2013.04.01 Mon
地中海の真っ青な海と太陽、そこにうかぶリノーサという小島に住む猟師一家の物語である。だが、ここには難民問題という困難な政治的メッセージが込められている。 もちろん結論が差し出されているわけではないが。 ある日、尊敬する祖父と漁に出ていたフィリッポは、アフリカからボートピープルとしてやってきた数人の難民を自分の船にひきあげ、自宅にかくまってしまうことになる。 海に投げ出されている人々を放置できないという祖父の言葉で。 かくまわれた一人、サラは妊娠しており、ジュリエッタの手で出産する。 もし官憲に知られれば、一家には不法入国幇助の罪が課せられることがわかっている。
このような人権問題を背景に、衰退する島の漁業と、観光でなんとか変化を乗り切ろうとする叔父の、廃船にして観光業に励めと進言する言動がからむ。母、ジュリエッタは、かくまっている人々を疎ましくおもいながらも放り出せない。また彼女には、フィリッポに衰退する島を出て、新しい彼の未来をきりひらいてほしい、という想いがあり、それぞれの思惑が激しく交錯する。 隠れてフェリーに乗せ、島から連れ出そうとする試みが失敗に帰した夜、フィリッポは、差し押さえられている自船に彼らを乗せ、大海原に乗り出して行く。 エンジン切れか、故障か不明なまま、ぐるぐる大海原を漂っているように見える船を鳥瞰したまま、映画は終わる。
そこで難民問題である。といっても私たち日本人には、あまりにも他人事としてしか考えられないが、1975年にはヴェトナムのサイゴンが陥落したとき、多くの人々が「ボートピープル」として国外に亡命した。1975年~1995年のあいだに13,768人のボートピープルが日本に到着している。その後の彼らの運命について、 私たちはほとんど知らない。最近でも北朝鮮からの亡命者(と見える人々)が日本海で発見されたということがメディアに報じられているが、政治的状況や彼らの運命についてはほとんど無知である。そしてわかっていることは、わが国が、移民することに厳しい条件をつけているということぐらいである。亡命自体を考えることが困難なら、とりあえず、たくさんの人たちが政治的・経済的理由で不本意な難民状態にならざるを得ないという現実を直視することからなら、始められるだろう。 パンフレットにもチラシにも言及がないが、映画にはUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)の後援のロゴが入っていた。 最後に。 岩波ホールの創設に関わり、以降ホールを類まれな努力で支え、維持してこられた高野悦子さんが、本年2月9日に大腸ガンで逝去された。 岩波ホールは、1968年、最初は文化ホール的要素を持って、開設された。その後、74年に「エキプ・ド・シネマ(映画の仲間)」 として組織化され、商業的に上映がむりと思われるような、また世界に埋もれた名作作品を上映してきたことは、とはよく知られている。 評者などは、名古屋での学生時代、ATG(アート・シアター・ギルド)の会員で、A・ワイダ監督の「灰とダイヤモンド」は市内どこにこようと追っかけまわして視たものだった。高野さんはワイダ監督とも非常に親しかったと聞いている。 時代的にATGの衰退に代わるように、岩波ホールが設立され、今もって映画ファンのこころのよりどころになっていることを、高野さんに深く謝し、心からのご冥福をお祈りしたい。 タイトル:「海と大陸」(イタリア、フランス) 監督:エマヌエーレ・クリアレーゼ 主演男優:フィリッポ・プチッロ(フィッリポ) 主演女優:ドナテッラ・フィノッキアーロ(ジュリエッタ) スティール写真クレジット: c2011 CATTLEYA SRL・BABE FILMS SAS・FRANCE 2 CINEMA 4月6日より岩波ホールでロードショー
カテゴリー:新作映画評・エッセイ
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