エッセイ

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シングルマザーの苦境  秋月ななみ

2015.06.17 Wed

                                                           発達障害かも知れない子どもと育つということ。31

  少し前のことであるが、川崎の中学生リンチ殺人について、作家の林真理子が『週刊文春』の誌上で母親批判をしたことが話題になった。曰く、「お母さんがもっとしっかりしていたら、みすみす少年は死ぬことはなかったはず」。「私はやはりお母さんにちゃんとしてもらわなければと心から思う」。「いつまでも女でいたい、などというのは、恵まれた生活をしている人妻の余裕の言葉である。もし離婚をしたとしたら、子どもが中学を卒業するぐらいまでは、女であることはどこかに置いといて欲しい」。よくある母親に全責任を負わせる議論である。

林真理子の保守の側面がよくあらわれているなぁと思った。「恵まれた生活をしている人妻」である林さんのエッセイは、いつも「デートをした」「ダイエットをした」「買い物をした」「夫が鬱陶しい」くらいの要素で構成されている(とくに『an・an』)。鬱陶しい夫と離婚しないのも、安心して「余裕」の「デート」を楽しみたいからという、一貫した主張でもある。被害者の少年の母親に対してはかなり酷な話だとは思ったが、「またか」くらいにしか思わなかった。

実はむしろ驚き傷ついたのは、彼女に反論する人たちの側の主張であった。「なんて酷いことをいうのか。シングルマザーの大変さがわかっているのか。子どもに目が行きとどかないのは、シングルマザーなら『仕方がない』」。こう主張する人たちは、もちろんシングルマザーではない。本当に大変さがわかっているのか、と、改めて反論したくなった(しないけれど)。

子どもが育つ過程で、子どもの心身の安全を確保するのは、母親に限らず、父親、そして学校や地域を含む周囲の大人の義務だろう。そのまず第一の義務すら果たせない、果たさなくてもいい人が、シングルマザーという存在だと思われているのか。そう思ったら、いくら善意からとはいえ、力が抜けた。正直に言って、「あそこのうちはシングルなんだって」、「じゃあ、『仕方ないわねぇ』」という蔭口とどう違うのか。私にとってはほとんど同じである。善意からとはいえ、そういう「偏見」を広めないで欲しい。シングルマザーだって、当たり前であるが、最低限の子育てをしようと頑張っている。

実際シングルマザーは大変である。ひとりで稼ぎながら子育ても24時間、ひとりでしなくてはならないのだから(手伝いがあるかどうかなどで、状況は激しく変わり、一概に「シングルマザー」とくくることはできないけれども)。経験的に、「ああ、やっぱり」と思われる、行きとどかないことも実際にあるとは思う。だからこそ、むしろ「あそこはシングルだから」という蔭口を叩かれないように、追い詰められるように母親は頑張らされてしまうのである。

それはそれまでの、「子どもに持ち物を持たせるのを忘れちゃった。これだから『お母さんが働いていると』って言われちゃうよね」と笑い話にできたものとは、根本的に違うところにいると感じざるを得ない。シングルになったのも、自己責任だ、きちんと子育てをしろと言われたくもないが、シングルだから仕方ないよね、と言って貰いたい訳でもないのである。

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シリーズ「発達障害かもしれない子どもと育つということ。」は、毎月15日にアップ予定です。

シリーズをまとめて読むには、こちらからどうぞ

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カテゴリー:発達障害かも知れない子供と育つということ / 連続エッセイ

タグ:シングルマザー / 子育て・教育 / 秋月ななみ

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