2014.11.20 Thu
好天秋日、のんびりゆったり、奥びわこの高月町雨森にある「雨森芳洲庵」を訪ねた。
ふぇみん滋賀支部が組んでくださった小さな旅。辻原登著『韃靼の馬』を読み、対馬と近江のつながりを知りたいと東京からやってきた人。「朝鮮通信使」が通行した瀬戸内の上関で今、反原発を闘っている人。そしてお隣の京都から。総勢15名が米原に集合。
雨森芳洲庵の門をくぐると幹の周り6.6メートルものケヤキの大木に出会う。集落の道々の水路には四季折々の花が絶えない。東アジア交流ハウス雨森芳洲庵の名物館長・平井茂彦氏が出迎えてくださった。
秋の陽があったかい中庭でお茶を一服。長く歴史から消えていた「朝鮮通信使」の史実も今は教科書に載り、センター試験にも出題される。異国の華やかな行列を、まるで目の前に見るような思いで、ユーモアたっぷりの館長のお話を聴く。
庵をあとにしてバスで渡岸寺の十一面観音、木之本地蔵を訪ねる。夕刻に長浜へ。秋の日は釣瓶落としの如し。夕暮れの湖北に、まぶしい大きな夕日がストンと湖面に沈む。
鎖国の江戸時代。「朝鮮通信使」は200年間に12回も、朝鮮国から日本へ、公式使節団として漢城(ソウル)と江戸の間を往復した。室町に始まり、秀吉の朝鮮出兵で途絶えていたが、再び江戸期に復活する。全長43メートルにも及ぶ行列図巻を、大阪万博の年、辛基秀氏が偶然、古書市で発見し、長く忘れられていた歴史が蘇ることになる。後に辛氏は記録映画「江戸時代の朝鮮通信使」を制作し、辛基秀コレクションは大阪歴史博物館に所蔵されている。
李氏朝鮮と江戸幕府を仲介した対馬藩にあって、外交官として活躍したのが近江出身の雨森芳洲だ。幼少より木下順庵に朱子学を学び、新井白石と並んで「詩の白石、文の芳洲」と称される。木下順庵の推挙で対馬藩へ仕官。朝鮮語と中国語を深く学んだ学識と教養で対馬藩「朝鮮方(朝鮮御支配)佐役」に抜擢されることになる。
朝鮮との外交や貿易を進める対馬藩は釜山に広大な倭館をおいていた。海外への往来も居住も禁じられていた江戸時代に幕府公認の日本人村もあったという。たびたび倭館に赴く芳洲の目に、朝鮮の人々の生活や文化、風俗はどのように映ったのだろうか。
「通信」とは「信(よしみ)を通(かよ)わせる」という意味。漢城から江戸まで往復三千キロを、総勢500人の大行列が、釜山から対馬、瀬戸内の港町、大坂から京へ上り、東海道を江戸まで1年かけて往復する。今も近江の野洲から彦根までの浜街道に「朝鮮人街道」と呼ばれる道が残っている。道中の文人たちとの交流、豪華な饗応接待、国王からの「国書」を将軍に届け、「返書」を受け取る長い旅。大陸文化を日本に伝える使者の行列に、行く先々の人々は、かの国への憧れのまなざしを向けていたのではないか。
芳洲は一行に随行し、両国の友好をとりもつ名コーディネーター役を果たす。その間、新井白石との国号問題をめぐる論争や、対馬藩の銀輸出制限への対応など、国と国との軋轢や難問を豊かな学識と真情で解決に導く技量を備えていた。
朝鮮との交わりを五十四条にまとめた『交隣提醒』が残されている。一、朝鮮交接の儀は、第一人情事勢を知り候事肝要にて候。五十四、誠信と申し候は、互に欺かず、争わず、真実を以て交り候。
この言葉、今の日本の政治家の面々にぜひ読ませたいものだ。日朝・日韓関係しかり、日中関係しかり。
1755年、芳洲は、ふるさと志賀に望郷の念を残しつつ、88歳で対馬に没す。湖北のふるさとには今も雨森芳洲の精神が脈々と受け継がれている。
このところの朝鮮人従軍慰安婦をめぐる問題やヘイトスピーチの横行など、あまりにも不穏な動きが続く。人はなぜ、こんな愚かなことを繰り返すのかと、ため息をつくばかり。いやいや、嘆いてばかりはいられない。400年もの昔、「朝鮮通信使」が示してくれた隣国との友好、「誠信の交わり」の歴史を今こそ思い起こさなければ、と痛切に思う。
JapanとKorea、アルファベットは隣同士。国際会議では隣席に並ぶのかな? そんな牧歌的なこともいってられない世の中だけど。
なぜか韓国の地を、一度も訪ねたことがない。あまりに近い国だから、いつか行こうと思いつつ、朝鮮半島への旅は未だ果たせぬまま。
戦前の昭和18年秋、生後半年の私は、北京から天津経由で「満鉄」に乗り、朝鮮半島を横断したと母から聞いたことがある。リュックいっぱいのおむつを背に父が付き添い、重い病の母が私を抱いて、広軌の寝台特急で釜山まで。関釜連絡船で対馬海峡を渡ったという。大病を押して長旅に耐えた母は今も健在。今年、91歳を迎えた。
とすれば、まだ物心つかぬ頃、私は日本植民地統治下の「朝鮮」の地を一度は踏んだことになるのだろうか。ウーン、それもなんだか、ちょっとつらいなあ。
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