私が「乳がん」の手術後、感銘した本のひとつに『乳がんと牛乳──がん細胞はなぜ消えたのか』がある。イギリス人のジェイン・プラントという研究職の女性が、自らの「乳がん」を克服するために歩んだ道のりを記した本だ。
 彼女は乳製品の摂取と発病との関連性を示し、彼女自身、乳製品を一切摂らない食生活を実践した。4度の手術を乗り越え、健康なからだを取り戻した経緯も書かれている。 「乳がんは必ず克服できる。信じてほしい。実際にできるのだ。私にできたのだから」というメッセージから、私は食事の大切さだけではなく、たくましく生きていくための大きなエネルギーをもらった。
 もちろん私自身の「乳がん」の発症原因が、乳製品の多量接収によるものだったのかどうかはわからない。しかし、病気が発覚するまでの食生活を振り返ると、牛乳は毎日のように飲み、料理にも頻繁に利用してきた。チーズも大好物で、朝食のトーストのトッピングに使い、ワインを楽しむときも、なくてはならないおつまみだった。この本によって、私はこれまでの食習慣を大きく変え、自分も彼女のように、病気に負けないからだをつくろうと決心したのだった。

 「乳がん」はもともと食べ物との関連性が大きいといわれている。しかし、日本人のほとんどの女性は、かつての私がそうだったように、「自分だけは、乳がんになるはずがない」と思い込んでいるような気がする。だが、これまで書いてきたように、近年の疾患率の急激な上昇から考えると、もう他人事ではすまされない状況にきている。「自分も乳がんにかかってしまってもおかしくない」と認識を変え、早期発見や予防の意識を高めなければならないと思う。
 日本でも「乳がん」患者が増え続けている現実と食生活の関連に注目し、近い将来、爆発的に患者が増えることを予測していたのは、『美味しい食事の罠』の著者、幕内秀夫氏だ。同書には、「乳がん」になった女性たちに共通している点として、ご飯をあまり食べずに、砂糖と油脂だらけの「お菓子のような食事」であり、パンやパスタでますます食事は油脂と砂糖まみれ、そのうえお楽しみのデザートを食べる…と書かれている。
私がドキリとしてしまったのは、まるでかつての私の食生活を覗かれているかのようだったからだ。子どものころから、私は油と砂糖がたっぷり入った菓子パンが大好きだった。 中高生時代、お弁当作りは私の仕事だったが、食材がなく、お弁当が作れない日は、菓子パンが食事代わりとなっていた。その習慣はおとなになってからも続き、おやつのときだけではなく、昼食も菓子パンをかじってすますことが度々あった。あの甘さとしつこさが、美味しいものとして、しっかりと私のからだと味覚に沁みついていたのだ。
 砂糖の甘味は血糖値を急激に上昇させるだけではなく、ミネラル分をうばってしまうということさえ知らなかった。たまに菓子パンを食べるくらいならいいが、日常的に、菓子類を食事代わりにしてしまう感覚そのものが問題なのだ。幕内氏の書籍からの情報と、これまでの食生活の反省も踏まえ、私がたどりついた食事法は、日本の伝統的なスタイルである「一汁三菜」だ。穀類や野菜、豆類を中心にして、魚介類もとり入れる。果物もよく食べるようにしているのは、がんと食事法の関連についての研究が進んでいるアメリカでは、抗酸化力の強い成分を含む果物の摂取を推奨しているからだ。

 ひと口に野菜といっても、病気になる前までの食事では「野菜サラダ」に入っているような葉物野菜ばかり食べていた。今では、活性酸素の働きを抑える働きがあるビタミンC、A、Eを豊富に含むニンジン、カボチャ、ブロッコリーなどの緑黄色野菜をよく採る。さらに食物繊維やポリフェノールを多く含むごぼうやレンコンなどの根菜類も意識的に食べるようにしている。
 野菜をたっぷりと食べるようになると、どの野菜が美味しいか、またどうすれば野菜の旨みを引き出させか、料理の勘のようなものが育まれていく。大根は葉っぱまで無駄なく使いきれるようになり、ごぼうなどの根菜類からは良いダシが取れることもわかった。ゴボウやジャガイモは味噌汁に少量入れるだけでも格段に味に深みが増し、残り物の野菜を次々に放り込めば、具だくさんの味噌汁に仕上がる。豆腐、納豆、味噌などの発酵食品や、海藻類もほとんど毎日欠かさない。
 食事の献立を考えるうえで参考にしたのが、柳原和子さんの『私のがん養生ごはん』と岸本葉子さんの『岸本葉子の暮らしとごはん』だ。柳原さんと岸本さんはがんの摘出手術を機に、いったん崩れたからだのバランスを取り戻すために、食材や調味料まで厳選し、食生活を見直した。どちらの本も自分自身でからだの修復する力をつけるための食事療法が詳しく書かれてあり、とても参考になる。
   私は「乳がんが」わかる前より、しっかりとご飯を食べるようになり、一日の食事量はかなり増えたが、それでも体重の増減はない。不規則な生活が続いたときや、季節の変わり目のときにはよく顔にできていたニキビや吹き出物もほとんどできなくなった。 そしてからだが重く、だるいといった慢性的な疲労状態からも解放されたのだった。

書の作品を随時アップしているFacebook のページより~ Setsuko Nakamura "Sho no michi"