2015.10.26 Mon
さる10月21日参議院議員会館で「緊急声明 「慰安婦問題」解決のために 」の記者会見に、呼びかけ人のひとりとして参加してきました。月末の日韓会談を目前にして、安倍政権に働きかけをしようというものです。緊急署名は10日間のあいだに1543筆を集めました。この問題を長い間憂慮してこられた重藤都さん、中村ひろ子さんらI女性会議を中心にしたメンバーの尽力によって可能になったものです。当日は香山リカさんは参加されませんでしたが、山崎朋子さんがご参加、これまでの女性史研究にもとづく実感あふれるスピーチをなさいました。
これから、この声明書をたずさえて、首相官邸と外務省に申し入れに出向く予定です。たとえ政権が一顧だにしなくても、こうした市民の声を地道に上げつづけることは大切です。重藤さんからは過去の申し入れの際の官邸と外務省の担当者の対応の違いなど、興味深いご報告をお聞きしました。
それにつけても、日本のメディアの感度の悪さよ。韓国メディアは4社に案内を出して2社、日本メディアは16社に案内を送って来たのは2社、うち1社は途中でいなくなりました。朝・毎・読の全国紙はもとより主要メディアはまったく黙殺。朝日は「慰安婦」報道でミソをつけたのだから、この問題は誠実にていねいに追ってもらいたいものです。
以下当日配布資料をご参考におつけします。この問題に上野がどういう立場をとっているかについては3)をご参照ください。
1)慰安婦問題解決の会「緊急声明 「慰安婦問題」解決のために」
2)第12回日本軍「慰安婦」問題アジア連帯会議「日本政府への提言 日本軍「慰安婦」問題解決のために」
3)上野千鶴子「慰安婦問題解決握る『安倍談話』」毎日新聞7月14日付け
参考資料)
1)慰安婦問題解決の会「緊急声明 「慰安婦問題」解決のために」
緊急声明 「慰安婦問題」解決のために 2015年10月15日
私たちは、「戦後70年 安倍首相談話」の発表に向けて、慰安婦問題解決を進める決意を盛り込んでほしいと願ってきました。
本年6月13日、韓国朴槿恵大統領が『ワシントン・ポスト』紙へのインタビューで「日韓の慰安婦協議が進展している」と語り、ついに待たれていた日韓政府間の交渉が進むと思いました。6月23日には、日韓外相会談が開かれ、世界遺産申請の協力とともに、慰安婦問題の協議の継続で合意が成立し、私たちの期待はさらに高まりました。
ですから、私たちは、8月の安倍首相談話では、交渉の進展にたって、慰安婦問題解決への前進が確実なものとして示されると信じていました。
しかしながら、発表された安倍談話では、朝鮮に対する植民地支配の反省は述べられず、慰安婦問題についての直接的な言及もありませんでした。ただ、この談話の中で、「戦場の陰には、深く名誉と尊厳を傷つけられた女性たちがいた」、「私たちは、二十世紀において、戦時下、多くの女性たちの尊厳や名誉が深く傷つけられた過去を、この胸に刻み続けます」と、二度にわたって、言及しています。これが暗に慰安婦問題を指した言葉だということはあきらかです。まるで過去の出来事として他人事のように語り、日本の責任はまったく語らず、真摯なお詫びとはほど遠い表現です。それでも、このような表現を含めたことは、安倍首相が慰安婦問題についての解決を忘れていないと伝えているようにも見えます。
安倍首相は迷い、逡巡しているのでしょうか。10月半ばには朴大統領は訪米し、ワシントンからふたたびメッセージを発しようとしています。10月30日にはソウルで韓中日の三国首脳会議が開かれます。その折には日韓首脳会談が開かれ、慰安婦問題の解決で、日韓関係の正常化が重要です。日本国首相は決断すべきです。
慰安婦とされた方々の苦難は現在も続いています。9月15日には、韓国「ナヌムの家」に暮らす被害者たちが会見をされました。あらためてこの方々のお気持ちが伝わってきました。韓国での生存者はすでに50人を切りました。慰安婦問題の解決は被害者がうけいれうる解決案を日本政府が提示しなければ不可能だということは、過去25年の経過から明らかです。その意味で昨年6月アジア連帯会議で確認した「日本政府への提言」は解決案になるものと思われます。そこでは加害事実を認定して謝罪すること、謝罪の証として被害者に賠償することが求められています。
私たちは要求します。安倍首相はすみやかに韓国政府と慰安婦問題解決のための交渉をおこない、提案されている民間の声をうけとめながら、解決案をとりまとめ、両国政府の合意をつくりだしてください。安倍談話に述べられた「戦場の陰で深く名誉と尊厳を傷つけられた女性たち」の運命への言及がたんなる言葉のかざりではないことを示していただきたいのです。
私たちのこの要求は、日本に住む女性の多数の願いを代弁するものであると信じて、発表します。
緊急声明 慰安婦問題解決の会 呼びかけ人
上野千鶴子 香山リカ 清宮美稚子 山崎朋子 重藤都 高橋広子 村上克子 中村ひろ子
賛同人2015年10月20日現在 1543人
2)第12回日本軍「慰安婦」問題アジア連帯会議「日本政府への提言 日本軍「慰安婦」問題解決のために」
日本政府への提言 日本軍「慰安婦」問題解決のために
今、全世界は女性に対する重大な人権侵害であった日本軍「慰安婦」問題の解決を、日本政府に切実に求めている。日本軍「慰安婦」問題を解決することは、近隣諸国との関係を正常化する第一 歩であり、世界平和に資するための基礎を築くことである。そして「解決」とは、被害当事者が受け入れられる解決策が示された時にはじめて、その第一歩を踏み出すことができる。
では、被害者が受け入れられる解決策とは何か。被害者が望む解決で重要な要素となる謝罪は、誰がどのような加害行為をおこなったのかを加害国が正しく認識し、その責任を認め、それを曖昧さのない明確な表現で国内的にも、国際的にも表明し、その謝罪が真摯なものであると信じられる 後続措置が伴って初めて、真の謝罪として被害者たちに受け入れられることができる。
戦後も心身に傷を抱えて被害回復ができないまま苦しみの人生を生きてきた被害者たちが高齢化した今、日本がこの問題を解決できる時間はもうあまり残されていない。第12回日本軍「慰安婦」問題アジア連帯会議に参加した被害者と支援団体と参加者は、日本政府が「河野談話」を継承・発展させ以下のような事実を認めた上で、必要な措置を講じることを求める。
日本軍「慰安婦」問題解決のために日本政府は
1、次のような事実とその責任を認めること
① 日本政府および軍が軍の施設として「慰安所」を立案・設置し管理・統制したこと
②女性たちが本人たちの意に反して、「慰安婦・性奴隷」にされ、「慰安所」等において強制的な状況の下におかれたこと
③日本軍の性暴力に遭った植民地、占領地、日本の女性たちの被害にはそれぞれに異なる態様があり、かつ被害が甚大であったこと、そして現在もその被害が続いているということ
④ 当時の様々な国内法・国際法に違反する重大な人権侵害であったこと
2、次のような被害回復措置をとること
①翻すことのできない明確で公式な方法で謝罪すること
②謝罪の証として被害者に賠償すること
③真相究明: 日本政府保有資料の全面公開
国内外でのさらなる資料調査
国内外の被害者および関係者へのヒヤリング
④再発防止措置:義務教育課程の教科書への記述を含む学校教育・社会教育の実施
追悼事業の実施
誤った歴史認識に基づく公人の発言の禁止、および同様の発言への明確で公式な反駁等
2014年6月2日
第12回日本軍「慰安婦」問題アジア連帯会議
3)上野千鶴子「慰安婦問題解決握る『安倍談話』」毎日新聞7月14日付け
毎日読書日記
和田春樹『慰安婦問題の解決のために アジア女性基金の経験から』平凡社新書、2015年
松竹伸幸『慰安婦問題をこれで終わらせる』小学館、2015年
木村幹『日韓歴史認識問題とは何か 歴史教科書・「慰安婦」・ポピュリズム』ミネルヴァ書房、2014年
戦後70年の節目に発表されるはずの「首相談話」が、閣議決定を経ないものとなる予測が立ってから、ひとまずこの問題への関心は沈静したかのように見える。だが、将来、「河野談話」(1993年)、「村山談話」(1995年)と並んで、「安倍談話」と呼ばれるようになるだろうこの談話の内容次第では、東アジアをめぐる国際情勢がさらに悪化することが予想される。村山談話は閣議決定を経ているが、河野談話はそうでない。閣議決定を経なくても歴史的談話として日本政府の立場に一定の拘束力や影響力があることはたしかであろう。安倍首相を後継政権に指名した小泉純一郎は在任中の5年間に5回靖国神社を参拝し、そのたびに、日中関係が冷えこんだ。ために東アジアの国際情勢の改善を5年間遅らせたと言われた。このような状態では、「東アジア共同体」はもとより、経済協定においても、日本がリーダーシップをとることは夢のまた夢であろう。
2015年度の読売・吉野作造賞を受賞した木村幹『日韓歴史認識問題とは何か』は、80年代にさかのぼって日韓関係の歴史をたどりながら今日の日韓関係がこれまでにない「深刻なデッドロック状態」に陥ったとする。そこに至る日本と韓国、双方の外交上のアクターが、関係改善の試行錯誤の過程で、せっかくの努力の成果をぶちこわしにするような「妄言」や失政の積み重ねから、関係をこじらせにこじらせていく詳細な記述は、読んでいて陰々滅々とする。外交はアートだ、そして失敗した外交は人災であるという感をつよくする。
戦後70年を保守党でももっとも右派とされる安倍首相のもとで迎えなければならない歴史的条件のもとで、予想される「安倍談話」が「慰安婦」問題をどう扱うかが、注目の的になっている。日本政府さえその気なら「慰安婦問題は解決できる」という貴重な提案が、当事者および支援団体からすでに提案されているからだ。2014年5月の「日本軍『慰安婦』問題アジア連帯会議」の決議「日本政府への提言」がそれである。それを受けて、アジア女性基金の中心人物のひとりだった和田春樹さんによる『慰安婦問題の解決のために』は、一歩踏みこんだ提案をしている。これまでにない新しい展開は、「法的責任か道義的責任か」の二項対立を回避したことだ。解決は「公的謝罪」と「謝罪の証としての賠償」に尽きる。あとはそれにどう応えるかは日本政府が考えることだと。名分より実質を尊重しようという態度に交渉の相手が出たときに、それに応じないのは卑劣で無責任のそしりをまぬがれないだろう。
「民間基金」の見かけをとったばかりに多額の公費を投入しながら挫折したアジア女性基金の失敗は、日本が「基金」という外交カードと時間とを浪費してしまったことを意味する。同じカードはふたたび使えないばかりか、関係者の双方にトラウマを残してしまった。和田さんの最近の発言「アジア女性基金はそのコンセプトからしてまちがっていた」という反省は重い。
同じような焦迫感から松竹伸幸『慰安婦問題をこれで終わらせる』は書かれている。松竹さんは「歴史的責任」という概念を使う。右派にも学ぼうという松竹さんの姿勢は柔軟だ。だが、「終わらせる」ことができるのは、唯一被害者の側の同意だけだ。加害者の側が声高に言うことではない。
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