2014.05.25 Sun
特別企画 『8月の家族たち』
ウィメンズ・アクション・ネットワーク(WAN)の女たちが、公開中の旬の映画を語るウェブ座談会。後編では、他のC-WANスタッフも参入し、前編を読んだ感想や気になったことを伝えます。
▶座談会前編はこちら
※一部、映画の内容に言及している箇所がありますのでご注意ください。
座談会(後編)開催日時:2014年5月12日(月)21:00~5月18日(日)22:00
参加者:C-WANチーフ:川口 恵子、サブチーフ:中村 奈津子・宮本 明子、メンバー:仁生 碧、松口 かおり、杜 葉子、山田 祥子
――母親ヴァイオレットの怒りと苦しみ
山田 非常にスリリングな座談会で感動しました。次女アイヴィーと従兄弟のリトル・チャールズの関係を絶妙なタイミングで爆弾発言する母親ヴァイオレットの長い間の怒りと苦しみははかりしれません。これから、アイヴィーとリトル・チャールズの苦しみが始まるのですね。つらいです。
川口 山田さんのいう「怒りや苦しみ」もトラウマと関係しているのではないでしょうか。
この劇作家は自分自身、舞台俳優として活躍していて、最近ではブロードウェイでエドワード・オルビーの『ヴァージニア・ウルフなんかこわくない』の舞台に立ち、トニー賞の助演男優賞を得ているのですが、他の役者なら弱気なダメ男的キャラクターとして演じる夫ジョージ役を、突発的な怒りの発作を起こす人物として演じ評価されたようです。メリル・ストリープ演じるヴァイオレットのマグマ的な怒りの発作もまた、この劇作家自身の「怒り」を反映させたものかもしれませんね。
中村 わたしも、前編の座談会でのやり取りを拝見し、とてもワクワクしました!
前編でも語られていますが、わたしが、ヴァイオレットと長女バーバラのやりとりで印象的だったのは、ヴァイオレットが「父親がいなくなったら飛んできたくせに、わたしが癌になったときは顔も見せなかった」(記憶があいまいです)と吐き出したセリフです。夫と娘バーバラとの関係性や複雑な感情が吐露されたように思えて、わたしはむしろ母親ヴァイオレット側に共感したシーンでした。
松口 中村さんがとりあげてくださったセリフ、私も感じるものがありました。ヴァイオレットのような支配的で強い母親がいる家庭では、弱い者(父親、子どもたち)同士だからこそわかり合える共感や連帯感があるのかもしれませんね。そして、それに対して母親は疎外感を感じているのでしょう。
――世代を超えた連鎖
松口 この映画を見て私が気になった点は二つありました。
支配的、シニカルな性格、言葉の暴力、制御できない怒り、と いった家庭環境およびそれによって培われた性格と行動様式は、やはり世代を超えて連鎖していくものなのかなぁ、ということ。ヴァイオレットが自分の母親から受けた仕打ち、バーバラと娘ジーン(写真右)・夫ビル(写真上、中央)との関係など見ていると、同じことを繰り返しているようにも見えます。
二つ目の気になった点は、山田さんがおっしゃったようにアイヴィーとリトル・チャールズのそれから。一緒にいて心から安らげるパートナーをやっと見つけたのなら、結婚という形はとらなくても一緒にいていいんじゃないかなぁ。子宮頚部癌手術で子供は産めないとアイヴィーは言っていたしねぇ。
――ラストシーン
杜 前編を読んでぜひ見たいと思っていましたが、ようやく映画を観ました。
私が気になった点は二点。
ひとつは、オクラホマ州という地域の特殊性について。川口さんの解説は解り易かったです。私も地方の小さな市に住んでいて、車で町まで行く何もない平原は自分と重ね合わせこれからの日本の田舎の行く末としてみていました。
もうひとつは、ヴァイオレットの葬儀の後のディナー場面での発言も初めはちょっと辛かったですが、孤独な人生が語られていくうちに、彼女の人生の辛さを感じていき、どこへも行けないラストシーンが印象に残りました。
中村 ヴァイオレットの疎外感は、そうですね。バーバラが夫ベバリーのお気に入りだったこともありますよね。ベバリーと妹マーゴの裏切りもありましたし。支配的に強くふるまわないと、自分を保てなかったのでしょうか。
それから、松口さんのご意見の「性格と行動様式の世代を超えた連鎖」というのは、今回3姉妹という設定によって、よりあからさまに存在しているように見えました。母から娘が受け取ってしまう暴力性(の裏側にあるもろさも)は、当人がそうと気づいても気づかなくても、簡単には乗り越えられない痛みなんだろうな…、と思いながら見ていました。ラストのヴァイオレットの孤独と同じくらい、3姉妹の訣別がわたしには切なかったです。
宮本 母と娘という論点から出発した座談会前編から、後編では母親やそれを取り巻く登場人物へと、みなさんから多くの 視点を提示していただけました。母親が感じていたであろう疎外感は、彼女に声をあげられないでいる人たちの存在によってより際だっているようで、わたしも見ていてつらいところがありました。そして、前半では川口さんも提示してくださった、この 映画にみとめられる連鎖について。渦中にいる彼女たちがどうそれと対峙し「訣別」しようとするのか、最後まで目が離せない作品です。
構成・文責:宮本 明子
参加者紹介:
川口 恵子 50代、大学講師。 映画研究・批評。 社会人となった一男一女の母でもあります。この数年、映画巡礼の旅にはまっています。
中村 奈津子 40代、NPO法人理事。C-WANのDVD紹介記事を取りまとめています。ミニシアターで映画を見ることが好きです。
仁生 碧 「映画の中の女たち」のコーナーを担当。年間50~60本映画を観ます。監督の美意識が感じられるような作品が好きです。
松口 かおり 50代、主婦。気分転換にいろいろなジャンルの映画を見ます。考えさせられる作品も結構好きです。
杜 葉子 50代、主婦。観終わったあとに、自分の暮らしの中に溶け込むまで何度も思い出す、そんな映画に出会えるのを楽しみにしています。
山田 祥子 50代、NPO法人スタッフ。ぎふアジア映画祭の市民スタッフで作品選定やトークイベント企画を担当。仲間と香港、韓国、台湾などで映画めぐりしてます。
宮本 明子 30代、大学勤務。映画はもちろん、映画館に入るとき、出るときのふとした時間がすきです。
『8月の家族たち』公式HPはこちら
© 2013 AUGUST OC FILMS, INC. All Rights Reserved.
2014年4月18日よりTOHOシネマズ シャンテほかロードショー
特別企画関連記事:「『8月の家族たち』 怪物的な母親像をメリル・ストリープが熱演―背後に「父と息子」の物語」はこちら
特別企画関連記事:「映画の中の女たち(6)周りを従わせる女 『8月の家族たち』/バイオレットとバーバラ」はこちら
特別企画関連記事:「『8月の家族たち』をめぐって 『こわい』母親像」はこちら
カテゴリー:新作映画評・エッセイ / 特集・シリーズ / 映画を語る
タグ:非婚・結婚・離婚 / くらし・生活 / 子育て・教育 / ファッション / 映画 / 家族 / DV / 介護 / 母と娘 / 多様な家族 / 姉妹 / 母子関係 / 中村奈津子 / 川口恵子 / メリル・ストリープ / 松口かおり / アメリカ映画 / 山田祥子 / 宮本明子 / 女性表象 / 仁生碧 / 女と映画 / ジョン・ウェルズ / 杜葉子 / ジュリア・ロバーツ / ウェブ座談会
慰安婦
貧困・福祉
DV・性暴力・ハラスメント
非婚・結婚・離婚
セクシュアリティ
くらし・生活
身体・健康
リプロ・ヘルス
脱原発
女性政策
憲法・平和
高齢社会
子育て・教育
性表現
LGBT
最終講義
博士論文
研究助成・公募
アート情報
女性運動・グループ
フェミニストカウンセリング
弁護士
女性センター
セレクトニュース
マスコミが騒がないニュース
女の本屋
ブックトーク
シネマラウンジ
ミニコミ図書館
エッセイ
WAN基金
お助け情報
WANマーケット
女と政治をつなぐ
Worldwide WAN
わいわいWAN
女性学講座
上野研究室
原発ゼロの道
動画









