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トマトの国の元気スープ~「ガスパチョ」で酷暑を乗り切ろう!! ―スペインエッセイ 連載第15回目 中村 設子

2014.08.10 Sun

 「ほんとうに、トマティーナだなぁ~」

 好物のトマトを美味しそうに頬張る私を、カタルーニャ人の友人は目を細めながらいった。スペインでは、トマト好きの人間のことをそう呼ぶらしい。

夏の市場はトマトがいっぱい

夏の市場はトマトがいっぱい

 夏になると、八百屋さんはどこもトマトが山積にされ、天井からも所狭しとぶら下がっている。この国ではイタリア同様、トマトが大量に収穫されるのだ。

 スペインでは8月末になると、日本でもニュースになるほど有名な「トマト祭り」(西:La Tomatina)が行われる。バレンシア州にある、人口が1万にも満たない小さな街が舞台だ。

トマトまみれになって完熟トマトをぶつけ合う「トマト祭り」の光景 © Copyright 2013 Ayuntamiento de Buñol

トマトまみれになって完熟トマトをぶつけ合う「トマト祭り」の光景
© Copyright 2013 Ayuntamiento de Buñol

 狭い通りを、これでもかというほどトマトを積んだトラックが、まるで神輿のように登場し、荷台から、集まった人たちに向かって放出される。トマトを握り締め、無心にぶつけ合う人たちは、「大人気ない」という非難など、ものともしない狂喜に満ちている。

 その様子は、子どもが泥遊びに夢中になるのとよく似ている。純粋で感情にストレートな国民性そのものが露呈する祭りなのだ。
 「スペイン人は祭りのために生きている」と揶揄されることも多いが、何事も愉しんでしまえ!という徹底ぶりには、見る者を「ここまでやるか!」という感慨にも浸らせてくれる。

 今では「トマト祭り」を目当てに押し寄せる外国人も多く、住民の4~5倍もの観光客を呼び寄せるまでになっているという。かなりの経済効果も生み出しているのだ。
 もともとはこの街で、若者がトマトを投げ合ってケンカをしたことがはじまりらしいが、それを祭りにまで発展させ、トマトまみれになって大騒ぎするこの祭りを受け入れた住民たちも太っ腹だ。誰がどのようにして、トマトまみれになった通りを掃除するのだろう・・・などと心配するようでは、こんな真似はできない。

  参加しているひとたちが、頭のてっぺんからつま先まで、真っ赤なトマト色に染まり、通り全体が「トマトの湖」になっている映像には、毎度、目を見張ってしまう。さすがに「トマティーナ」で祭り好きな私も、この湖に飛び込む勇気はない。

 やっと、ここからが本題、スープの話題に入ろう。

 スペインの市場で売られているトマトは、はちきれんばかりに、真っ赤に熟している。太陽をいっぱい浴びているせいで、かじると口の中に一気に酸味と甘みがひろがる。日本のトマトのように繊細な甘さとは違って大味だが、肉厚で力強く、大地のエネルギーを感じさせる。この時季、トマトを使って、どこの家庭でも作られるのが「ガスパチョ」だ。

 作り方はいたって簡単で、トマトを主役に、季節の野菜に、塩、オリーブオイル、酢、水、パンを加え、ミキサーにかけるだけ。
  ふたり分程度なら、材料はざっと次のようになる。

<材料=おおよその目安>

・トマト3個
・きゅうり1本
・パプリカ(またはピーマン)1/2個
・玉ねぎ1/2個
・にんにく2かけ
・オリーブオイル大さじ1
・酢小さじ1(レモン汁なら大さじ1)
・塩少々

 分量はあくまでも好みだが、後はブラックペッパーやタバスコを入れると味がひきしまる。酢やレモン汁を増やせば、さっぱり感が強くなる。パンの量も適宜だが、当然、量が多いととろみが増す。私はパプリカのほんのり甘い味が好きなので、多めに入れるようにしている。

  スペインでは残って硬くなったパンの有効な活用法としても考えられたに違いないが、もちろん食パンで代用することもできる。
 歯ごたえを愉しむには、野菜を少量、浮きみ代わりにトッピングするのもよく、清涼感がアップする。レストランなどでは、結構、おしゃれにトマトやきゅうりの細かな角切りが盛られている。

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生野菜を添えた「ガスパチョ」が出てきた。レストランでの昼食

 トマトは抗酸化野菜の王者、それに抗がん野菜で知られるにんにくやたまねぎもとれる。きゅうりはそのほとんどが水分だが、ミネラルが含まれている。オリーブオイルには他の植物油と比べてもビタミンEが断然多い。汗で体力を消耗するこの時期、ビタミンやミネラルをいっぺんに補給できる優れたメニューだといえる。

 冷たく冷やして口あたりの良い「ガスパチョ」があれば、自然と食欲も出てくる。さらに肉や魚でたんぱく質をとれば、食事の栄養のバランスもいい。朝はパンとともに、夕食にはサラダがわりにもなって、とても重宝する。

 スペインの夏には欠かせない「ガスパチョ」は、南部のアンダルシア地方で生まれたといわれている。
この地方では、真夏の日中は40度近くになる。そのため、太陽がガンガン照りつけているときは、ほとんど出歩く人がいない。
 日本のように炎天下で、子どもたちがサッカーなどのスポーツで汗を流していることもない。なるべく日中は、直射日光にあたらないように気をつけ、昼食後は「シィエスタ」と呼ばれる昼寝の習慣を大切にしているのだ。

 よく考えてみれば、最近の日本は、アンダルシアに負けず劣らず猛暑が続いている。日本では「シェスタ」は無理だとしても、口当たりが良く、栄養価の高いこのスープは健康に役に立つことうけあいだ。
 残念ながら、トマトを投げて祭りにしてしまうほど大量に収穫できるスペインと違って、日本ではトマトの価格が高いのが最大のネックになる。安価な缶詰を使う手もあるが、どうしてもやはりフレッシュ感にかけてしまう。
 それだけに、たまに八百屋さんの店先で、崩れかかった完熟のトマトが、「煮込み用」として、びっくりするほど安く売られているのを見つけたら、私は飛びつくように「即買い」する。

これで、この日は「ガスパチョに決まり!」なのだ。

カテゴリー:スペインエッセイ

タグ: / スペイン / 中村設子