2015.05.05 Tue
今年の2月28日と3月1日、韓国KBS1が日本軍「慰安婦」をテーマにしたドラマ「雪道」(全2話)を放映した。KBSホームページのドラマ紹介には次のように書かれている。少し長いが引用しておこう。
「2015年は光復70周年を迎える年です。しかし、水曜日、日本大使館前の時計はいまも過去のままです。“国が弱くて、学べなくて、お腹が空いて”ついてゆき、連れて行かれた方たちの物語です。いまさら慰安婦の話なんて、と思われるかもしれません。でも、暴力はいつも、弱い存在を踏みにじり、力の論理と戦争による女性の被害は今も限りなく行われています。これが、手遅れになる前に、まだ終わっていない慰安婦の話をしなければならない理由です。辛くてももう一度振り返ってみなければなりません。歴史を忘却すれば悲劇が繰り返されるからです。
“私も日本の軍人たちから言葉では言い知れない痛みを味わわされたのに、ベトナムの女性たちもわが韓国の軍人たちから、私とまったく同じ痛みを味わわされたと聞きました。韓国人としてあまりにも申し訳ないです。それで、私たちがお役に立てることがあれば何でもしたいのです”
韓国軍による性暴力で被害を受けたベトナム女性たちに、慰安婦の被害者だった韓国のハルモニたちが手を差し伸べました。彼女たちの握り合った手に希望を見つけました。他人の痛みがいじめの対象になり、“共感”が“能力”になってしまった情けない社会です。傷ついた人は弱いけれども、彼女たちが互いに労わり合って連帯する姿を通して、この寂寞とした現実にも希望があるということを語りたいのです。」(http://www.kbs.co.kr/end_program/drama/snowroad/about/program/index.html)
「慰安婦」を描く
主人公はチェ・ジョンブン(俳優キム・ヒャンギ:写真右側)とカン・ヨンエ(キム・セロム:写真左側)の二人。忠清南道の江景(カンギョン)という村に暮らす15歳の少女たちである。ジョンブンの家は貧しい。日本に出稼ぎに行った父親はなかなか帰ってこず、母親が行商をしたり内職しながら生活を支えている。一方、ヨンエの家は比較的裕福で、ヨンエと兄のヨンジュは学校に通っている。ジョンブンはそんなヨンエが羨ましく、ヨンジュに対しては淡い恋心を抱いていた。
人懐こく無邪気なジョンブンと、賢くて気難しいヨンエ。二人は家庭環境も性格も違う。そんな二人がそれぞれ別の経路で慰安婦になる。ヨンエの場合は父親が抗日活動をしたことがきっかけだった。それで当局ににらまれ、兄は日本軍に徴兵され、ヨンエは女子勤労挺身隊に選抜される。日本の工場に行くとばかり思っていたが、実際には「慰安婦」として中国へ送られた。ジョンブンは、日本に行くヨンエをうらやましく思っていたところ、悪徳ブローカーに「日本に行けば腹いっぱいご飯も食べられるし、学校にも行かせてもらえる」と騙されたのだ。二人は中国に向かう汽車の中で再会し、牡丹江にある日本軍の慰安所に連行された。
慰安所での生活は簡潔に描かれている。ここでも二人の性格の違いが表れる。ジョンブンは状況に適応して生き延びようとするが、ヨンエは妊娠して絶望し、死を選ぼうとする。ジョンブンがなんとかヨンエの自殺をくいとめ慰安所にもどり、やがて二人は脱出に成功した。しかし、ヨンエは逃げる時に撃たれた傷のせいで、途中で息絶えてしまう。ヨンエに死なれて一人になったジョンブンは放浪の末にようやく故郷にたどりつく。
「慰安婦」を“記憶”する
「慰安婦」時代のことはハルモニ(おばあさん)になったジョンブンが過去を回想する形で描かれている。故郷に帰ってからのジョンブンが、今日までどのような人生を歩んできたのかもおよそ想像がつく。貧しい一人暮らしのジョンブンと親のいない“不良少女”との交流や、幻影として現れるヨンエとのやりとりを通して、ジョンブンの“今”がしみじみと伝わってくるのである。
「慰安婦」を描いたドラマはこれが初めてではない。1990年代初めの「黎明の瞳」(全36話、MBC1991~2)にも描かれた。このドラマは植民地時代から戦後にかけての激動の時代を生きた3人の若者を主人公に仕立て、それまでタブー視されていた「慰安婦」、パルチザン、済州島4・3事件などを大胆に描いて話題となった(原作は金聖鍾の同名小説)。ドラマは女性主人公ユン・ヨオクが「慰安婦」として連行される過程からはじまり、慰安所での生活も数回にわたって登場する(写真)。
それに比べると今回のドラマは、元「慰安婦」だったハルモニの心の風景に焦点をあてて、淡々と描いている。短いドラマながら感動させられた。少女たちの連行のされ方や慰安所での生活描写にはステレオタイプ的な面もあるが、「史実と違う」などと目くじら立てるほどのことではない。これはあくまでもドラマなのだから。それに、韓国の人々の「慰安婦」に対する集団的記憶としてしっかり受け止める必要があるだろう。そうしてこそ和解の第一歩がはじまるのだ。
制作者たち
視聴率はそれほど高くはなかったが(約5%)、ドラマのホームページには「感動した」という視聴者の声がたくさん寄せられた。主人公の二人を演じたキム・ヒャンギとキム・セロンはともに2000年生まれの14歳。とりわけセロンの迫真に満ちた演技には感動させられた。また、おばあさんのジョンブン役のキム・ヨンオク(1937~)はさすがに大ベテラン。普段の意地悪なおばあさん役とはうって変って、孤独な老人の姿を奥深く演じている。
脚本はヒット作「秘密」(KBS,2013)を書いたユ・ボラ。彼女は以前から「慰安婦」問題に関心をもち、水曜デモにも参加したことがあったという。そしてハルモニたちがまだ生きているうちに、彼女たちの心を慰めるようなドラマを書きたいと思ったそうである。その思いをCP(チーフ・プロデューサー)のハム・ヨンフンが受け止め、制作することになった。演出は感情描写を得意とするイ・ナジョンPDが担当。ユ・ボラもイ・ナジョンも30代後半の女性である。
放映前の記者懇談会ではハム・ヨンフンが、「このドラマは、“日本が謝罪して責任を取れ”ということよりも、非人間的な問題について韓国と日本の良心的な人々に考えてもらうきっかけになればよい」、「日本でもこのドラマが放映されることを願いたい」と語った(「スポーツトゥデイ」2015.2.26)。ちなみに、放映直後から映画化の話がもちあがり、現在開催中の第16回全州国際映画祭(4.30~5.9)ですでに上映されているそうである。日本でもぜひ放映してほしい。
写真出典
http://webstagra.ms/tag/%EC%83%88%EB%A1%A0%EC%96%91
http://article.joins.com/news/blognews/article.asp?listid=13619708
http://biz.chosun.com/site/data/html_dir/2015/03/02/2015030200355.html
カテゴリー:女たちの韓流