2013.01.05 Sat
韓国の地上波放送局三社(KBS,MBC,SBS)は、年末にそれぞれ演技大賞授賞式を行うのが恒例である。そこで、一年間に各社が放映したドラマを振り返り、人気の高かったドラマを中心に、出演者や制作者に様々な賞を与える。
その中で最も注目されるのは、やはり大賞だ。2012年の大賞受賞者を見ると、KBSは「棚ぼたのあなた」(全58話)のキム・ナムジュ、MBCは「馬医」(全50話予定)のチョ・スンウ、SBSは「追跡者」(全16話)のソン・ヒョンジュという結果だった。
KBSとSBSの選定結果には異論がない。SBSが、「紳士の品格」に出演した“イケメン”韓流スターのチャン・ドンゴンではなく、ソン・ヒョンジュに大賞を与えたことに拍手を送りたい。しかし、MBCの結果にはちょっと頭をかしげてしまった。「馬医」は「ホジュン」や「チャングム」で有名なイ・ビョンフン監督の時代劇ということで注目されているのは事実だが、まだ半分ほどしか放映されていない。それに、主人公のチョ・スンウは映画とミュージカルのベテラン俳優とはいえ、ドラマでは初顔だ。その上、巷では大賞の有力候補として、MBC創設50周年特別企画の「光と影」(全64話)のアン・ジェウクの名が挙がっていたこともある。
この意外な結果について、オーマイニュースがさっそく記事を載せていた(キム・ホンシク「“無冠”アン・ジェウク、犠牲になった理由とは」http://bit.ly/WbJ0Bm)。それによれば、昨年12月に行われた大統領選挙の結果と関係があるという。「光と影」は1960年代以降の軍事独裁政権時代を背景にして、ショービジネスの世界を描いたドラマ。今回当選した朴槿恵次期大統領の父親である朴正煕が大統領だった頃の、横暴な権力と芸能界の関係が中心テーマとして登場する。アン・ジェウクが演じた主人公のカン・ギテは、そんな横暴極まる政治権力に立ち向かう正義感あふれる人物なのだ。それで、朴槿恵政権の発足を間近に控えて、政治的に敏感な題材を扱ったこのドラマへの授賞を避けたのではないか、と分析している。こうなると、ますます「光と影」が見たくなるというものだ。
今時の30代女性を描く
さて、本題に入ろう。ドラマ「棚ぼたのあなた」は週末の連続ホームドラマである。このドラマのユニークさは、何と言っても、女性主人公のチャ・ユニが“孤児”の男性を理想の結婚相手と考えていることだ。韓国では(実際にも、ドラマ上でも)一般的に“孤児”をマイナスイメージで考えることが多い。だから、ちょっと意外に感じられるかもしれない。だが、韓国の女性なら誰でも共感しそうな理由がそこにはある。それは、結婚することで出現する“夫の家族”(韓国では“シデク”と言う)との関係が負担そのものだからだ。それで、そんな家族のいない“孤児”が良い、ということになる。
韓国では女性が結婚すると、夫の家で暮らすというのが朝鮮王朝時代からの習わしだった(それ以前は、夫が妻の家で暮らした)。そして、夫の家の嫁としての役割を背負わなければならない。跡継ぎを産むことから始まって、舅・姑の世話、夫の兄弟姉妹の世話まで付け加わる。もちろん今は同居することも少なくなっているし、大分変ったのも事実だ。
それでも、“名節症候群”(正月や秋夕などの名節になると、嫁の家事労働が増えるため、女性がストレスを強く受ける現象)や“火病[ファッピョン]”(家父長制家族の中で女性たちが受けるストレスを発散できずに鬱屈する病気)と呼ばれる韓国女性特有の病気がある(後者は男性患者も若干いる)。まだまだ嫁役割の負担は重いのが現実のようだ。
“シデク”(夫の家族)が転がり込んできた!
ドラマ制作会社に勤めるキャリアウーマンのユニは、結婚してそんな“シデク”の中に放り込まれるのはまっぴらだと思っている。そんなユニの前に、理想的な男性のテリー・カン(ユ・ジュンサン)が現れる。テリーは、孤児で、在米韓国人の養子として育てられた。スマートで性格もいい。おまけに米国で一流大学を卒業した医者でもある。テリーは実の両親を捜したいという思いもあって訪韓し、現在は韓国の総合病院に勤めている。ユニにとってはこの上ない結婚相手だったのだ。
ところが、結婚後、テリーが実の両親と家族に再会することで状況が激変してしまう。ユニには一気に大型の婚家が出現し、姑や小姑との葛藤が生じることになる。そんなこんなの人生模様にユニがどう対処して乗り越えていくかが描かれている。また、テリーが孤児になった理由をめぐるミステリー、家族のそれぞれのストーリーや恋愛話などが同時進行する。親子の別れと再会という重たいエピソードにまつわる謝罪と赦しを中心軸にしつつも、涙だけではなく、笑いもたっぷりあって、視聴者を引き付けてやまない。
脚本家パク・ジウン
このドラマは最高視聴率49%を記録し、昨年最も話題になったドラマである。前述のKBS演技大賞では、大賞以外にも新人賞、助演賞、ベストカップル賞、作家賞など多くの賞を総なめにした。また、保健福祉部からは、“妊娠出産、養子に対する社会的な認識の改善に寄与した”として、功労杯をもらっている(9月)。その他、コリアドラマアウォーズからは大賞と作家賞(10月)、両性平等放送賞(旧“男女平等放送賞”)では最優秀賞(11月)、大韓民国コンテンツ大賞では文化体育観光部長官表彰(12月)、そして2012 K-Drama Star Awardsでは作家賞(12月)という風に、実に多くの賞を受賞した。
その中で断然注目を浴びたのが、脚本家のパク・ジウンである。子どもの頃から作家になることが夢で、大学では国文科に進んだ。その後、放送作家協会の教育院で本格的に脚本を学んだそうである。10年ほどバラエティ番組、教養、シットコム、ラジオなど多様な分野の脚本を書いてきた。その後ドラマに転じ、「内助の女王」(僕の妻はスーパーウーマン/MBC2009)、「逆転の女王」(MBC2010-11)を書いてヒットさせた。
いずれも30代の既婚女性を主人公にしているのが特徴である。「内助の女王」では、ダメ夫を励まし一家を支える女性が主人公である。名のある会社に夫を就職させるために、その会社の妻たちに取り入ろうと奮闘する。元は軍人アパートを舞台にしていたそうだ。夫の階級によって妻たちにも階級があることを知り、興味を持ったという。しかし、軍人の妻たちの話は特殊なケースなので、会社の話に置き換えたとのことだ。このドラマで同年のMBC演技大賞作家賞を受賞した。
「逆転の女王」は、職場を舞台に、働く男女の結婚と離婚、同僚との葛藤などを描いている。このドラマの視聴率はそれほど高くなかったが、MBC演技大賞でなんと大賞を受賞した。「棚ぼたのあなた」を含めてこれら三本のドラマの女性主人公を演じたのがキム・ナムジュ(1971~)である。キム・ナムジュはパク・ジウン脚本のドラマで演技大賞を二度も受賞したことになる。
最後に、パク・ジウンドラマのもう一つの特徴について触れておこう。それは主人公のキャラクターが自然体であるということだ。よくあるドラマの女性主人公は、善人で清らかなイメージだが、パク・ジウンが描く主人公は、もっと自然体である。いつも賢く、善人なのではなく、時には憎らしく、時には嫉妬深く、時には愚かな行動もとる、平凡なキャラクターなのだ。その点で、キム・ナムジュが演じる主人公は常に、彼女自身の性格と隔たりがないように見える。
脚本家の中でも「母さんに角がはえた」のキム・スヒョンの場合は、俳優たちに脚本通りの演技を要求するそうだが、パク・ジウンは俳優の個性を生かしたキャラクターづくりをするとも言われている。演じる側にとってみれば、そちらの方が演技しやすいだろう。パク・ジウンの次の作品が楽しみだ。
写真出典
http://joynews.inews24.com/php/news_view.php?g_serial=657354&g_menu=700100
http://www.playwares.com/xe/24821391
http://star.ohmynews.com/NWS_Web/OhmyStar/at_pg.aspx?CNTN_CD=A0001776739
http://sports.donga.com/3/02/20120920/49562315/3
http://etv.sbs.co.kr/news/news_content.jsp?article_id=E10000481519
カテゴリー:女たちの韓流
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