2011.05.10 Tue
思い起こせば2年前、WANを立ち上げたときに、70代の方から投げかけられたことばが忘れられません。
「あなたたちは、わたしたちIT弱者を切り捨てて行くのね」
ええ、そのとおりです、ごめんなさい。郵送のミニコミとファクスでつながっていた時代は終わりました。わたしたちの思いを次につなぐにはウェブにのりだすしかないんです・・・と言おうと思いながら黙っていましたが、ほんとはこう言いたかったのです。
—-ITデバイドより上の年齢だからって、ネットに手を出さないのはもったいなさすぎ。ITこそは弱者の味方。足腰が立たなくて移動弱者になっても、半身麻痺で言語障害が残っても、目が見えなくなっても耳が遠くなっても、どこのだれとでもコミュニケーションができ、そのうえ居ながらにして世界とつながっていられるツール、それがITです。今からでも遅くありません、スキルを習得してください、って。
わたしがこう言えるのは、10年くらい前にALS患者の山口進さんにお会いしてから。原因不明の病気で全身麻痺が進行し、いずれロックトイン症候群という過酷な運命が待っている山口さんは、車椅子のまま、日本中を講演に走りまわっていました。もと電子機器メーカーのエンジニアだった山口さんは、まだパソコンソフトがじゅうぶんでなかった時代に、ALS患者用のソフトを開発。みずからもそれを活用していました。それ以来、わたしは山口さんのメル友のひとりになったのです。
麻痺が呼吸機能に及び、いずれ呼吸困難が予測されますが、そうなれば呼吸器切開を受けて呼吸器をつけなければなりません。呼吸はラクになりますが、その代わりに声を失います。山口さんは若いエンジニアと協力して、自分の声の切片をユニット化して、パソコンから音声出力するソフトを開発中でした。いまのPCには、音声入力と音声出力の両方が可能なソフトがあります。ALS患者さんでなくても、IT弱者や高齢者には福音です。晩年の水上勉さんが、音声入力ソフトを使っておられると聞いたことがあります。これがあれば、昔のように口述筆記をだれかに頼まなくてもすみます。
ひとのからだで最後の最後まで随意筋として動くのはまぶただそう。まぶたが動くあいだは、その動きを察知して入力できるソフトがあれば、パソコンを使ってコミュニケーションできる・・・これが山口さんの信念でした。残念ながらお亡くなりになりましたが、最後までALS患者のために闘いつづけた人生でした。
パソコンなんて使えないわあ、という方に、わたしはこう言うことにしています。
—携帯、使ってます?
—はい。
とくればしめたものです。携帯はパソコンの端末の一種。
—携帯使ってるあなたは、とっくにパソコン使ってるんですよぉ。
WANは携帯アクセスが当初の念願でしたが、それもクリアしました。WANが変わったんじゃなくて、携帯のほうが進化したからです。いまのPCが、携帯なみにユーザーフレンドリーでかんたんになったら、もっとPCユーザーは増えるのに。
「おばあちゃんのPC教室」を開催している女性にお会いしたことがあります。教室のインストラクターに、学生さんやOLさんなどのアルバイトを募集しているのだそう。採用の条件はなんですか、とたずねたわたしに、返ってきた答。これも忘れられません。
「そうですねえ、同じ質問を10回しても、怒らないひと、ですね」
ううーむ、実感。
認知症ケアの極意と同じです。みなさまも高齢の方をお相手にするときは、ゆめゆめこうおっしゃらないでくださいね。
「その話、さっきも聞きましたよ」
というわけで、60歳の手習いだろうが、70歳の手習いだろうが、ITを始めるに遅すぎる、ということはありません。なにしろWANの言い出しっぺは今年㐂寿の中西豊子さん(前理事長、ウィメンズブックストア初代店長)。言い出したときにも70歳を超えていました。「これをやらなきゃわたしは死ねない」・・・その中西さんの熱意に、わたしたち若いもん(?)はひきずられたようなものです。
とは言っても、このブログ、ネットアクセスのできるひとにしか、届かないんだ・・・。
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