2015.04.05 Sun
この一年間、引っ越しだのなんだのと忙しく、長編ドラマをじっくり見る余裕がなかった。それで、16~20話程度のミニシリーズばかり見てきたが、最近のミニシリーズは展開がはやくて刺激的な内容のものが多い。面白いけれども、見ながら緊張して疲れてしまうこともしばしばある。それで、久々に心温まるドラマが良いだろうと思って、「私の心が聞こえる?」(全30話、MBC2011)を見ることにした。
このドラマには私が大好きな俳優チョン・ボソク(鄭普碩1962~、写真下)が出演する。それで、いつかじっくり見ようと大事にとっておいたのだ。2010年のヒット作「ジャイアント」(SBS)で極悪人チョ・ピリョンを演じたチョン・ボソクは、翌年のこのドラマでは知的障害をもつ純朴な役柄を演じてイメージチェンジをはかった。また、女優のキム・ヨジン(1972~)は聾唖者を演じている。キム・ヨジンは「宮廷女官チャングムの誓い」(2003-4)に医女役で出演した俳優。韓国では社会運動家としても有名だ。さらに、人気俳優キム・ジェウォン(1982~)が扮する男性主人公チャ・ドンウも、子どもの頃の事故で耳が聞こえないという設定である。障害をもつ人をこれだけ登場させるのもめずらしく、韓国では話題になった。
最高視聴率は23.3%(AGBソウル)。脚本はチェ・ジンシル主演の「ラストスキャンダル」(2008)を書いた作家ムン・ヒジョン。年末のMBC演技大賞ではチョン・ボソクが黄金演技賞を受賞し、主人公を演じたキム・ジェウォンとファン・ジョンウム(1985~)が優秀賞を受賞した。しかし、何事も百聞は一見にしかず、である。確かにはじめのうちはほのぼのとしていたが、中盤からは復讐ものかと思わせるような展開になった。出生の秘密、殺人、“不倫”などお馴染みの素材も登場する。それでも最後は劇的に和解し、視聴者の涙をさそう。
主人公たち
主人公は三人いる。一人はウギョングループ会長の孫チャ・ドンジュ(キム・ジェウォン)。ドンジュは幼い頃に父親を亡くした。現在の父親チェ・ジンチョル(ソン・スンファン1957~)は、ウギョングループを手に入れたいという欲望を心に秘めている。会長の娘であるドンジュの母親テ・ヒョンスク(イ・ヘヨン1962~)と結婚したのはそのためだ。だが会長は、いずれは孫のドンジュにグループを継がせようと思っていた。それを恨みに思ったチェ・ジンチョルは、病に伏した会長の酸素マスクを奪って殺してしまう。それをたまたま目撃した小学生のドンジュは、驚いた拍子にはしごから転落して大けがを負う。一命はとりとめたものの、記憶と聴力を失った。
もう一人の主人公ポン・マル(ナムグン・ミン1978~、子役:ソ・ヨンジュ)は、祖母(ユン・ヨジョン1947~)と父親ポン・ヨンギュに育てられた。ヨンギュは7歳程度の知能しかないが、温かい心の持ち主だ。祖母とヨンギュが市場で日銭を稼いでなんとか暮らしている。マルは頭がよくて勉強はよくできるが、こうした家庭環境をうとましく思っている。とくに父親が障害者であることが受け入れらない。それなのに、よりによって近所に住む聾唖の女性コ・ミスク(キム・ヨジン)と父親が結婚することになる。多感な中学生のマルはそれがショックで、ひたすら家から逃げ出したいと思うのだ。
マルの義母ミスクには幼い娘がいる。それが三人目の主人公ポン・ウリ(ファン・ジョンウム)である。ウリはマルと違って聾唖の母親を嫌ったりしない。むしろ母親とのコミュニケーションを上手にとることができる。義父のヨンギュともうまが合い、父親ができたことを喜んだ。また、マルや祖母に対しても本当の家族のように接した。ウリは就学前にひょんなことでドンジュと出会い、互いに淡い恋心を抱く。だがそれもつかの間。工場で働いていた母親が、火災で逃げ遅れて死んでしまう。そしてドンジュも、ある時からぱったり会えなくなってしまった。
マルの選択
一方マルは、ある日、ウギョングループから奨学金をもらうことになり、その授賞式でドンジュとその母親ヒョンスク(写真)と知り合った。ところがその後、マルは家族の前からこつ然と姿を消してしまう。マルは家族に内緒で、ヒョンスクとドンジュとともにサイパンに移住してしまうのだ。ヒョンスクが、聴力を失ったドンジュを立ち直らせるためにマルを利用したのである。マルを連れて行ったのはもう一つの理由があったが、それは書かずにおこう。いずれにせよマルは、家族と縁を切ってヒョンスクを母親のように慕い、ドンジュを支えた。
マルの家族はそんな事情も知らず、マルの失踪を嘆き悲しんだ。家族は来る日も来る日もマルの帰りを待ちわびる。ヨンギュはいつもマルの分までご飯をよそった。こうして15年後、マルは最高の教育を受けて医者となり、名前もチャン・ジュナと改めた。またドンジュは聴覚障害をもつことを隠すすべを身につけ、健常者のように振舞った。二人はヒョンスクとともに韓国に戻り、ウギョングループを牛耳るチェ・ジンチョルの前に現れる。物語はここからが第二幕である。
心の声をきく
このドラマで私がもっとも感動したのは、ウリと母親ミスク(写真)とのやりとりである。たとえ耳が聞こえなくても、ことばを話すことができなくても、ミスクは「こころでお前の声が聞こえる」と伝える。聾唖者でないウリは、母親を通してその大事さを教えられた。それに比べて、障害をもたない人たちが、いかに人の心の声を聞こうとしないのか、聞こえないのか、それがひしひしと伝わってくる。
耳が聞こえないことを隠して暮らしてきたドンジュは、人と話すとき相手の唇の動きを読む読唇術を使う。また、玄関先で呼び鈴が鳴ったり、電話がかかってきたりすると身に着けている腕時計が振動してそれを知らせてくれる。携帯で話す時は、相手の言葉がすべて画面に表示される端末を使っている。それで周りの人々はドンジュの耳が聞こえないことに気がつかない。しかし、ウリだけはじきに気が付く。やがてドンジュもウリの愛情に支えられて、耳が聞こえないことを隠さなくなる。
ここで私が個人的に関心をもったのは彼の携帯電話。数年前、父が脳梗塞の後遺症で失語症になり、話したり聞いたりすることが難しくなったからだ。失語症といっても人によって症状は千差万別。父の場合は文字を読む能力はあるので、直接会って話をする時は、紙に字を書いて見せると理解しやすい。また、話す能力も少しずつ向上してきた。問題は電話で話すときである。声だけを頼りにして話すのはかなり難しいのだ。それで、相手の言葉を表示する機能付きの電話があればいいと常々思っていた。
ドラマに出てくるものが実際にあるのか調べてみたところ、残念ながらこれは架空のものだった。脚本家が考え出したものをコンピューター・グラフィックで作ったらしい。ついでに父のことを付け加えるなら、今のところスカイプを使って映像入りで話をするのがもっとも意思疎通しやすいことがわかった。私が言いたいことを文字に書いて見せることができるからだ。それでもこのドラマでドンジュが使っているような携帯電話がはやく製造されるようになってほしいと思う。
子役俳優
最後に、ウリの子役を演じたキム・セロンについて触れておこう。キム・セロンは2000年生まれの15歳。9歳の時、映画「冬の小鳥」(原題:旅行者、監督:ウニー・ルコント、2009)でデビューした。1970年代に韓国から海外養子に送られた監督自身のことを映画化した作品だ。ドラマへの出演は「私の心が聞こえる?」が初めての作品である。それ以後、毎年のように映画とドラマで活躍している。「冬の小鳥」を見た時もそうだったが、キム・セロンは天性の俳優である。最近では、KBS光復70周年記念特集のドラマ「雪道」(全2話、2015)に主人公として出演した。「慰安婦」をテーマにしたドラマである。
写真出典
http://www.imbc.com/broad/tv/drama/myheart/
http://enews24.interest.me/news/article.asp?nsID=40
http://lovetree0602.tistory.com/823
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