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映画評:パガニーニ―愛と狂気の天才ヴァイオリスト 河野貴代美

2014.06.02 Mon

音楽(家)映画のすばらしさは、主題(家)にかかわる音楽が断片的とはいえ全編に流れることである。「アマデウス」や彼の姉を描いた「ナンネル・モーツアルト」はまだ記憶に新しい。

一方映画音楽もそれはそれで楽しく、音楽それ自体が、観賞した各時代の各人の感情生活(特に感傷!)をいつまでも保持する。

そこだけは色あせない情緒という宝の置き場。

 ここに紹介する本映画は音楽家映画である。18世紀後半にイタリアに生まれ、19世紀の中庸、喉頭がんでなくなるニコロ・パガニーニの、狂気のような演奏人生をなぞる。パガニーニは演奏家であるのみならず、ヴァイオリン協奏曲第一番、二番、三番、四番、五番や24のカプリースなどを作曲もしている。

パガニーニが20代前半に作曲したと言われる「ギターとヴァイオリンのためのソナタ12番」が最初の結婚で得た息子アキレウスとの情愛場面で流れる。アキレウスも一生懸命レッスンに取り組んでいる。

さて、このパガニーニを「21世紀のパガニーニ」とよばれるデイヴィッド・ギャレットが名器ストラディヴァリウスで奏でるのである。

「音楽史上、最も不道徳な男が奏でる最も美しい旋律」と宣伝文句は歌う。観客を驚愕の嵐に巻き込み「悪魔に魂を売って入手した技巧」と言われるほどの技巧をもったパガニーニは、一方で派手な女性関係やギャンブルに溺れる。パリでカジノ・パガニーニを作るものの、違法経営により警察に閉鎖され、訴訟問題に発展。

52歳で16歳のシャーロットとの駆け落ちを計画。だがこれは挫折し、シャーロットは後ニューヨークで歌手としての成功を納める。

彼のさまざまなスキャンダルを縦軸とすれば、横軸に、パガニーニのプロデューサー、ウルバーニとのやり取りが絡まる。

初期、パガニーニについていけない観客を自分の手腕で導いてみせる、と豪語。交換条件をたずねるパガニーニに、ウルバーニは「あの世で会えたら恩を返してくれ」。そして史上最高の天才ヴァイオリニストが誕生する。

解かしていないもじゃもじゃ長髪のギャレットが演じるパガニーニは、本物もかくやあらんと思わせるほどの信憑性にせまっているし、可憐なシャーロットをアンドレア・デックがよく演じている。

パガニーニの、狂気のような人生そのものについての掘り下げが少々ものたりないが、音楽自体と演奏自体でも十分と言える。

音楽と映画ファンには見逃せない作品である。

 

ちなみにデイヴィッド・ギャレットの来日公演が東京 6月21日・22日 六本木ブルーシアターで、大阪 6月23日IMPホールで行われる。
公式HPはこちらから

タイトル:パガニーニ―愛と狂気の天才ヴァイオリスト
監督/脚本/撮影:バ-ナード・ローズ
主演:パガニーニ(デイヴィット・ギャレット)、シャーロット・ワトソン(アンドレア・デック)
制作年:2013、ドイツ(英語)、122分
コピーライト:Ⓒ 2013 Summerstorm Entertainment / Dor Film / Construction Film /
Bayerischer Rundfunk / Arte. All rights reserved

7/11から、東京TOHOシネマズ シャンテ、Bunkamuraル・シネマ等で、以降全国ロードショウ。

カテゴリー:新作映画評・エッセイ

タグ:くらし・生活 / 河野貴代美 / 女とアート(映画/演劇/ドラマ/パフォーマンス/音楽/美術/絵画/写真/文学) / ドイツ映画

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