理想 695号(2015) 特集:男女共同参画

理想社( 2015-09 )

真理を探究する学問である哲学は、性差に関わりなく開かれたものでなければならない。しかし、女性が哲学研究することのしんどさはどこから来るのだろうか。

日本哲学会(http://philosophy-japan.org/)では、男女共同参画・若手研究者支援ワーキンググループを組織して、ワークショップを企画してきました。『理想』「男女共同参画」特集号では、これまでのワークショップの成果が中心に掲載されています。哲学・思想系の専門誌で「男女共同参画」特集が組まれたのは画期的なことです。哲学は変わらない真理を探究し続けているけれども、現代社会のなかで性差に関わりなく真理を探究するすべは開かれているのかを、本特集では問い直します。

2013年のワークショップ、「哲学とミソジニー」では、若手女性研究者が哲学研究することの困難さを赤裸々に語り、哲学にひそむミソジニーを露呈させました。2014年のワークショップ「若手・非-常勤職研究者問題を考える」では、哲学専門分野の学生の男女比を調査して、女子学生比率が学部、修士課程、博士課程と進むに従って下がること、またその下がり方には国公立大学と私立大学で差があることを明らかにしました。2015年のワークショップ「gender equality(男女共同参画)の理念と現状」では、ジェンダー平等について哲学の視点から問い直し、アファーマティブ・アクションについて哲学的観点から考察を加えました。

哲学は、理性/自然、精神/身体、国家/家族という区分が男性/女性に割り振られてきた意味づけを問い直し、この枠組の内部から哲学そのものの意味と可能性を見直す必要があります。それは哲学からの挑戦であり、そこに新たな男女共同参画の哲学が誕生する必要があります。さらに生殖や月経といった身体経験や、女性が言葉を語ることの意味、男性研究者から見た男女共同参画の意味を考察します。哲学の伝統に真摯に対峙しつつ、公正さを問いながらジェンダー平等を実現することこそ、現代における哲学の使命です。(執筆者・小島優子)
      
目次
理想 第695号 【特集 男女共同参画】
・哲学とミソジニーの構造―「女性であること」をめぐって―  小島優子
・“gender equality”と「男女共同参画」の間を読み解く―語ることの難しさと哲学的視点―  岡本由起子
・説得の技法―gender equalityの実現可能性を巡って―  和泉ちえ
・アファーマティブ・アクションの哲学―<男女共同参画>の規範的論拠をめぐって―  池田喬
・男女共同参画と若手研究者支援―男性研究者の視点から―  小手川正二郎
・「哲学・思想系」学部大学院男女構成比調査から見えてきたもの―「私立大学博士課程 ギャップ」を中心にして―  金澤修
・哲学、女、映画、そして…    今村純子
・月経について語ることの困難―身体についての通念が女性の社会参画にもたらす問題点―  宮原優
・生殖の「身体性」の共有―男女の境界の曖昧さ―  中真生
・フェミニスト現象学とその応用―つながりの「知」への展開―  稲原美苗
・フェミニスト現象学から考える男女共同参画  齋藤瞳
・「男らしさ/女らしさ」とナラティヴとしての生物学的本質主義―男女共同参画の困難の 根元を考える―  筒井晴香
・宇宙開発業界における男女共同参画を通して考える多様性と一様性について  石崎恵子