タイトルの“僕”と“家庭科教師”は共にジェンダーのメッセージ性を持つ。私は、この本の表紙カバーが気に入っている。“僕”の文字がカラフルになっているところがピッタリくる。“僕(男)”にもいろいろな色づかいがあるということだ。その“僕”から糸がのびて裏表紙のスピンドル(紡錘車)につながっている。つむぎ、つながり、スローな暮らし、手づくり、糸、その背景に広がる世界、その手触り感が伝わればいいなと思う。
私は、1994年、高校家庭科が男女共修になるときに、化学教師から家庭科の教師にシフトチェンジした。振り返れば、自分でも思いもよらない展開だったが、その過程は、私としてみれば自然な流れだった。その変化は、その当時の男女平等運動の高まりという熱気を帯びた空気を呼吸してのものだった。
家庭科が共修になって20数年が経った。共修に変わるとき、一時期脚光を浴びた家庭科だったが、いまやその存在が、人々の意識にも、学校教育の中でも、影が薄くなってきているように見える。男女共同参画社会と言われながらその実態はいかばかりか、暮らしを見つめる視点が希薄になってはしないか、そんな懸念がわいて仕方がない。
この本は、私が、これぞ男の世界と思って科学を志向し、企業の技術者を経て高校の化学教師へと移り、家庭を持ち、共稼ぎ子育てが始まり、そして科学の世界がどこかおかしいと感じ始め、やがて家庭科の世界にたどり着き、その後家庭科教師16年を勤めあげた物語である。そこでは、競争社会より共生社会が見えてくる。「個」が自立をめざし、人や社会や自然と対等な立場で関係性を築き、家族・家庭、生活、人生をつくる。また、生活文化を伝承し、新しい知恵を働かせ、暮らしに必要な“もの”をつくる。この魅力ある教科が生きてくる社会になって欲しい。その願いを込めたものである。(著者 小平陽一
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