
ケース1
妻と離婚することになり、財産分与を話し合っています。私の貯金の中には、結婚前に貯めたお金もあるですが、結婚時にもあった貯金の金額を現在の残高から差し引いていいのでしょうか。
なお、妻が家を出て行って別居してから1年ほど経ちます。預金残高は別居時より今のほうが減っているのですが、今の時点の残高を基準にしていいのでしょうか。
ケース2
以前夫の浮気が発覚したとき、私は許せず離婚したかったのですが、夫から懇願されて思いとどまりました。それでも夫が信用できず、自宅不動産はせめて確保しておきたいと思い、夫から贈与してもらいました。夫も私の不満を抑えられるならと納得していました。
結局離婚することにしたのですが、夫から自宅不動産も財産分与の対象になるからむしろ私が夫に400万円払えと言ってきました。年金生活者の私にはそんな大金払えません。自宅不動産は財産分与の対象になるのでしょうか。
◎いつの時点?
婚姻中に夫婦が協力して形成した財産は、実質的共有財産として、財産分与の対象になります。
ところでその財産というのはいつの時点の財産なのでしょうか。判例は、「訴訟の最終口頭弁論当時における当事者双方の財産状態を考慮して財産分与の額及び方法を定めるべきである」(最判昭和34年2月19日民集13巻2号274頁)としています。別居後、資産が減ったり増えたりしたら?この判例の調査官解説は、「別居後の資産の増減は、民法768条3項の『その他一切の事情』を考慮するにあたって斟酌されるべきである」としています(三淵乾太郎・最判解民事篇昭和34年度23頁)。現在の家裁実務上は、別居時に存在した財産を分与対象の財産としています。たとえば、「清算的財産分与は、夫婦の共同生活により形成した財産を、その寄与の度合いに応じて分配することを、内容とするものであるから、離婚前に夫婦が別居した場合には、特段の事情がない限り、別居時の財産を基準にして行うべきである」とした裁判例(名古屋高判平成21年5月28日判時2069号50頁)があります。
ですからケース1の場合でも原則としては別居時の預金残高が基準です。しかし、別居後に子どもの教育費を補うために使って減少したといった場合には、減少後の現在の財産を対象とする余地もあります。
◎婚姻前から持っていた預金等は?
婚姻前から有する財産や、婚姻中に得たものでも相続したり贈与された財産等は、夫婦が協力して形成した財産ではありませんから、「特有財産」として、財産分与の対象から除外されます。そこで、預金の残高を立証できるのであれば、特有財産として財産分与の対象から除外される可能性があります。ただし、昔の記録が残っていない、取り寄せられないことも多く、立証できないことも少なくありません。その場合、妻が認めてくれるのでもない限り、特有財産として除外してもらうのは諦めるしかありません。
ところで、預貯金は注意する必要があります。実務上、預貯金(特に普通貯金のような入出金を繰り返しながら変動する種別のもの)については、原則として、基準時(ほぼ別居時)の残高全額を分与対象として評価した上で、婚姻時の残高については寄与度の問題として全体的な分与割合を認定する際に考慮されればいいとされています。さらに、実質的婚姻期間がたとえば5年以上にわたる場合には、分与割合に差を設ける必要はないとされています(山本拓「清算的財産分与に関する実務上の諸問題」家月62巻3号35頁参照)。
結婚前の預貯金が普通貯金で、結婚が5年以上で、そのまま頻繁に出し入れしていた、というようなことであれば、特有財産としてそのまま差し引かれることは難しいでしょう。ただ、定期預金等結婚期間中全く動かしていないようなものであれば、考慮されるでしょう。
◎不貞の疑いに募る不満を抑えるために贈与した財産は?
ケース2は大阪高決平成23年2月14日家月64巻1号80頁を参考にしました。婚姻中に夫が不貞をしている疑いがあり、妻としては自宅不動産を確保しておきたいということで、夫から妻に不動産を贈与しました(20年を超える夫婦の贈与税免除規定を使った居住用不動産の贈与)。夫も妻の不満を抑えるためにしたことと認識しています。その後離婚となり、夫は妻に自宅不動産も実質的共有不動産であることを前提として財産分与を請求しました。原審は一定額の財産分与を認めましたが、大阪高裁は、この不動産は妻の特有財産になったと認めるべきだとして、財産分与の対象にならないとしました。妻が乏しい年金で生活していること、夫は生活に不自由していないことにも言及しています。
財産分与に関する問題はまだまだたくさんあります。次回以降も続けます。
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