上野研究室

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オレオレ詐欺にひっかかる老女たち ちづこのブログNo.60

2014.02.06 Thu

報道によれば昨年1年間のオレオレ詐欺の被害額は486億円。1日あたり1億3千万円が詐取されているのだとか。オドロキである。
朝日新聞石川版連載の「北陸六味」から。

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息子のため母だから

オレオレ詐欺の被害件数が減らない。誰かが指摘していたが、ひっかかるのはバアサンが多い。父親なら、「おまえの責任でどうにかせえ、オレは知らん」と言う人もいそうだ。昨年、TVタレントが、息子の刑事事件で、大人になった息子の犯罪に親は責任がないという趣旨の発言をして物議をかもしたが、正論にはちがいない。
だが、母親なら同じことをいうだろうか?息子の失敗は自分の子育ての失敗。息子の苦境は自分の責任。息子が40代になっても50代になっても、そう思いつづけている母親は多そうだ。
だからこそ、会社のカネを使いこんだ、とか、トラブルに巻き込まれて示談の必要に迫られたとかの脱法的な行為ですら、自分がなんとかしてやらなくちゃ、と思うのだろう。
それにしてもいつも不思議なのは、何百万円ものおカネを老女が自由にできること。それも夫を見送ったひとりぐらしだからこそ。夫名義の家だけでなく、夫の金融資産と遺族年金、それに生命保険金も入ってくる。これは家計エコノミストの荻原博子さんに教えてもらった。この世代の男性は生命保険の加入率が高いのだという。
いくつになっても母は息子に何かしてやりたくてしかたがない。自分に頼ってくれば、うれしくてたまらない。そんな気持ちをよく知っていて、その母心にオレオレ詐欺はつけ込んだんじゃないだろうか?
このゆがんだ(と言いたいが)母子関係が、高齢者虐待の温床になっている、と指摘するのは社会学者の春日キスヨさんだ。「変わる介護と家族」(講談社現代新書)によれば、虐待がなかなかオモテにあらわれないのは、被害者がいないからだ。いや、被害者に被害者の自覚がないからだ、と言う。周囲からはどう見ても虐待に当たる事例でも、本人は加害者の息子をかばい、息子をこうさせてしまったのは母親の自分のせい、と感じるのだとか。
いったいいくつになったら、母親は「親業」を卒業できるのだろうか?
それも女に、母親というアイデンティティをおしつけ、それしか与えなかった世の中のゆがみのせいじゃないのだろうか。カネで息子の愛情を買おうとするようなオレオレ詐欺の被害者を見ていると、つらくなる。(「北陸六味」朝日新聞石川版2014年2月1日付け)

カテゴリー:ブログ

タグ:子育て・教育 / 上野千鶴子

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