2013.02.02 Sat
熊本日日新聞の書評欄を担当しています。今回はWANのなかま、W-WANのチーフとして活躍し、
年末の脱原発世界会議でもWANから参加した実行委員のひとりとしてグリーンピースとの共催事業「日常のもやもやを政治に」を実現した山秋真さんの新刊です!
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書評 山秋真『原発をつくらせない人びと』(岩波新書、2012年)
計画から30年 祝島抵抗の記録
日本に原発が54基あることは知っていた。1966年に東海村で第一号が作られて以来、年に2基のペースで増えていった原発は70年代までに計画が浮上した17カ所に限られる。それ以降に立地計画が浮上した全国約30カ所では、原発はひとつもつくられていない。なぜなら…現地の人びとが抵抗し抜いたからだ。この本を読んで初めて知った。他の地域に建てられないからこそ、福島や敦賀など、原発銀座と呼ばれるほど何基も林立した地域があるのか。若手の社会学者、開沼博が『「フクシマ」論』(青土社)で論じたように、原発が1基増える毎に交付金が増え、もっともっとと地元が「アディクション(中毒)」症状を起こすようなしくみがあるのか… 目からウロコだった。
著者は石川県珠洲市で原発をつくらせなかった人びとの運動に寄り添って『ためされた地方自治—原発の代理戦争にゆれた能登半島・珠洲市民の13年』(桂書房)を書いたフリーライター。この本で松井やよりジャーナリスト賞と荒井なみ子賞をダブル受賞した。
能登半島では原発は志賀にはあるが珠洲にはない。紀伊半島には1基もない。和歌山県と三重県で原発立地の計画がありながら、それをおしもどした人たちがいたからだ。『原発を拒み続けた和歌山の記録』(寿郎社)に詳しい。原発を選ばなかった人たちはたしかにいたのだ。「だまされた」「国を信じた」と言うだけでよいのだろうか。
本書は3.11直前に最大の争点になっていた祝島からのレポート。祝島の対岸4キロの地点にある上関町田ノ浦に原発計画が浮上してから30年間にわたる抵抗の記録である。「何かがあるんじゃろうじゃ?『銭をやるけえ、つくらせてくれ』言うのは」という島民の直観は正しかった。敦賀原発地元の僧侶、故立花正寛の発言を著者は引用する。「あと5年、いや10年かな、抵抗しつづければ、原発は経済的に破綻して、撤退せざるをえなくなるでしょう。あと10年、頑張って下さい」そのとおりになった。だが、フクシマの事故というとてつもない代償を支払って。
著者は時間を追ったドキュメントのなかで、祝島の女や男の口調を生き生きと伝える。いちばん強かったのはおばちゃんたちだった。「男はそっちのけ。おなごのほうが強いちゃ。(運動を)せてみてから(そう)思いよった」。原発との闘いはカネとの闘いだ。中国電力によるありとあらゆる切り崩し工作の過程で、祝島漁協は他の漁協が受けとった漁業補償金約11億円の受けとりを拒否した。それを通したのもおばさんパワーだった。「カネをもろうた者は、モノを言えんごとなる」と。カネを受けとるのは海を売る行為。漁師は言う、「誰の海でなし。みんなの海じゃから、守らんといかんのよ」。
2005年から中電は調査の名目でボーリングを開始、09年には埋め立て工事に「着工」。緊迫度は増す。そこから陸と海での闘いが始まる。座り込み、漁船による抗議、カヤック隊の出動など。11年2月はさながら海戦の趣き。それをルポする著者の筆は迫真の実況中継のようで手に汗握る。危険な海上行動で犠牲者をひとりも出さなかったのは、中世以来の水軍の伝統を持つ抜群の操舵術のためだろう。祝島の民はまつろわぬ民、プライドが高い。著者は歴史にも踏みこむ。
原発事故でいったん一時中断となった上関原発計画は、政権交代でまた予断を許さぬ状況となった。この国はいったいどれだけの代償を払えば学ぶのだろうか。(熊本日日新聞2013.1.6)
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