上野研究室

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待機児童減少率8割を達成した横浜市 ちづこのブログNo.38

2013.01.01 Tue

横浜市の林文子市長と対談しました。『婦人公論』連載の大型企画「日本が変わる、女が変える」のためです。総選挙直後だっただけに、これでは「日本が変わる」とは思えない…と暗い気分の対談でしたが、林さんのパワーに励まされました。テーマは「女性リーダーを育てるには」。トップマネジメントは理念だけではできません。理念に加えて組織をまわす経験が必要。やればできる。やれば、できた…というのが横浜市の経験です。
以下、新聞に掲載した記事から。

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トップが変われば政治は変わる

横浜市で老朽化したニュータウンの再生事業に取り組むUR(昔の住宅公団)に頼まれて、アドバイザーを務めている。1960年代や70年代にスタートしたニュータウンは、居住者の高齢化にともなって40年でオールドタウンに。入居時には30代だった世帯主も70代にはいり、年金生活者となっている。育て上げた子どもたちは出ていったきり、帰ってこない。土地価格が下落したことで都心回帰が始まり、交通の便の悪い立地だと、櫛の歯が抜けるように入居者が減っていき、空き住宅がちらほら。やがて町全体が荒廃してゴーストタウン化するだろう。
日本は確実に人口減少社会に入った。住宅はもうこれ以上要らない。それより今ある住宅インフラをどうやってリニューアルして使い回していくか、それがUR、その名も「都市再生機構」の役割なのだ。
街に活力を取り戻したい、子育て世代に入ってきてもらいたい…と思うなら。必殺の切り札がある、と各自治体の関係者に言ってきたことがある。それはゼロ歳児保育、長時間保育、夜間保育、病児保育を充実させることだ。これらはいまの保育制度のなかで欠けているものばかりである。そういう施策のある自治体には、子産み子育てどきの若いカップルが「孟母三遷」の教えどおり、情報をかぎあてて引っ越してくる。東京23区のなかで、先に述べた保育がもっとも充実しているのが、なんと新宿区だ。いかにも住みにくそうな都心に、保育サービスを求めて若いカップルが転入してくる。
横浜市は待機児童数で全国ワースト1の自治体だった。現市長の林文子さんが就任するまでは。「子育て支援」を公約に掲げて選挙戦を戦い、当選したあとはそれを実行した。就任2年半で横浜市の待機児童数は80%以上も激減した。やれば、できる。首長が変われば政策は変わる…横浜市民はそれを実感したことだろう。
子ども数が減っているのに待機児童数が増えている?その理由は、子どもが小さいうちから、働きに出たい母親が増えているからだ。最近のデータでも、出産で退職する女性の数は減少し、働く母親は増加しつつある。人口減少期にはいった日本社会は、女性に戦力になってもらわなければたちゆかない。女性に働いてもらい、そして税金も納めてもらう。なのに、女性が働くことを前提に税制も社会保障制度も設計されていないことが問題なのだ。
総選挙を迎えて、女性団体が連携して「ジェンダー平等政策を求める」全政党アンケートを実施した。その結果は、女性を活用したいが女性の権利を守る気のない政党と、女性を応援する政党にくっきり分かれた(「市民と政治をつなぐ」P-WANサイトhttp://p-wan.jp/site/)結果は育児も介護も「自助」を基本とする自民党の圧勝。自助とは、政治は助けてあげませんよ、という意味である。「家族が大事」という政党ほど、家族のためには何もしてくれない。こんな政策を女性が支持したとは思いたくないが、選挙で男女平等や子育て支援は争点にならなかった。女性当選者も、前回衆院選(54人)と比べ38人へと16人も減った。
トップが変われば政治はよい方へも悪い方へも変わる。政治がひきおこすトラブルは人災だ。これからの日本、どうなるんでしょうね、と尋ねる人がいるが、これからの女性は、どうなるのだろうか。
(信濃毎日新聞12月24日付け「月曜評論」)

カテゴリー:ブログ

タグ:子育て・教育 / 上野千鶴子