上野研究室

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原発ゼロ・デーを続ける ちづこのブログ No.27

2012.06.21 Thu

勝たなくてもよい、負けなければよい–原発ゼロ・デーを続ける

6月2日(土)脱原発をめざす女たちの会の「もう原発は動かさない!発信する女たち6・2集会」@日本教育会館へ行ってきました。橋本美香、満田夏花、田中優子、神田香織、渡辺一枝、坂田雅子、上野千鶴子、古今亭菊千代や福島の若者たちが発言。以下は主催者に頼まれて事前に送ったメッセージです。

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上野千鶴子(社会学者・NPO法人ウィメンズアクションネットワーク理事長)

何かがおかしい。こんなことがあってよいはずがない。

あれだけの高い授業料を払ったのに、そこからどんな教訓も学ばなくてよいのだろうか?あたかも3.11がなかったかのごとく、粛々と再稼働に向けて動き出した政界・官界・財界。そして自治体。このくにのひとたちは、見たくない、聞きたくない、考えたくないことは、ないことにすることに長けているのだろうか?そうやって戦争に負けたことを忘れ、ヒロシマ・ナガサキを忘れ、オキナワを忘れ、こんどはフクシマも忘れようとしているのか?

忘れない、忘れさせない…ことが今ほどだいじな時はない。未来の人々から、あのとき、あなたは、何をしていたの?と言われないために。**************

当日のスピーチをご紹介します。

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5/5こどもの日 この日すべての原発は止まりました。わたしはこの日、Twitterで「未来の子どもたちへの、子どもの日最大の贈り物」と書きました。

たったいま54基の原発はすべて止まっています。わたしたちは原発無しでやれていることを証明しました。

このことについて、世田谷区長保坂展人さんは、5/5子どもの日のTwitterで、こう述べました。

「5月5日は子どもの日。大惨禍をもたらした福島第一原発事故から1年余で、日本列島に存在する50基の原発が42年ぶりに運転中止になる。これが、「脱原発方針」を固めた上での運転凍結ではなくて、現政権が「再稼働」にしがみつきながら失態を重ねた上での停止であることに忘れないようにしたい。」

そのとおりです。全原発停止は、わたしたちの勝利ではなく、敵失で得られたものにほかなりません。

脱原発を支持していた関西広域連合の知事たちが、再稼働に向けて、「部分合意」「実質容認」を宣言しました。大阪の橋下市長は、自らの変節を「負けた」と表現しました。橋下さんには首尾一貫性がないことを予想していたので、やっぱり感がありました。が、わたしたちが失望したのは、環境派知事として旗幟鮮明だった滋賀県知事嘉田由紀子さんの変節です。これには「ブルータス、おまえもか」と思わないわけにはいきませんでした。

理由は「計画停電で打撃を受けるという県内事業者の悲痛な訴え」というもの。事業者の「悲痛な訴え」には耳を傾けても、県民80%の再稼働は不安という「悲痛な声」には耳を傾けないのでしょうか。これでは県民の生命と生活の安全よりも産業界の利益を優先し、原発停止という長期利益よりも目先の短期利益を優先したと言われてもしかたがありません。しかも被害を受ける直接の当事者以外に未来の当事者たちもいます。さまざまな複数の当事者の利害を調停して大局的に判断するのが政治なのにその役割を果たしていません。すわ「再選を念頭においた利益誘導」か?と疑いを持ってしまいます。

フリージャーナリストの山秋真さんの『試された地方自治:原発の代理戦争にゆれた能登半島・珠洲市民の13年』(桂書房)にこんなエピソードの紹介があります。山秋さんは、この本で「松井やよりジャーナリスト賞(女性人権活動奨励事業)」と「荒井なみ子賞(平和・共同ジャーナリスト賞)」とをダブル受賞しました。

福井県敦賀市在住、原発から直線距離で8キロ離れたところにある浄土真宗の寺の住職、立花正寛さんの発言です。寺の門徒はひとりの例外を除いて、全員癌で亡くなりました。かれ自身も1994年にガンで死亡しています。1972年「原子力行政を問いなおす宗教者の会」で彼はこう発言しています。

「日本という国は、どこまで突っ走れば気づくのでしょう。どれだけの犠牲を出せば、原発はいらないと判断できるのでしょう」(本書5p)

この彼が珠洲の原発反対派にこう言います。

「あと5年、いや10年かな、抵抗しつづければ、原発は経済的に破綻して撤退せざるをえなくなるでしょう。あと10年、頑張ってください」(本書65p)

1991のことです。予言は当たりました。この発言からおよそ10年後、2003年に関電は珠洲原発の計画を凍結し、撤退しました。コストが折り合わないという理由のなかには、しぶとく反対しつづける住民を懐柔するコストも含まれていたはずです。

立花師の発言から学ぶ教訓は以下のようなものです。わたしたちは勝たなくてもよい、負けなければよい、負けないでいつづければよい、いつか原発推進派のほうが自己破綻していくだろう…。

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ここまでが当日のメッセージです。

6月21日現在。原発ゼロ・デーがつづいて48日めです。

これを一日一日、更新していけばよい。

勝たなくてもよい、負けなければよい・・・

カテゴリー:ブログ

タグ:脱原発 / 上野千鶴子