365日=350.4μ㏜/y(年間)=0.3504m㏜/y
一関市 0.103μ㏜×24時間=2.472μ㏜/d(日間)
2.472μ㏜×365日=902.28μ㏜/y(年間)=0.90228m㏜/y
年間で一関市は盛岡の約3倍の被ばく量。
また、2012年12月9日付けの毎日新聞掲載の県平均数値から計算すると
2012年12月6日
岩手県 0.061μ㏜×24時間=1.464μ㏜/d(日間)
1.464μ㏜×365日=534.36μ㏜/y(年間)=0.53436m㏜/y
福島県 0.89μ㏜×24時間=21.36μ㏜/d(日間)
21.36μ㏜×365日=7796.4μ㏜/y(年間)=7.7964m㏜/y
年間で福島県は岩手県の14倍の被ばく量。
岩手県は広域なので、平均で考えるのはあまり目安にしかなりませんし、測定する場所も高さもまちまち。作物の出荷停止が相次いでいることから土壌にある放射性物質も多い。
そして、大人より低い地面近くで、歩いたり遊んだりする幼児や子どもたちもいます。
もちろん福島は原発事故後の廃炉作業もまだ終息していないので、約数億ベクレルもの放射線を出し続けている状態で、雨が降れば、翌日の線量は岩手でも上がっています。
事故後からの累積線量値に見るように、高濃度の放射線量で、原発事故のあった周辺は当分とてもすぐに住める状態ではなく、また福島県内でも高濃度のホットスポットがあることも、原発からの距離と線量を比べるとわかってきます。
そして、特に、原発事故後は、自然放射線量との放射線の種類の違いにも注目すべきです。
慣れない単位や、数字に毛嫌いせずに、ちょっと計算してみればこれくらいのことは日々の新聞から知ることができます。
避難なさっている方々は御存じのことでも、案外、知ろうとしなければわからないものですね。 そして、私たちは、この数値に、内部被ばくの線量も合わせて考えなければならないわけです。そのあたりの線引きはとても曖昧で、しかし、決して「安全安心だ」とは言い切れないことは明確です。
原子力発電は、夢のクリーンエネルギーとはもうだれも信じないでしょう。生命そのものを脅かす、人間が手に負えない恐ろしく危険なものでした。(つづく)
(2012.12.15記) WAN的脱・原発 「岩手から発信せよ」シリーズは、毎月月初めに連載されます。
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