2013.12.09 Mon
最近、つくづくアメリカ社会の性暴力への取り組み方が進歩していることに驚かされます。性暴力の被害をメディアを通して可視化して、被害者の再生を社会全体で後押ししていこう動きです。
歴史を遡ると、400年前にレイプ被害と闘った女性がおりました。イタリアの女流画家・アルテミジア・ジェンティレスキです。
シカゴ美術館で、彼女が描いた《ホロフェルネスの首を斬るユディト》の特別展が開催されています(2013年12月5日現在)。ジェンティレスキは、17世紀に活躍しました。同作品は旧約聖書の『ユディト記』のエピソードを題材にして描かれたもの。ユディトがユダヤの民を守るために、召使とともに敵将・ホロフェルネスを葬るという、残酷で大胆な世界を作り上げました。そのあまりの恐ろしさに、当時は高い評価は得られなかったといいます。(シカゴ美術館のURL: http://www.artic.edu/)
時代が変わり、この数十年間、フェミニストたちによってこの作品は再評価され始めました。ジェンティレスキがレイプの被害者であることから、同作品はレイプに対する復讐をイメージしたものではないかとも解釈されています。
果敢にも、ジェンティレスキは被害を告発し裁判に発展しますが、その昔は被害者に対する心のケアなどなく、むしろレイプは真実なのか“確認するため”に、被害者であるはずの彼女は心身ともに辱めを受けたあげく、加害者は罰せられませんでした。こうした苦難にめげず、ジェンティレスキは初の女性として、名門アカデミア・デル・ディゼーニョ(現フィレンツェ美術学校)に入学しキャリアアップをしていきます。
この特別展のタイトルは「Violence and Virtue(暴力と善)」。暴力と善は表裏一体であることを考えさせられました。
さて今年5月、オハイオ州クリーブランドで発覚した誘拐監禁事件をご記憶の方も多いと思います。
これまでに何回かレイプの被害者が堂々とメディアに登場し、被害状況を語るという番組を観て衝撃を受けました。なかでも、圧倒されたのが、クリーブランド監禁事件の被害者ミシェル・ナイトのインタビューです。11月5、6日の2日間に亘り、CBSで放映されました。有名な精神科医のトーク番組内でインタビューに応じたものです(You Tubeで視聴可能)。加害者のアリエル・カストロは収監された後、自殺しています。
取材に応じたナイトは、3人の被害者のなかでも最も長い11年間監禁され、レイプ、度々の妊娠と強制的で暴力的な堕胎に耐え抜きました。何度か逃亡を試みましたが、失敗し、その度に懲罰としてカストロの暴力はエスカレートしていきました。
カストロはナイトに対して、「お前が憎い」と言っていたそうです。理由は、「服従しないし、アンブレイカブル(unbreakable)」であるから。カストロの犯行は、性欲などによるものでなく、パワーのはけ口になる弱者を“鎖でつなぎ、暴力というパワーを媒介にして服従させる“という、まさにジェンダー学でいうところの「性暴力はパワーにより自らの欲求を満たす行為」であることを確信させた事件でした。
アメリカでは性暴力の被害者が堂々と被害の状況を語り始め、社会的な支持を得て再生に向けて歩み始めています。報道されない中傷もあるのでしょうが、被害者を保護しエールを送ろうという社会的正義感が悪意を上回っているように感じます。
この社会がここまで到達するには、大勢の女性たちが犠牲になりました。それでも、「性暴力はなくならない。ならば、性暴力への固定観念を変えなければ」。アメリカ女性たちによる新たな革命は、レイプ—女性が克服するには最も困難な犯罪—も凌駕しつつあります。
カテゴリー:投稿エッセイ
タグ:アート / アメリカ / フェミニスト / 性暴力 / レイプ / 勝海志のぶ / シカゴ / アルテミジア・ジェンティレスキ
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