2013.07.04 Thu
安部政権は景気回復のための切り札として「女性の活用」を唱え、上場企業の役員ひとり以上を女性に、とか言い出している。働いてももらいたい、他方で子どもも生んでもらいたい、というので、「女性手帳」だの「3年抱っこしほうだいの育休」を提案してもいる。女性の労働参加がなければ、少子高齢化がすすむ日本の未来はありえないから、動機は不純だが、方向は正しい。しかし、方法がまちがっている。
「女性手帳」は各方面から批判を浴びて、ひっこめた。「3年育休」のほうはどうか。3年育休と突然言われて、女性のあいだからはとまどいの声が生まれた。これまでそんな要求を女性の側からしたことがなかったからだ。3年間も仕事を休みたくない、そのあいだにすっかり取り残される、それに長期にわたる育休は、その後の昇進や昇給、退職金や年金にまで影響する。それより現在の働く女性のあいだでは、職場復帰の時期が早期化している。
ほしいのは育休明け保育だ。3歳児保育なら充足率は高い。足りないのはゼロ歳児、1-2歳児、病児、夜間、一時保育だ。そこに「3年育休」なんて言われたら、ははあーん、これは3歳児未満の保育の充実にお金を使う気がないのだな、と解釈するのが正しい。女を3年家に閉じこめておいて子育てに専念してもらうほうが、安上がりだからだろう。
それ以前に現在の育休制度の点検をすべきだろう。1年育休だって、期間を切り上げて早めに職場復帰するひともいるご時世だ。昔にくらべれば職場復帰の保証があって、育児に専念できるのは福音といってよいが、だからといって、まるで自分が授乳タンクのような気分で孤立育児を強いられる状況は変わらない。期間限定だと思えばこそ、がまんできる。それに出産の原因をつくったもうひとりの当事者である男親の育休取得はいっこうに進まない。1991年に育休法ができたあと、取得経験者に調査をしたところ、以下のようなことがわかった。
まず第1に、まるまる1年の休みよりも、時短や在宅勤務のようなかたちで、職場となんらかのつながりを保ち続けていたいと思う女性が多かったことだ。第2に、実際に育休をとった女性たちが例外なくこぼしたのは、子どものいない夫婦だけの時代に夫と培った暮らしの協力体制が、1年間の「専業主婦」生活のなかですっかり役割分担体制に変わってしまうことだ。妻が家にいれば、夫はとめどなく妻の負担の上にあぐらをかく。育休前より育休あけのほうが子育ての負担がどっと来るのに、夫のほうは手抜きが身についている。その夫をふたたび協力体制に持っていくまでにたいへんな苦労をした、と多くの女性がこぼした。なかには夫を変えるのをあきらめて、自分で何もかも背負ってしまうスーパーウーマンもいる。
女性を「活用」したいという政治が、ほんとうに女性の思いを大事にしてくれているかどうかについては、警戒したほうがよさそうだ。(『京都新聞』「現代のことば」2013.6.10付け)
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