エッセイ

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ニューヨーク・ニューヨーク(旅は道草・64) やぎ みね

2015.05.20 Wed

Lion King

 5月連休の一日、娘と孫に誘われて大阪四季劇場へ「ライオンキング」を見にいった。

 エルトン・ジョン作曲、ティム・ライス作詩、女性演出家ジュリー・ティモアのトリオで1997年、ミネアポリスでミュージカル「ライオンキング」がトライアウト公演された。その秋、ブロードウェイで上演後、またたくまに世界に広がっていく。日本でも1998年、劇団四季が、東京・浜松町の四季劇場でこけら落とし。ロングランを重ねて今年7月には通算公演回数1万回を迎える。

  子役のヤング・シンバとヤング・ナラがかわいい。女呪術師ラフィキがうまい。王の弟、敵役のスカーを演じる韓盛治の声がすばらしい。

  幕が上がるとキリンやゾウなど大仕掛けの動物たちが舞台いっぱいに登場する。もうすぐ5歳になる孫の「ゆい」は、ハッと息を飲み、身を乗り出し、舞台に釘付けになった。父王・ムファサを殺され、故郷を追われ、遠く砂漠で倒れていたヤング・シンバを、ミーアキャットのティモンとイボイノシシのプンバァが助ける。パペット(繰り人形)を操る相棒二匹が、かけあい漫才さながら大阪弁をまくし立て、「ハクナ・マタタ」(くよくよするな)とシンバを慰めるシーンに「クックックッ、ケラケラ」と笑い転げる孫の声を静めるのに、ひと苦労する。

 4月に白内障の手術を無事に終えた私。びっくりするほどよく見えるようになって、このところ台所の汚れが気になり、掃除ばかりしていたんだけど、久しぶりの舞台は隅々までよく見えるし、役者の表情も目に迫ってくる。ワクワクドキドキしながら舞台を見る。

 もう10年も昔、ニューヨーク・ブロードウェイのニュー・アムステルダム・シアターで「ライオンキング」を見た。4列目の正面。舞台と客席の段差もなく、音楽も演技も舞台装置もすべて完璧。まるでアフリカのジャングルにいるかのように、夢見心地の気分だった。

 ブロードウェイには他にいくつも舞台がかかっていて、同じくエルトン・ジョンとティム・ライスの「アイーダ」が隣の劇場で上演されていた。

アイーダ

アイーダ

 マンハッタン7番街57丁目にあるカーネギーホールの隣、ル・パーカー・メリディアンホテルに4泊。5番街からタイムズ・スクウェア。ミッドタウンからアッパー・ウエスト・サイド、アッパー・イースト・サイド。チェルシーからグリニッヂ・ビレッジ、ソーホーへ。イースト・ビレッジからグラマシー。そしてロウアー・マンハッタンまで地下鉄とバスを駆使して足が棒になるまで歩き回った。

  スティーヴン・スピルバーグやエリック・クラプトンが住むという5番街のトランプタワー。思い切り首を伸ばして超高層マンションを見上げる。映画「恋に落ちて」の冒頭シーン、メリル・ストリープとロバート・デ・ニーロが出会う書店リッツォーリに行ったけど、最近、ネットで、この本屋が閉店し、移転したと知って、びっくり。チェルシーにある絵本が揃うブックス・オブ・ワンダーにも行く。

 グリニッチ・ビレッジのニューヨーク大学の近くは古いカフェが何軒もたち並ぶ。昔、ビート族がたむろしていたところ。その一つカフェ・レッジオでカプチーノを一杯。壁には絵画がいっぱい。

 アンディ・ウォーホルが「チェルシー・ガールズ」を撮影した1883年創業のホテル・チェルシー。ジャニス・ジョプリンやジミ・ヘンドリックスなどミュージシャンや文人も利用した古いホテル。通りかかると、滞在型の部屋の窓には日除け用か、竹のスダレがぶら下がっていた。今は売却され、2016年、マンションに改装されるという。

 セントラルパーク東端、メトロポリタン美術館はあまりの広さに迷子になりそう。ようやくお目当てのジョージア・オキーフの作品3点を見つけた。美術品をあしらった、おしゃれな品をお土産に買う。アッパー・イースト・サイドのデパート、ブルーミングデールズで求めた若草色の麻のブレザーは今もお気に入りの一着。

 9・11から3年、グランド・ゼロは崩壊の跡もそのままに、犠牲者の名を記したプレートだけが建っていた。

 マンハッタンの摩天楼の街並みと古きよきアメリカの原風景も残るニューヨーク。賑わうファーストフード店のハンバーガーは、あまりに大きくて頬張れない。ホテルの窓から見える、通りを隔てたオフィスビルには朝7時というのにビジネスマンが忙しく働いている。ビルの谷間をとぼとぼと歩く高齢の女性、街角でネコをつれた黒人のホームレスにも出会う。

 エキサイティングな街・ニューヨークは人も街も、日々動いている。

 初めてのニューヨーク。一番感じたのはアメリカがじっと見つめる中国の存在だった。ニューヨークの前に訪れたノースカロライナで、デューク大学アジア・太平洋地域研究所の中国研究のティーチ・インを聴き、地元のGlenwood小学校で子どもたちが中国語を学ぶのを見学した。ニューヨークでは中国系アメリカ人がチャンネル権をもっているのか、いくつかの番組は中国語放送だった。合間にダイエットとエクササイズのコマーシャルが流れて。

 アメリカが見ているのは日本なんかじゃない。中国大陸なのだ。両国の教育力と情報力の蓄積は10年後の世界をどのように塗りかえていくのだろうと、ふっと思った。

 そして2013年、中国・習近平はAPEC首脳会議でアジアインフラ投資銀行(AIIB)を提唱。創設メンバーの募集期限は2015年3月31日。締切り直前、イギリス、ドイツ、フランス、イタリア、ロシア、ブラジル、オーストラリア、スウェーデンなど57カ国が雪崩の如く参加を表明。アメリカは「国際基準を満たさない」との理由で参加に否定的。日本も、麻生財務相が「極めて慎重な態度をとらざるを得ない」と述べ、アメリカに追随、参加を見送った。

 中国は何をめざすのか。AIIBが、世界銀行やアジア開発銀行と競合・競業することでアメリカ主導の世界金融の軸を動かそうという思惑か? またそれを奇貨としてイギリスやドイツも、ともに主導権を握ろうとしているのか?

 ならば日本の時代認識と世界を見る目は? 安倍首相の訪米演説を持ち出すまでもなく、激動する世界の変化がちっとも見えていない。全然ダメ。それが現実の日本の姿だと言わざるをえない。

 「旅は道草」は毎月20日に掲載の予定です。これまでの記事はこちらからどうぞ。

カテゴリー:旅は道草

タグ:舞台 / やぎみね / ニューヨーク

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