たたかう女性学へ―山川菊栄賞の歩み 1981‐2000

インパクト出版会( 2001-01 )

山川菊栄 生誕125周年記念事業(刊行物シリーズ NO.1)

本書は、2000年から2015年の山川菊栄婦人問題研究奨励金(略称:山川菊栄賞)受賞者の記念スピーチを集めたものである。それ以前の20年間の受賞スピーチは『たたかう女性学へ』(インパクト出版会)にまとめられているので参照してほしいが、山川菊栄賞は毎年、期間内に出版された本の中から数冊を選び、選考委員全員が読んで精査をし、菊栄の精神に相応しい作品を選んできた。

年1冊が基本だが、複数だった年もあるし、共著では特別賞になった場合もあった。2015年の授与で終了したのは、大学や学会を基盤とする同様の賞もでてきたので、歴史的役割は終えたとの結論に至ったのだが、以下のような選考理念を考えると残念ではある。

この記録集は、選考委員長の井上輝子が、研究テーマ毎に分類して章立てをしてまとめたが、今日の女性を取り巻く問題が課題別に網羅されていることはもちろん、研究が発展しているのを感じることができ、受賞者だけで課題別のシンポジウムができてしまうのではないかと思われる。

例えば、女性の身体を巡っての項では、柘植あずみ『文化としての生殖技術―不妊治療に携わる医師の語り』、杉浦浩美『働く女性とマタニティ・ハラスメント―「労働する身体」と「産む身体」を生きる』、富士見産婦人科病院被害者同盟・原告団『富士見産婦人科病院事件―私たちの30年のたたかい』、塚原久美『中絶技術とリプロダクティブ・ライツ―フェミニスト倫理の視点から』となっている。 この4人・4冊を見てわかるのは、学術論文だけでなく、裁判闘争に参与した記録も含まれていること、女性の生きづらさを解消するための力になるか否かを判断基準にしたという選考委員会の姿勢が色濃く反映されていることである。

受賞作品は以上のような概観を呈しているが、本書は受賞スピーチを集めたものなので、作品の内容に触れながらも、著者の自分史とその研究にたどり着いた経過が語られている。 したがって、読み物として面白い。それぞれの方の研究に至る経過を知ると、「人はあるとき抱いた疑問をこんな形で追求していくのか」と興味を惹かれるにちがいない。進路に悩む高校生にも、お薦めしたい。(中村ひろ子記) 購入ご希望の方は、山川菊栄記念会へ、ご連絡ください。