失業率の高いEU(2014年データで11.6%。日本は同年3.6%)ならではの映画、と言えるかもしれない。
主人公サンドラは、うつ病の治療のため休職していた仕事にようやく復帰しようとしていた矢先に、勤め先の工場から解雇を言い渡された。社長が提案した「彼女の復職」か「彼女以外の16人の同僚一人当たりに、1000ユーロ(日本円で12~13万円)のボーナス」かの選択を同僚全員で投票した結果、2対14でボーナスが選ばれたから、というのだ。
サンドラはあまりのことに反論する気持ちが萎えそうになるが、それでも親しい同僚に背中を押されて社長へ直談判し、何とか、週末明けの月曜日に再投票をさせるところまでこぎつけた。そこから、彼女の奮闘が始まった――。夫や仲間に支えてもらいながら、週末の二日間でボーナスを選んだ同僚全員の自宅を一軒一軒訪問し、再投票で自分の復職に賛成してもらえるよう説得をして回った、その結果は月曜日にどう出るだろうか?
精神疾患を乗り越えたばかりの彼女に、失業の不安はとても大きなストレスだ。いきなりの解雇通知という、みじめな立場に置かれたのに、さらに同僚を説得して回らなくてはならないなんて、自分のこととして考えても胃が痛くなる。何度か泣き崩れたり、弱音を吐いたりする彼女の不安定な言動は、病気から立ち直ったばかりの脆さもあるけれど、とても人間的に弱いと一蹴できるものではないよなぁ、と考えながら見ていた。同僚たちの反応は実にさまざまで、それを見ているこちらも次第に一喜一憂することになるが、彼ら・彼女らもまた暮らしに不安を抱えた、不安定な立場の労働者であることが見て取れる。
決して愉快なテーマの映画ではない。けれども「仕事を続けたい」と、自分の思いを精いっぱい口に出して同僚と対峙するサンドラは、確実にそれまでとは違う未来を拓いていく。彼女の"これから"を、心から応援したくなるラストが心地よい。移民の労働者と思われる同僚や、臨時雇用の同僚たちの心ある振る舞いに救われたり、あるいは支配的な夫から離れる決心をした同僚の潔い態度を応援したくなったりもする(個人的には、ヴァン・モリソンの”Gloria”を車内で合唱する、開放的なシーンがすごく好き)、厳しいが優しい場面に満ちた作品だ。公式ウェブサイトはこちら。(中村奈津子)
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