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SR(社会的責任)をめぐる冒険:その3

2013.08.03 Sat

先回のエッセイはお茶を濁して終わってしまい、すみませんでした<(_ _)>。今回の話題は、「その1」で少しだけふれたCSRの現状と課題について。わたしが2008~2009年に関わったCSRレポート調査での発見もちょびっとふまえて、簡単にまとめてみます。

企業の社会的責任(CSR)への関心が時代とともに高まってきたのは、世界各地でたくさんの企業が引き起こしてきた、さまざまな環境汚染や不祥事などの、いわゆる「事業の悪影響」がきっかけになっています(事例は、枚挙にいとまがありません…)。プラスにもマイナスにも社会や環境への影響力が大きい企業への期待はやがて、企業倫理や法令順守(コンプライアンス)から、透明性の担保や信頼性向上のための情報開示、さらには企業とそれを取り巻く社会・環境との関係性の維持向上(前述をすべて含むのがCSRです)へと広がってきました。2003年が日本における「CSR元年」だと言われており、そのあたりからCSRへの取り組みが充実してきたことはお話ししましたが、いまや企業は自社の株主利益の最大化だけを責任として負っているのではなく、自社を取り巻くさまざまな利害関係者(ステークホルダー。消費者、従業員、取引先、地域社会、自然環境など)に対しても責任を負っている、というのが共通認識となりつつあります。

とはいえ、企業の不祥事は相変わらず後を絶ちませんし、「建前としてはその通りだけれども、自社以外への目配りや配慮をして、なお利益を上げる事業をしていくのは至難の業だ」と考えている経営者も少なからずいます。CSRがクローズアップされるほど、批判の矛先を自分に向けられていると感じる企業もあるのかもしれませんが(この構造は「男女共同参画」に通じるものがあると思いますねー)、それはCSRに対する誤解があるのでは?というのがわたしの見解です。「何故、何を目的として」を見失わない限り、CSRの取り組みが自社に不利益になることはなく、むしろ企業の基盤強化につながる、メリットの大きなことだと思っています。

加えて、積極的に行われている取り組みにおいても、その内容を見ると、社会・環境のすべての側面に目配りできているとは言い難いのが日本のCSRの現状です。日本の企業が発行するCSRレポートから、各社の取り組み内容をざっと把握してみても、環境面への取り組み報告に偏ったものが多く、社会面(特に人権)に対しての報告が圧倒的に少ないことは、すでにお話ししました。ごく簡単なところで、レポート名の変遷だけをたどって見ても、「環境報告書」からスタートして2003年辺りを境に「CSR報告書」へと移行した企業の多さが、そのことを物語っているように思います。余談として環境面での取り組みが充実しているのは、日本の企業の大きな特徴のひとつですが、それには、環境経営のシステム規格(認証規格)であるISO14001の存在が一つの理由であることは間違いありません。この取得企業数が、日本は圧倒的な多さで世界一です。

さて、わたしの調査した2009年時点、CSRレポートに記されている環境面についての報告では、数多くの項目に関して測定値の経年推移、中長期も含めた目標値、目標達成度など事細かなデータが開示されているところが多い一方で、社会的な取り組みに対する報告では、残念ながらほとんどが法令順守に毛が生えた程度の内容でした。「女性の活躍支援」にしても「ダイバーシティ」や「ワーク・ライフ・バランス」にしても、タイトルは掲げられていたとしても、環境報告ほどのビジョンや課題、目標値、目標達成度の開示がされていないのです。前年度と全く変わらない文章だけのものもありました。(ちなみに、データの開示が少ない項目に「従業員をとりまく状況」のデータ開示がありますが、わたしが調査した中で、パートタイマーを含む非正規職員の内訳までデータを開示されていたのは「サラヤ株式会社」さんのみでした。2012年度報告書「環境レポート」でも、単年度分ですが開示されています。) 報告がそうであるならば、実際の取り組みも意識も偏っている、と見るのが妥当ではないでしょうか。そのことをさかのぼって裏付けるように、2004年に経産省が報告した調査結果「企業の社会的責任(CSR)を取り巻く現状について」において、CSR報告書(62社を調査)における、「環境以外で重視する項目」は上位から「社会貢献(ほぼ全社)、安全衛生、人事・教育研修、製品サービス(それぞれ40社ほど)」の順であり、それらより低いのが「雇用、多様性と機会均等(30社弱)」、さらに上位の半分(20社が重視)に満たないのが「労働/労使関係、人権、児童労働、地域社会、プライバシーの尊重等」という順になっていました。

読者(つまり、企業にとっての多様なステークホルダー)の関心がそこにない、とは思えないですし、この開示の偏りと不足に光を当てていくことが今後の課題になると思います。わたしの示したデータの一例はかなり古いのですが、それから年月のたった、2013年現在のCSRをとりまく様相はどうなっているのでしょう。(また、ちょっと調べてみたくなりました。どなたか、有効なデータや取組の素晴らしい企業をご存知でしたらお知らせいただけると嬉しいです)

そんな、社会のCSRへの関心や取り組みの高まりとともに、発展的に生まれたのが「C」を取ったSR、つまり「すべての組織にとっての社会的責任」という考え方です。次回、このSRの誕生部分につなげます(ようやく!)。上記のお話の、もうちょっと詳しくを知りたい!と思った方、あるいはSRについて予習したい方(いないかもだけど!)は、わたしが所属するNPO法人参画プラネットの事業報告書『プラネットの軌跡2009』で執筆した文章『「男女共同参画」の視点からSRの可能性を探る―持続可能性をもった社会の実現に向けて』に書いてありますので、お目通しいただければ幸いです。(中村奈津子)

タグ:SR(社会的責任)をめぐる冒険