上野研究室

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消費増税先送りのツケは次世代に ちづこのブログNo.80

2014.12.12 Fri

朝日新聞北陸版(北陸3県限定版)にこんなコラムを書いています。
今回は選挙がテーマ。消費増税先送りで信を問う、っていうんだから、そのとおり信を問おうじゃないのよ、と。
だめ押しでしつこく論じました。

借金のツケは次世代に(12月12日付け朝日新聞北陸版コラム『北陸六味』)
アベノミクス解散だという。のんびりしたことを書いていられなくなった。
消費増税を先送りするという。与野党3党合意で決めた法律をみずから破ることになる。だから信を問う、という。野党の多くが「先送りやむなし」という「抱きつき作戦」をとったおかげで、消費増税は争点にもならなくなった。なんのための解散か、さっぱりわからない。
このところ「財政規律」も「プライマリー・バランス」も聞かなくなった。「復興支援」の名目でやりたい放題。ついでに凍結していた北陸新幹線も開通することになった。財源はすべて借金だ。財政再建を先延ばしすれば財政赤字が増える。国債をどんどん発行すれば、国債への信用不安が生まれて、金利が上昇する。インフレ・ターゲットを2%にするというが、いったんインフレが始まったら「アンダー・コントロール」なんてわけにいかない。お札が紙切れになるハイパー・インフレが起きる。国は借金の重荷が減って歓迎かもしれないが、年寄りの金融資産は目減りし、老後不安がつのる。
日銀はインフレ・ターゲットに向けて、再び異次元金融緩和に踏み切った。国内に通貨がだぶつけば、円安になる。輸出企業にはよいかもしれないが、資源を輸入に頼っている日本では、物価高にはねかえる。ガソリンも電気も高騰し、消費者物価に影響するだろう。庶民の生活不安は高まる。
消費増税はもともと社会保障財源の確保のためだった。財源がなくなれば、福祉政策はすべてストップする。とくに育児支援などの新規分野は「ない袖はふれぬ」となり、その結果、少子化はますます進行するだろう。
そんなところに、橋爪大三郎さんと小林慶一郎さんの共著『ジャパン・クライシス ハイパーインフレがこの国を滅ぼす』(筑摩書房、2014年)を読んだ。税金はかならず国民に返ってくる、ハイパー・インフレは国民の生活を破壊する……、どちらがましか?と問いかける。この財政危機を脱するには、消費税35%を50年間つづける必要があるという。背筋が凍る思いだ。
これまでに積もりにつもった国債などの日本政府の借金は、国内総生産のおよそ2倍、国民ひとりあたり800万円。消費増税先送りは、家計が破綻しているのに、消費者金融からおカネを借り続けるようなものだ。おカネの蛇口を握る日銀を、政治の支配下に収めるという汚い手口まで使った。これらの借金は、すべて将来世代のツケにまわる。
風が吹けば桶屋がもうかる……よりも、ずぅーっとわかりやすい算数の問題だ。安倍自民党は「この道しかない」というが、わたしたちは、破滅に向かって暴走する列車から降りられないのか。わたしには、そう聞こえる。「信を問う」なら、この「借金垂れ流し無責任内閣」に対して、だろう。(社会学者)

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タグ:くらし・生活 / 上野千鶴子