2014.01.25 Sat
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『三年前(2010年)のこと、ネグリさんの最初の来日が決まったとき、ネグリさんが日本に来たら「日本のマルチチュード」に会いたいという意向をお持ちだとお聞きしました。(中略)もしわたしなら、ネグリさんを、そういう女性たちが始めた社会的企業の現場へお連れしたいと思いました。そこでこそ、日本のマルチチュードたちがつくりあげたアウトノミアを、ネグリさんに紹介できると信じたからです。そのアウトノミアを牽引しているのは、日本では、無位無冠の草の根の女性たちでした。』(p.61)
本書には、2013年4月6日に行われたシンポジウム「マルチチュードと権力:3・11以降の世界」にて発表された内容が収められている。
「そういう女性たち」とは、育児や介護など、ケアのニーズに応えるために相互扶助、相互依存の仕組みを自分たちの手でつくってきた女性たちである。
原発事故以後、組織されない多様なひとびとの自発性の発現があったが、その民衆のパワーは政治的求心力を持つことができず、有権者は2012年12月の選挙では旧勢力の復活を選択した。しかし、政権にも制度の変更にもふりまわされない草の根のマルチチュードの力、その底辺を支えている名もない日本の女性たちの実践があることを、上野さんはネグリ氏に知ってもらいたいと語る。
『世界を変えるための唯一のまっすぐな道は存在しないが、曲がりくねった茨の道はおおい。その道に沿って、私たちはたえず道を切り開いていかなければならない。』(p88)とネグリ氏は言う。ならば、嘆いているだけのヒマなどない。腐った水が覆う井戸でも、湧き出る清らかな水の存在を信じて汲み出すことを止めなければ、浄化される。大切なのは活動し続けること、自分に、知る力と信じる力を持ち続けることなのかもしれない。
堀 紀美子
青土社
2013年7月発行
『現代思想 七月号 特集 ネグリ+ハート〈帝国〉・マルチチュード・コモンウェルス』上野千鶴子他
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