2014.12.10 Wed
選挙期間につき、こんな記事を書きました。アベノミクス解散がどんな危険なばくちなのか、を知ってほしいと。
毎日読書日記
破滅へとひた走る赤字国(毎日新聞 2014年12月09日 東京夕刊)
http://mainichi.jp/shimen/news/20141209dde012070004000c.html
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■ジャパン・クライシス ハイパーインフレがこの国を滅ぼす(橋爪大三郎、小林慶一郎著・2014年)筑摩書房
■日本財政 転換の指針(井手英策著・2013年)岩波新書
■社会的包摂の政治学 自立と承認をめぐる政治対抗(宮本太郎著・2013年)ミネルヴァ書房
■生活保障のガバナンス ジェンダーとお金の流れで読み解く(大沢真理著・2014年)有斐閣
■経済ジェノサイド フリードマンと世界経済の半世紀(中山智香子著・2013年)平凡社新書
行きすぎた円安の影響で3年つづけて日本は貿易赤字だという。通貨の価値は国富への国際評価。それを切り下げてまで安倍政権は円安へ舵(かじ)を切った。このままでは日本は財政赤字に貿易赤字、世界最悪の「双子の赤字」国となる。
アベノミクスが登場したとき、これは「日本経済をカタにとったばくち」だと思った。ばくちで負けこみそうになったので、あわてて選挙民の目の前で景気よくルーレットを回す。政府がカジノ導入に熱心なのはそのせいだろうか。
日本経済の危機がどのくらい深いかを目のあたりに見せてくれるのが橋爪大三郎・小林慶一郎さんの『ジャパン・クライシス』だ。いったんインフレが始まればそれを2%以内に収めるよう、「アンダー・コントロール」するなんて誰にもできない。ハイパー・インフレになれば高齢者の資産はちゃらになる。そんな怖いばくちに、国債も年金も乗せられている。もはや増税は一刻の猶予もならない。財政再建のために消費税35%で50年間、という本書のシナリオはすべて将来世代へのツケになる。
日本国民に「痛税感」がつよく、税金が上げられないのは、中産階級に税の還元が実感できないため、と井手英策さんはいう。こういう時こそ、長いタイムスパンで日本の財政構造についてがっちり勉強したほうがよい。『日本財政 転換の指針』はそのための絶好の教科書だ。90年代から日本は減税に次ぐ減税を実施した。消費税すら「減税のための財源を得るための増税」だった、と井手さんは指摘する。その背後にあったのは「土建国家」である。だが人口構造が変わり国民のニーズが変化すると、中産階級すなわち税負担をもっとも重く背負っている給与所得者の同意を得るには、再分配へのシナリオを提示しなければならない。国民に受益感がなければ、「租税抵抗」はなくせない。
そう、税金は何のために払うか? 自分自身の福祉に返ってくるためだ。財源がなければ再分配には回せない。消費増税を先送りすれば、社会保障政策はそのあいだすべてストップする。払ったものは戻ってくる、税金とはほんらいそのためのものだ。
再分配のための社会保障のグランドデザインを提示するのが宮本太郎さんの『社会的包摂の政治学』である。ワークフェア、アクティベーション、ベーシックインカムを選択肢とする議論の骨格は太く、射程は長い。この三つの福祉政治の違いが、よくわかった。ひさしぶりに読み応えのある理論書を読んだ。
再分配システムの分析にジェンダーを組み込んだのが、大沢真理さんの『生活保障のガバナンス』である。大沢さんは豊富なデータをもとに、日本の再分配政策が貧困層に冷たく、女・子どもに手うすいことを証明する。日本の強固な男性稼ぎ主型の生活保障システムこそ、「女性活躍社会」を阻むものだ。
もう1冊、才気あふれる経済学者、中山智香子さんの『経済ジェノサイド』を。ジェノサイドとは集団虐殺のこと。アベノミクスの背後にあるネオリベラリズムの経済理論を唱えたフリードマンを、学説史に位置づけて紹介し、的確に批判する。
わたしたちは、破滅に向かって暴走する列車から降りられないのか。
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