エッセイ

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<女たちの韓流・39>韓国の女性たちが選んだドラマ~両性平等放送賞歴代受賞作①~  山下英愛

2013.04.05 Fri

イメージ 1両性平等放送賞

 今回は少し趣向を変えて、韓国の女性家族省が毎年選ぶ「両性平等放送賞」(昨年“男女平等放送賞”から“両性平等放送賞”に改称された)の歴代受賞作を紹介してみよう。これまでも何度か受賞作について書いてきたが、選ばれた番組を見れば90年代末からの韓国の女性たちと社会の変化が見えてくるかもしれない。

 賞の趣旨については、以前も本欄(第1回「母さんに角がはえた」)で簡単に紹介したが、要は“両性平等に寄与した放送番組”に与える賞である。またそれを通して社会に両性平等意識を広めようという意図がある。ドラマだけでなく、ドキュメンタリーやバラエティーに至るまで、すべての番組を対象としている。賞には、大賞(大統領賞)、最優秀賞、優秀賞(ともに長官賞)、そして近年は奨励賞が加わった。

 

設立の背景

 イメージ 2この賞が設けられたのは1999年なので、正式には「女性(家族)省」が設置される前の女性特別委員会時代である。この委員会は、金大中政権の発足(1998年2月)の直後(3月)に設置された。その前は、民主化宣言(1987.6.29)後の1988年2月に発足した政務長官(第2)室という部署があった。その後、女性省の新設を公約に掲げた野党候補の金大中氏が大統領に当選して設置に至ったのである。

 この政務長官(第2)室時代、韓国の女性運動はかつてなく勢いにのっていた。80年代末から90年代末に至る約10年間は、女性運動のエンジンがフル回転していたような印象がある。1987年に韓国女性団体連合や韓国女性労働者会、女性民友会などの主要団体が次々と設立され、家族法改正運動、性暴力防止法制定運動、DV防止法制定運動、“慰安婦”問題の真相究明運動、男女雇用平等法改正運動などが活発に展開された。

 イメージ 31995年の北京国連世界女性会議には、韓国からも飛行機をチャーターして多くの女性活動家たちが参加した。そこで採択された北京行動綱領は、韓国の女性政策に大きな影響を及ぼした。メディアに関していえば、北京行動綱領に<女性とメディア>の戦略目標が含まれたのを受けて、韓国政府は1995年10月に<女性の社会参与拡大のための10大課題>を発表した。また、同年12月に制定された女性発展基本法では、第28条に「大衆メディアの性差別改善」を掲げている。

 政府の外郭団体である韓国女性開発院(現、韓国女性政策研究院)が、大衆メディアと女性差別に関する研究に着手したのもこの頃である。韓国女性開発院「大衆メディアの女性差別指標開発―テレビジョンを中心に」(1996)や、キム・ヤンヒ、ミン・インチョル「テレビジョンドラマと広告のジェンダー平等性の影響分析」韓国女性開発院(1997)などの研究がある。また、女性民友会は1998年にメディア運動本部を設置し、各種メディアのモニター活動をはじめ放送委員会や各放送局への提案、世論を喚起するための活動など、様々な活動を行うようになった。

 イメージ 4賞の設置に至る詳しい経緯についてはもう少し調べる余地があるが、こうした流れの中で、金大中政権が発足し、政務長官(第2)室が大統領直属の女性特別委員会に格上げされ、メディアの女性差別に対する取り組みの一環としてこの放送賞が設置されたのである。女性特別委員会は、同じく金大中政権下の2001年に女性省として独立した(写真は女性省初代長官、韓明淑[ハンミョンスク])。その後、盧武鉉政権下の2005年に女性家族省となり、李明博政権下ではいったん女性省に縮小された。だが、再度女性家族省となって今日に至っている。

 

歴代受賞作品

 1999年には男女平等賞として出発し、放送と教育部門に分かれていた。下のリストは放送部門に限ったものである。放送部門も娯楽部門、報道と教養部門とに分けて審査した。第一段階は、女性団体連合の女性メディアセンター、女性団体協議会のモニターチーム、民主化言論運動市民連合の三団体がそれぞれにこれという番組を推薦し、それを6人の専門審査委員が審査したそうである(「嶺南日報」1999.12.10)。

 少し調べて、下記のような受賞作リストを作成してみた。少しもれているものもある。全体を通して見ると、受賞作の多くはドキュメンタリー、時事教養番組である。ドラマは20%に満たないけれども、2001年から5年連続で大賞を受賞しているのは興味深い。また、戸主制や“未婚の母”、性別役割分業、少子化、性暴力、性売買問題など、多様なテーマが取り上げられている。

両性平等放送賞歴代受賞作 [*印はこの連載で取り上げたドラマ]

年度/回

              主な受賞作

1999

第1回

大賞

KBS日曜スペシャル<21世紀希望の条件>第3編「家族の未来-女性はどこへ行くのか」

最優秀賞

①SBSドラマ「カイスト」KAIST(韓国科学技術院)

②KBS <20世紀の韓国史―解放>中「性の解放」

優秀賞

①KBS 2TV<パワーインタビュー、ソ・ジンギュ編>

②MBCミニシリーズ「最後の戦争」

③SBS<それが知りたい-未婚の母という名の母親たち>

④MBC<ノンフィクション11-アジュンマ、その哀しい自画像>

2000

第2回

大賞

EBS「未来トーク2000」ドキュメンタリー「母親が消える」

最優秀賞

①SBSドラマ「白丁の娘」*

②SBS「生命の奇跡」

優秀賞

①MBCドラマ「クッキ」

②KBS夫婦クリニック<愛と戦争>「実家の父」編

③EBS「女性の世紀が明けた」

④MBC「女性は生まれてもくるな」

2001

第3回

大賞

MBCドラマ「アジュンマ」

最優秀賞

①KBS<追跡60分>「戸主制、なぜ法の審判台に上ったのか」

②EBS「三色トーク 女」

優秀賞

①MBC<PD手帳>「隠された犯罪、女性障害者性暴力」

②SBS「女性万歳」ほか

2002

第4回

大賞

MBCドラマ「僕はなぜパパと姓が違うの?」

最優秀賞

<MBCスペシャル>フジテレビ共同企画ドキュ「女性、仕事と愛」

優秀賞

①京仁放送「ルポ・時代共感-育児休職、まだ先のはなし」

②大田MBC「女性時代-幸せな世渡り」

③KBS「イミョンスク弁護士の家庭裁判所-女性と法」

④EBS「学校ものがたり―女学生天下」

2003

第5回

大賞

KBSドラマ「黄色いハンカチ」*

最優秀賞

CBS「21世紀の保育、百年の大計、未来は子どもたちにかかっている」

優秀賞

①全州放送「男女を越えて、私たちは同期-副士官任官108日間の記録」

②京仁放送「女性の日特集2003女たちの選択」

③KBS「女性生理用ナプキン、免税せよ!」他

2004

第6回

大賞

MBCドラマ「大長今」

最優秀賞

①KBS「出産ストライキ-女性たちはなぜ子どもを産まないのか?」

②SBS「私の妻、私の思い通りにできる?-妻への強かんと夫婦の性」

優秀賞

①KBS「私たちは前借金の奴隷だった-風俗店従業員たちの反乱」

②KBS<特別企画>“女性”2部作「平等に向かう長い道程」編ほか1

③KBS<日曜スペ>「“女子”-新しく書く家族のものがたり」

④MBC<PD手帳>「危機の女性ホームレス」

2005

第7回

大賞

MBCドラマ「かんばれ!クムスン」*

最優秀賞

①MBC<PD手帳>「強姦罪を改革せよ」

②SBS<2005女性週間特集>「新家族時代の女性」

優秀賞

①SBS<それが知りたい>「離婚、そして財産紛争」

②KBS<追跡60分>「私は脱出した―ある性売買女性の告白」

③江原民放GTB<特別企画>「美しい共存―第8編彼女たちの選択 母性」

④MBCラジオ<女性時代>「威風堂々ヨンジャ氏」

2006

第8回

大賞

KBS<9時のニュース>「少子化克服の知恵」

最優秀賞

①KBS「ラブインアシア」

②EBS「私は今日、花をもらいました」

優秀賞

①MBC<PD手帳>「私は生きたかった」

②KNN「性売買青少年ヘジニ、もう私も笑える」

③KBS<主婦、世の中を語ろう>「性暴を追放しましょう」、

④仏教放送「障害女性の性」

2007

第9回

大賞

KBSスペシャル「あなたたちのスーパーウーマン」

最優秀賞

①MBC「ミススウェーデンとビキニスキャンダル」

②EBS<知識チャンネルe>「あなたが悪いんじゃない」

優秀賞

①MBCドラマ「朱蒙」

②清州MBC特集「韓国人初の女性飛行士クォン・ギオク」

③GTB「老夫婦ヒマラヤ紀行 銀色の同行」

④SBS<ニュース追跡>「母を選んだ少女、リトルママ、チニ」

2008

第10回

大賞

KBS<時事企画サム>「スポーツと性暴力に対する人権報告書」

最優秀賞

①KBSドラマ「母さんに角がはえた」*

②EBS<人間探求>「子どもの私生活 第1部、男と女」

優秀賞

①SBS<それが知りたい>「Missママたちの挑戦」

②欝山MBC<ゲームショー>「スーパーアジュンマ」

③KBS<イヨンドンPDの消費者告発>「魔法にかかったプール」ほか

2009

第11回

大賞

KBS<30分ドキュ>「家事をする夫たち」

最優秀賞

①EBS<知識チャンネルe>「世の中で最も創意的な職業」、

②全州MBCニュース「女性が暮らしやすい都市」

優秀賞

①SBS<8時のニュース>「家族が希望だ」

②SBSドラマ「家門の光栄」

③KBS2「8時ニュースタイム」

④東亜TV「シングルママ ストーリー」

2010

第12回

大賞

OBSストーリー時事<春>「ミスママ、閉じられた校門を開いて」

最優秀賞

①釜山MBC「0.88の自画像」

②KBS学校体育改革特集「美女たちの反乱」

優秀賞

①SBSスペシャル「ブラジャーしてますか?」

②KBSクールFM放送<特別企画>「私たちが愛するDIVA」

③KBSニュース9「ベトナム新婦殺害事件 初めての連続報道」

奨励賞

①KBS<生放送 今日>「少子化と女性育児の未来」

②SBSドラマ「産婦人科」

③MBC<キムヘスのW>「この世で最も幼い離婚女性、10歳ヌジュド」「ニュージーランド、10代未婚の母のための学校」ほか

④SBS<それが知りたい>「私の父を告発します-親族性暴力のくびき」

⑤BBS<多文化家庭特別企画>「私たちは家族です」

2011

第13回

大賞

KBSラジオ<幸せな朝、ワンヨンウンとイサンウ>「健康な家庭プロジェクトー台所に入った雄鶏」

最優秀賞

①MBC PD手帳「免罪される教師の性暴力」

②EBSドキュプライム「マザーショック」

優秀賞

①SBSスペシャル<産後処理の秘密>

②KBS特別企画「彼女たちのプレイ」

③UBC5月 家庭の月特集ドキュ「もう一つの家族」

2012

第14回

大賞

SBS<現場21>「独立有功者の資格」

最優秀賞

①KBSドラマ「棚ぼたのあなた」*

②EBSドキュプライム「心理ドキュ-男」

優秀賞

①<時事企画 窓>「妊娠してはだめですか」

②<時事企画 インサイド>「感情労働者、顧客は王様か?」ほか

奨励賞

①MBC<ラジオドキュ>「一つ屋根の五家族、希望を語る」

②TV朝鮮スペシャル「アジア、女性が未来だ」

③tvN<ペク・ジヨンのピープルインサイド>「ソウル大 性暴力被害者 放送初 心境告白」

④全州MBC<HD特別企画>「グローバルプロジェクト 女性親和都市」

⑤KBS<取材ファイル4321>「結婚しなくても私はママ」

大賞と最優秀賞くらいは、日本でも紹介されればよいと思うが、何か方法はないだろうか?

まだ本欄で取り上げていないドラマ受賞作については、次回以降紹介しようと思う。

写真出典

http://www.womennews.co.kr/news/33315

http://www.womennews.co.kr/news/22687

http://www.donga.com/docs/magazine/woman_donga/200204/people01.html

カテゴリー:女たちの韓流

タグ:ドラマ / 韓流 / 男女平等 / 山下英愛