上野研究室

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2012年に読んだ本5冊 ちづこのブログNo.43

2013.03.14 Thu

恒例のみすず書房PR誌『みすず』読書アンケート特集(2月号)が出ました。
毎年その年に読んだもののなから記憶に残った本を5冊選ぶよう、求められます。その年度の新刊でなくてもその年に読んだ本、というのがよい。今年の上野のレポートをおすそわけ。
最後に挙げた水村美苗さんの本、「すぐれた散文」に与えられる今年度39回目の大仏次郎賞を受賞していましたね。

上野千鶴子(社会学者)

アマゾンのサーバでエラーが起こっているかもしれません。一度ページを再読み込みしてみてください.1 綿貫礼子編2012『放射能汚染が未来世代におよぼすもの』新評論
今年も原発関連の本をたくさん読んだ。本書は胎児性水俣病に関わり、その後25年間にわたってチェルノブイリ支援に携わった女性科学ジャーナリストの遺作。綿貫さんはIAEAを「国際原子力ムラ」と呼び、甲状腺ガンに尽くされない子どもの健康被害があることを現地の科学者のデータで示す。見えてくるのはミナマタとフクシマのおそるべき類似性だ。

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2 戸部良一・寺本義也・鎌田伸一・杉之尾孝生・村井友秀・野中郁次郎1991『失敗の本質 日本軍の組織論的研究』中公文庫
もとは1991年に刊行された本だが、原発事故後に再び注目を集めた。わたしが読んだのは2012年刊47刷り。組織論の専門家である著者らは敗北を招いた日本軍の組織体質が戦後の企業に受け継がれた、という。平時につよく非常時に弱い無責任体質、能力主義より学歴と年功、情報と戦略の不在…日本軍は負けるべくして負けたという分析は、東電原発事故は起きるべくして起きたという見方をうらづける。国会事故調の指摘するように、「原子力ムラ」体質は日本文化の伝統なのか…それならフクシマはこれから二度、三度とくりかえすだろう。今年読んだ本のなかでもっとも背筋が凍った本だ。科学社会学者の松本三和夫による『構造災』(岩波新書、2012年)も、原発事故の根が深いことを教えてくれる。

[clearboth]アマゾンのサーバでエラーが起こっているかもしれません。一度ページを再読み込みしてみてください.3 山秋真2012『原発をつくらせない人びと』岩波新書
フクシマの人たちはたんに「だまされた」「国を信じた」だけなのか?30年間にわたって原発計画に抵抗しぬいて原発をつくらせない人びとがいる。『ためされた地方自治—原発の代理戦争にゆれた能登半島・珠洲市民の13年』(桂書房)で松井やよりジャーナリスト賞を受賞した女性ライターによる、上関原発に抵抗する祝島からの感動のレポート。彼らは海も魂もカネで売ることはしなかった。

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4 岡野八代2012『フェミニズムの政治学』みすず書房
自己決定できる自律的な主権主体とはフィクションではないのか?生命の最初と最後にある依存とケアを、つごうよく忘却することで成り立っている近代リベラリズム理論への根底的な批判。久しぶりに骨太なフェミニズム理論書を読んだ。本書は男性政治学者たちに無視・黙殺されるのだろうか。

[clearboth]アマゾンのサーバでエラーが起こっているかもしれません。一度ページを再読み込みしてみてください.5 水村美苗2012『母の遺産 新聞小説』中央公論社
最後に小説を。昨年は「母と娘」もののブーム。ようやく「母を嫌ってもよい」と思える娘たちが表現を始めた。なかでも本書は出色。「ママ、いったいいつになったら死んでくれるの?」と帯にある体験にもとづく介護小説も、手練れの作家の手にかかると母系三代をめぐる女性版日本近代の自画像となる。構成も奥行きもみごと。






カテゴリー:ブログ

タグ:脱原発 / 上野千鶴子