②「手前味噌」


今年も、味噌仕込みのシーズンがやってきました。
我が家では、一月の終わり頃から、自分たちで育てたお米で糀をつくり、味噌を仕込みます。
味噌の材料は、麹と大豆と塩、だけです。
柔らかく煮た大豆を潰し、塩を摺り付けた麹とよく混ぜ合わせて、樽に詰める。
一日頑張って仕込んでおけば、あとは麹の微生物の働きで、約10ヶ月~1年放っておくだけで、じっくりゆっくり発酵し、美味しい味噌になってくれます。
簡単でおいしい。「発酵」の力は偉大です。
「まるで『発酵』は『発幸』だなぁ。」、なんて夫が言っていました。


味噌にはいろんな種類がありますが、麹の種類(米糀、麦麹、豆麹、etc・・)や麹と豆、塩の配合によって、まったく違った味噌になります。
「手前味噌」とは、慣用句としてはあまり良い意味合いでは使われませんが、家族の好みに合わせて配合を試行錯誤し、「我が家の自慢のお味噌」を作れるようになったら、人様にも「手間味噌ですが・・・」と自慢したくなるのは、当然のことのように思えます。
ちなみに、私も夫も、生まれ育った故郷が寒さの厳しい雪国のせいか、若干塩味が強めで大豆の甘味が強すぎない味噌が好みです。
味噌を混ぜるときは、子どもから大人まで、家族みんなで素手をつっこんで、ワイワイいいながら力いっぱいコネコネします。
人間の皮膚には常在菌という様々な菌が住んでいて、この菌はそれぞれの人の腸内に住む腸内細菌と繋がっているそうです。なので、家族みんなの手の菌が入ることで、味噌も、その家庭に合った味噌になるような、何となく、そんな気がしています。



家族みんなで一年分の味噌を仕込んだら、二月中はあちこちへ出かけたり、自宅にお越しいただいたりして、「味噌づくりワークショップ(WS)」を開催します。
今年は、カフェなどで開催する10人単位のWSと、自宅で行う2~3名のWSを合わせて8回前後予定しています。
参加してくださる方は、30代~40代くらいの女性が中心で、大体、生まれて初めて味噌を作るという方ばかりです。




私自身も、長女が生まれてから食のことに興味をもつようになり、7~8年前に友人から味噌づくりを教わり、自宅で見味噌を作るようになりました。
私の実家は田舎の農家でしたが、祖母が元気なうちは、味噌や様々な季節の漬物、その他、山菜等を干したり塩漬けした保存食なども自宅で作っていました。
小さいころ、祖母はいつも古漬けの様なちょっと酸っぱい匂いがして、幼な心に、田舎くさい感じがして、なんだか恥ずかしいような気持ちがしたものでした。
母親も田舎で生まれ育った人で、農家の仕事を手伝いながら、冬場の農閑期に少しパート勤めをしていたくらいの、いわゆる「主婦」でしたので、バリバリ忙しく働いて時間がなかった訳ではないのですが、それでも、祖母から母へは、それらの保存食の作り方などは、あまり伝わってこなかった様です。
高度経済成長の時代に育った母の世代は、「お金を稼いで、お金で買う」ことが当たり前で、その方が、便利で手間がかからず、“スマートな暮らし方”、というような意識がTVや新聞、雑誌など様々なメディアを通じて形成されてきたのかもしれません。


では、今、私たちのところへ味噌作りに来てくれる若い人たちは、何を目的に来てくれているのでしょうか。
安くてすぐに使える便利な味噌がスーパーには大量に販売されていますが、WSで作っていただく味噌は、無農薬の米糀、オーガニックの大豆、天日塩と、こだわりの品質の高い材料を使用している分、費用もそれなりにかかりますし、食べれるようになるまでに一年もかかります。
それでも、みなさん喜んで参加してくださいます。

安全で、安心で、おいしい食べ物を、家族に食べさせてあげたい。 手作りの楽しさを体験したい。 そういった「場」を通じて、同じような価値観の人たちと繋がりたい。 なんとなく、おもしろそう・・。

お金では買えない、「何か」を求めて来て下さっているように感じます。

喜びと誇りのつまった「手前味噌」作り。

みなさんも、そろそろ初めてみませんか?

shima-nobu-hikari★著
http://shimahikari.jp/