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『花宵道中』―吉原小見世遊女<朝霧>の恋  川口恵子

2015.08.20 Thu

花宵道中 [DVD]

販売元:TOEI COMPANY,LTD.(TOE)(D)( )

定価:¥ 4,104 ( 中古価格 ¥ 3,350 より )

Amazon価格:¥ 3,045

時間:102 分

1 枚組 ( DVD )

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 「躰に花が咲く」

江戸末期、世にいう吉原の大火で焼け出された遊女たちが仮宅でつかの間の小さな自由を味わっていた時期を背景に、幼い頃母親から受けた虐待の跡ゆえに「躰に花が咲く」と評判の遊女・朝霧の恋を描く。「女による女のためのR-18文学賞」大賞・読者賞を受賞した宮木あやこの同名小説の映画版。

朝霧を演じるのは、かつてTVドラマ『家なき子』の名子役ぶりで世間を湧かせた安達祐実。芸能生活30周年に選んだのが、「大見世・中見世・小見世」と明確にランク付けされた吉原遊郭で最低ランクの小見世・山田屋で一番人気の遊女役とは、幸薄感がはまりすぎて泣かせるが、宣伝のうたい文句の「三度の濡れ場」も見事にこなし、演技力をみせつけた。

小柄で華奢な目の大きい彼女が演じると、吉原遊女の恋もどこかガーリーに見えるのは、女性観客を意識した演出効果だろうか。

花宵道中 (新潮文庫)

著者/訳者:宮木 あや子

出版社:新潮社( 2009-08-28 )

定価:¥ 637

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文庫 ( ページ )

ISBN-10 : 4101285713

ISBN-13 : 9784101285719

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お姫さまだっこ

恋の相手は京の染物職人・半次郎。で、この京男、限りなく優しい。とにかく、初めて出かけた縁日の神社の境内で転んで下駄の鼻緒が切れた朝霧を、軽々抱き上げ(お姫様だっこですわ~)、なくした片方の下駄を探しだし、壊れたかんざしも後日、直してくれたりするのだ。いかにも女の子が好みそうな設定。漫画版もこうなのか、見比べたいところだ。

京男・半次郎の優しさはまだまだ続き、ついには、朝霧のために人を殺め追われる身となりながらも、大見世の最も位の高い遊女にしか許されない「花魁道中」を夢見る彼女のために自ら染めた(!)友禅の衣装一式を手に、危険承知で江戸に舞い戻る。夜更けの境内の祠で、一人では着られない花魁衣装の着付けを手伝う場面では、思わず、その優美な手の動きにみとれてしまった。とてもこの世のものとは思えない(と思ってしまう自分が悲しい)江戸末期の男性像だが、それはさておき、二人だけの花魁道中を終えたあと、二人は祠で初めて結ばれ(夜なのに朝陽が差し込むような照明・カメラワークが美しい)。そこに捕り方が入ってくる――という展開。

花宵道中 特別限定版 [Blu-ray]

販売元:TOEI COMPANY,LTD.(TOE)(D)( )

定価:¥ 7,344 ( 中古価格 ¥ 4,212 より )

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時間:102 分

2 枚組 ( Blu-ray )

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ほんとうの〈花〉

女性表象の観点から興味深いのは、朝霧が姉と慕った京の遊女から教わった「内八文字」の歩き方。宣伝資料によれば、高下駄の底を見せずにすり足のまま八文字を描きながら歩く京都嶋原の花魁道中の歩き方だという。ちなみに下駄を翻しながら裏底をみせ八文字を描くのが江戸・吉原の「外八文字」。祠に入ってきた捕り方を傲然と見返す朝霧の姿態もみどころ。好きな男と情を交わしたあとの恋女房の風情と、お上の意向なんて関係ないねといわんばかりの遊女の貫録。煙管を手にした姿も粋。最も心に残るのは、ラストの回想場面で映し出される朝霧の笑顔。薄鼠色の小袖に青の半幅帯、薄紫の半纏を羽織った姿で、これまで誰にも見せたことのないような嬉しそうな笑顔を彼女は、下駄を探し出してくれた半次郎に向けていたのだった。

朝霧の本名は「あさ」。年季明けを一年後にひかえた彼女は、映画の中で象徴的に用いられる一輪の青い朝顔のように清新な、ほんとうの〈花〉を咲かせたのかもしれない。虐待の痣が浮かぶ〈赤い花〉ではなく。

花宵道中 1 (小学館文庫)

著者/訳者:斉木 久美子

出版社:小学館( 2015-08-06 )

定価:¥ 540

Amazon価格:¥ 540

文庫 ( ページ )

ISBN-10 : 4094061959

ISBN-13 : 9784094061956

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3:11以後の遊女物

母を失い泣いていた7歳の朝霧を救った京の遊女・霧里役の高岡早紀がいつもながらの情け深い演技を見せ、忘れがたい。ほか、女郎屋の女将役の友近のキレのよい江戸弁が小気味よい。

エンディング・テーマ「ラピスラズリ」は女性二人のユニット・黒色すみれ。

ガーリー・テイストで色づけしつつも、バブル期の東映遊郭もの『陽輝楼』(1983)や『吉原炎上』(1987)の絢爛豪華にあえて背を向けた、景気低迷時代の平成ならではの遊女物に仕上がった。家事で焼け出された遊女たちが皆ではしゃぎながら湯屋に行き、ささやかな解放感を味わう薄ら寂しい光景がどこかリアル。3:11後の遊女物と位置づけられてよいのではないか。








カテゴリー:新作映画評・エッセイ / DVD紹介 / 映画を語る

タグ:DV・性暴力・ハラスメント / セクシュアリティ / DV / 川口恵子 / 日本映画 / 女性表象 / セックス・ワーク / 遊女物

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