2013.09.20 Fri
文藝春秋から新刊が発売。9/20日です。題して『女たちのサバイバル作戦』、ネオリベ時代を生き抜くために。『文学界』で長期連載していた原稿が本にまとまりました。それで『文藝春秋』本誌に「自著を語る」を寄稿。以下はその原稿の転載です。
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雇用機会均等法から約30年
働く女性はしあわせになったか
日本でウーマン・リブが誕生してから40年。このあいだに、日本の女は生きやすくなったのでしょうか。海外メディアや若いジャーナリストにそう問われるたびに、わたしはうーむ、と考えこんでしまいます。
GDPは世界3位なのに、女性の地位を示すGEM(ジェンダーエンパワメント指数)では58位(2009年)、GGI(男女平等指数)では101位です(2012)。男女賃金格差は縮小しないし、出産離職率も長期にわたって横ばいのまま。日本の女の状況がよくなったとはとても思えないからです。
こんな時代、女性はどうやって生き延びていけばよいのでしょう?
とりあつかった時代は均等法から今日までの、ほぼ30年間にわたります。そのなかで女にとってもっとも深刻だと思われる雇用と労働を中心に論じました。というのも、職がない、ということは食えない、ということと同じだからです。食わせてくれそうな男は激減しました。女が仕事を奪ったせいではありません。ネオリベのせいです。うらむなら女をうらまず、ネオリベ改革を推進した犯人たちをうらんでくれ。
その30年間はわたしが働いて生きてきた30年間と、ほぼ重なります。本書はただの評論でもなければ、研究書でもありません。そのときどきに、わたしが怒ったり、笑ったり、してやられたと悔しがったりした同時代の記録でもあります。その歴史の生き証人としての観察や経験に加えて、データをもとに、世界史的な流れのなかに日本を位置づけ、その時代の波に翻弄されながら、日本の女性がどう変わってきたかを、論じしました。
この30年をひとことでいえば、「ネオリベ改革の時代」と言ってよいでしょう。ネオリベことネオリベラリズム、新自由主義と訳されます。市場原理主義と訳されることもあります。市場による公正な競争を通じて優勝劣敗が決まり、勝者は報酬を受け敗者は退場していく…のが、競争のルールです。
ネオリベ改革が労働市場にもたらしたのは「労働のビッグバン」こと非正規雇用の規制緩和でした。その結果起きた「雇用崩壊」から「格差」が拡大したと言われますが、「格差」はそれ以前から女性の問題でした。現在、非正規雇用者の7割は女性、女性労働者の6割が非正規雇用者、新卒採用の女性の5割以上を非正規が占めます。女性の選択肢は多様化したと言われますが、それはほんとうに自由な「選択」だったのでしょうか?
ネオリベと「男女共同参画」とナショナリズムとのあいだには、奇怪な関係があります。ネオリベ政権は「女性の活用」がお好き。それなのにネオコンと結託してナショナリズムを煽り、ネオリベ改革でワリを食ったネウヨが女叩きに走る…安倍総理を見ていると、その関係がよ〜くわかります。なんでこうなるの?という謎も本書で解きました。
政府も企業も女を「活用」する気でいます。使える女は「男なみ」に。そうでない女はつごうのよい使い捨てに。総合職正社員は連日の残業で結婚も出産もできないぐらいテンパっています。子どもを産んだばっかりにマミートラックにはまって抜けだせなくなり、くさっている女子社員もいます。これまで女の定食コースだった一般職は崩壊し、派遣やパートに置きかわってきました。契約終了や派遣切りに怯える女性たちは、将来プランも立てられません。これまで女は職場進出をのぞんできましたが、こんな働き方をのぞんだわけではありませんでした。
その結果は、想定以上の少子化でした。女が子どもを産んでくれない!と政財界は悲鳴をあげていますが、暮らしの安定のないところで、女は子どもを産む気になれません。昨今のマタハラ報道やベビーバギー論争をみていると、この国は女に子育てを押しつけてあとは知らん顔をしている、「子どもギライ」の社会だと思えてなりません。こんな社会で、少子化が改善するきざしなんてないと言ってよいでしょう。
本書を書くのは気が重いしごとでした。ましてや昨年12月の衆議院選挙、今年7月の参議院選挙のあとは、もっと気が重くなりました。というのは、日本の政治はどう考えても女にとって困った方向へ向かっているからです。
とはいえ、どんな世の中でも女たちは生き延びていかなければなりません。サステイナブルよりサバイバル。時代はそこまで来ている、とわたしには思えます。本書はずーっと働いてきたあなた、いまテンパっているあなた、くさっているあなた、これから働くあなた、「就活」中の娘を持つあなた…に読んでもらいたいと思います。
最後に。まさかこのわたしが文藝春秋から本を出すとは思いもよりませんでした。わたしが変わったわけではありません。その程度には、文藝春秋も変わったのでしょう。何より女性編集者を採用し、その女性たちが社内でサバイバルしてきたからこその変化です。文藝春秋社さん、わたしの本を出してくださってありがとう。
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