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ただちに命を守る行動を~防災訓練と原発事故避難計画 桜川ちはや

2013.10.01 Tue

                           脱・原発 岩手から発信せよ! NO.11

 「過去に経験のない」「観測史上最高の」「今世紀最大の」「1000年に1度の」「想像をはるかに超える」などの修飾語が最近よく付けられる自然災害が目立ってきたように思いませんか?地震・火事・津波・大雨・洪水など自然災害の防災対策が、見直されてきています。

 東日本大震災では、岩手県釜石市の鵜住(うのすまい)地区は、防災センターごと避難した人たちが流されました。ふだんの防災訓練をそこで行っていたので、3月11日も、そこへ逃げたのですが、防災センターは、低い場所にあり、本当の津波が来たら、やられてしまうので、その場合は、別の避難所へ、逃げるように言われていたのです。平常時の訓練で、高齢者や幼児がが、避難道路を登っていくのは、かなりの負担になりますから、「訓練」ではそれでよかったと思っていたのが、あだとなりました。

 

釜石市長が報酬3%減 防災センター津波で市の責任指摘され

  東日本大震災の津波で、指定避難所ではなかったのに多数の市民らが避難し犠牲者が出た岩手県釜石市の鵜住居地区防災センターに関する調査委員会が市の責任を指摘したことを受け、野田武則市長は5日、残り任期の報酬を3%減額する意向を表明した。市議会の議決を経て、9月にも減額を開始する。

  野田市長は記者会見で「十分とは言えないかもしれないが、遺族には誠意として受け止めてほしい」と述べた。

  市長の任期は平成27年11月までで、月額報酬は79万2千円。副市長ら市幹部も震災の風化を防ぐ取り組みへの寄付を検討し、約400人の職員にも寄付を呼び掛ける。        (2013.8.5 12:42 産経HPより)

 

「非常時には、普段の習慣を取っ払い、臨機応変に行動する」というとっさの判断を誤ったために、どれだけの人たちが命を落としたでしょう。

津波が来る海岸から逃げるのに、車に乗り込み、道路に出たら、渋滞。こんなときは海へ向かう人などいないのだから、反対車線を走ればいいものを、クラクションを鳴らしながら、お行儀よく片側に並んでしまい、信号も守って止まっていて、車ごと流された人たち。まずは、自宅に戻って、貴重品やら、生活用品を運ぼうとして、逃げ遅れた人たち。津波が少しおさまったときに飛び出していって津波の第二波の前に、流された人たち。

宮古3 学校では、子どもたちを一旦机の下に隠れさせて、放送を聞いて校庭に出て、整列して、点呼して訓練マニュアル通りの教員の指導のために、津波から逃げ遅れた児童生徒。学校裏の土手をよじ登り、川から離れて山に逃げれば助かったものを、普段の避難経路をきちんと守って、あえて子どもたちを下流の海に近い橋を渡り避難させてしまった小学校。災害が起こったら、まずは、保護者に子どもを返すという判断で、緊急帰宅させるという訓練通りに、園児をバスに乗せて走らせ、バスごと流されてしまった幼稚園・・・・・。

    首都圏でも、電車も止まり、不通になっているにもかかわらず、東京港区や、横浜など海に近い場所なのに、地下の改札口前には、人が殺到し、あふれかえり、駅員に事情説明を要求し、怒りだす人々がいました。

3.11以降、避難を呼びかける放送は、「ただちに命を守る行動に移してください」に変わりました。震災以来たびたび起こる大きな余震では、その都度この放送を耳にした人は、「とにもかくにも我が身を守れ!てんでんこ(それぞれ各自が最善を尽くして命をを守る)」を肝に銘じるようになったのです。

 

岩手県の学校では、震災以降、「復興教育」がおこなわれています。

命・・・命の尊さ・生きる希望、夢、たくましさ

絆・・・家族・共感・支え合い

自然・・・災害発生のメカニズム

社会・・・情報の活用と伝達

技・・・学校で・身を守る

 

この5つの大きな柱で、そこに各教科指導や、キャリア教育・防災教育・地域の交流・健康教育・道徳教育・ボランティア教育など取り入れて行きます。

 

184人の児童全員が下校後、ばらばらの場所に居ながら、自力で巨大津波を生き延びた、岩手県の釜石小学校。大人顔負けの「判断力」や「想像力」で危機を乗り切った子どもたちの体験は、防災の視点だけでなく「危機対応」のモデルケースとして国内外で注目を集め、“釜石の奇跡”とも呼ばれています。子どもたちの学校教育の中に、防災教育を徹底して取り入れ、沿岸で生きる者として、日ごろから防災意識を高めてきた学校です。町内会や子ども会など地域でも、防災カルタや、ハザードマップの作成をし、スマトラ沖地震の津波映像を見せ、かつての三陸大津波の体験を語り継いできた大人たちがいました。

釜石の知人の話では、「まだ大丈夫だ」といって、自宅にいようとしたり、地震で散らかった部屋を片付け始めたり、海から近いビルに逃げようとした大人たちに、子どもたちが、「逃げなきゃだめだ!」と連れ出して、高台の避難場所へ向かったおかげで、命拾いした方が多くいたそうです。また、一人では走れない保育園児や小学校低学年を中学生たちが助けながら、避難する訓練も地域の学校連携で行っていたために助かった子どもたちも大勢いました。

このように、子どものころからの、日ごろの訓練がいかに大切であるか。釜石だけではなく、岩手県三陸沿岸地域では、津波対策は、されてきましたが、今回の体験を生かして、様々な取り組みが前にもまして、強化されるようになってきました。

我が家でも、食料や、水の備蓄も行い、貴重品や現金をすぐに持ちだせるようにまとめ、家族で、緊急時には、近所の避難所指定となっている中学校へ各自が避難するようにと共通意識を持ちました。

 

さて、その「災害」の中身ですが、我が家は、内陸の盛岡市内、市街地に近い高台にありますから、津波の心配はありません。起こるとすれば、地震・火災・土砂災害、停電断水などライフラインのストップから起こる支障。ただ、全く想定も、対策も出来ていないことがあります。それは、「原発事故の放射能避難対策」です。

地震と原発地図岩手県は、原発がないから大丈夫というわけにはいかないことは、日本列島に点在する原発の地図を見れば、だれもがもう分かるはずです。しかもほとんどが海沿いにありますから、津波被害の危険も大きいです。加えて、岩手の隣県、青森県六ケ所村には、超高濃度の放射性物質を含んだ核燃料サイクル施設があります。原発施設を中心に半径30キロ圏内に円を書いたら、50キロ圏内にしてみたら、ホットスポットも予想してみたら、あららら日本列島をすっぽり覆ってしまいます。

原子力発電の導入に際し、もし、何らかの事故が起こった場合、どのような防災避難対策が必要なのか、全くと言っていいほど国民には知らされていませんでした。

今回の事故で、放射能汚染地域では、避難が長期にわたると知らされていなかったために、ほとんどの人が、きのみ着のままで一時避難し、その後の生活が大変困難なものとなりました。病人や障害を持った人をどこにどうやって避難させるのかも、図られておらず、受けいれ先がないままさまよい、避難途中で亡くなった方も何人もいました。

甲状腺被ばくを抑えるヨウ素剤を備蓄、配布する準備も、また放射能事故に対する危機意識も希薄でした。だから、事故現場から離れているから大丈夫と、ホットスポットに避難してしまったり、そこで、何も対策せずに普段通りの暮らしをしてしまって、後で線量の高いことを知らされ、戸惑うこともありました。

大規模な大量放射能事故が発生した場合の地域防災計画が、原発を推進するならば重要だったわけです。

いつ起こるかもわからない自然災害と違って、放射能事故は、予想が出来るはずです。

原子力発電所の再稼動に際して、被害想定・シミュレーションぐらいさまざまな条件を設定すれば、容易にできるはずで、それを示さないということが大きな問題です。自然災害は誰にも責任が及ばないが、原子力発電所の事故は人為災害になるので、できるだけ責任を回避したいというのが本音だったのでしょうか。

 

滋賀県が、隣接する福井県の原発で事故が起きた場合のシミュレーションを独自に行ったところ、風向きによっては県内のほぼ全域で、50ミリシーベルト以上の放射性物質が拡散するおそれがあるという結果が出ました。滋賀県は万一の原発事故に備えて、甲状腺被ばくを防ぐヨウ素剤を、40歳未満のすべての県民に行き渡るよう、およそ70万人分備蓄する方向で検討しています。
都道府県単位で全域を対象にしたヨウ素剤の備蓄は全国で初めてだということです。

実施するには数百万円の費用がかかる見込みで、滋賀県は国に対しても負担を求めていきたいとしています。(NHKニュース2012年8月18日)

 

原発を誘致すれば、実際、多数の定住者や数百とも数千ともといわれる雇用効果、固定資産税や定住者の所得税などの税収、各種交付金、それらのもたらす商業の活性化や道路・体育館・文化施設・防災無線など公共施設の充実等という非常に大きな効果があり、さらに原発の見学者による観光収入も見込むことができるとされてきました。

経済産業省資源エネルギー庁はモデルケースとして、出力135万kWの原子力発電所(環境調査期間:3年間、建設期間:7年間、建設費:4,500億円)の立地にともなう財源効果を2004年に試算していますが、環境影響評価開始の翌年度から運転開始までの10年間で合計約391億円、その後運転開始の翌年度から10年間で合計約502億円です。20年間では、電源立地地域対策交付金が545億円、固定資産税が348億円で、合計約893億円になるといいます。安全でクリーンなエネルギーだと巨額のコマーシャル宣伝がされました。過疎化が進む地方にとっては、甘くて美味い有りがたいお話でした。

ところが、日本原子力発電(電力会社9社が出資する企業)によると、標準的な原子炉1基の解体から放射性廃棄物の処分までに必要な廃炉費用が、2002年6月の段階で約550億円といわれていました。これだけで現在52基ある商用原発をすべて廃炉にするとなると、約3兆円かかることになります。これは東海第二原発・出力111.1万kwをモデルにした試算で、モデルでは解体費用が388億円、原子炉圧力容器などの放射性廃棄物の処理・処分費用が157億円、合計で545億円という見積もりを根拠にしています。これらのことは全く宣伝費をかけずに、知られていませんでした。というより、知らせないようにしていましたかな。
 しかし、実際に解体が始まっている、東海原発出力16.6万kwの場合、解体に約350億円、廃棄物の処分に約580億円、合わせて約930億円もの見積もりがなされています。なんともアバウトな見積もり。

 

老朽化した原発施設の産業廃棄物の処理方法、その作業を被ばくのリスクを背負って行う労働者の確保、停止中の冷却作業に伴うリスクなどまだまだ未解決の問題が山済みです。

原発から放出される放射性物質がなくなるまでの、とてつもない歳月を考えれば、未来の子どもたちに私たちが出来ることのひとつに、具体的な原発事故対策が挙げられるべきです。地域の人口分布と地理に応じた避難の交通手段、避難経路、避難先の確保。病院や、施設、在宅の要看護・介護者の把握、避難先の乳幼児・高齢者などの災害者の避難対策。家畜や、ペット、競技用動物、動物園の動物たちの対策なども含まれるでしょう。このように考えれば、全住民避難が困難な地域もでてくるでしょう。現在の時点でこの対策にのり出している自治体は、先の滋賀県のほかまだないようです。

 

先人の知恵を生かして、後世のこどもたちに津波災害対策を常に行っていた岩手三陸地方の大人たちがしてきたように、3.11の福島原発事故を体験した私たちは、「ただちに命をまもる対策」をしなければなりません。それができて、初めて、原発の許容如何の判断がなされるのです。湯水のように電気を使い、直接的間接的にでも原発経済で潤ってきた日本国民の一人としての責任を誰もが自覚し、なんらかの自分のできる行動に移していかなければ。                               
                                         (2013.9.28 記)

追記:前回の記事に関連して、動物茶話会を開催することになりました。
動物茶話会チラシはこちらからどうぞ。
ご関心をお寄せいただければ幸いです。

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シリーズ「脱原発 岩手から発信せよ」は、毎月月初めにアップ予定です。 シリーズをまとめて読まれる方はこちらからどうぞ。

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