
本書は、組織・集団を束ねる立場の人にとても有用なブックレットだ。このコンパクトなブックレットの中に、よくここまで最新情報と貴重な資料を網羅したものだと感心する。第一章に、セクシュアル・ハラスメントを取り上げ、その中にジェンダー・ハラスメントやマタニティ・ハラスメント、パタニティ・ハラスメントを組み込み、職場におけるジェンダーとセクシュアリティの考え方の基本も説いている。第二章は、パワー・ハラスメント。なぜパワハラが起こるのか、どういう事例があるのかを雇用の今日的問題も射程に入れながら、具体例を挙げて提示している。第三章は、防止対策とその問題点を中心に展開されており、メンタルヘルスを保つ組織作りの提言も含め、今後の取り組みにすぐに役立つ仕様になっている。時間がなくても、これを読んでおくだけで、必要不可欠な情報を得ることができる。
著者は、現場体験も豊かで身をもって人権問題と向き合っている人だ。ハラスメントは個人間のトラブルではなく組織の問題であると述べているのは、とても説得力がある。個人の意識や努力も大事だが、職場の体制や業務の進め方などの抜本的な見直しが必要であるとのことだ。
今は、様々な場で、パワハラが問題になっている話を実によく聞く。私も過去に、パワハラを解決しないといけない立場に立ったとき、初めて問題の深刻さに直面した。逃げるわけにはいかない。とにかく、誠心誠意、心をこめて対応した。(つもりだった。)が、うまく解決できなかった。加害者とされた人の人権も損なわないようにしながら、被害を受けた人を守りながら、事態を正していく方向を見誤らなければ、自ずと平和的な解決につながると思っていた。が、私は甘く考え過ぎていた。当事者の感情はあまりにも激しく、私の想像を超えて、思いもかけない言動へと発展した。また、当事者を取り巻く人々も適切に対応したとは言い難い。吹き荒れる大風に翻弄されるように、強い感情の余波を受けてそれぞれに感情的な反応にならざるを得なくなった。うまく速やかに解決できなかったために、誰もがいやな記憶を残し、私自身も深く傷ついてしまった。
組織は、単に人が集まっているだけではない。構成員の資質や意識が優れていても、一人ひとりがいかに「善い人」であっても、「ハラスメント」は起こる。私は自分の苦い経験において、個人の善意や意識を超えたところでパワハラが発生するのだということを実感した。組織というものを怜悧に見つめ、個人間の感情のきしみがハラスメントに発展しないような機能性の高いシステムづくりが必要だということをあらためて思う。
今になって、私は、「みんな善い人」などと甘いことを言っていたダメ上司だったと、反省するようになった。組織内の人間力学に無頓着であり過ぎると、マネージメントはうまくいかない。しかし、組織内の力学に着目して強い方に身を預けていくようなことは、今でもしたくないし、これからもやらない。組織内の勢力図に与していくことはしない。むしろ、どのような勢力図が描かれていようと、力動が発現していようと、透明な指揮命令系統が正常に作動して、組織としての責任体制が明確にされて運営業務が運ばれることを理想としていたい。そのためには、組織というものが宿命的に持つ課題を認知しておきたい。そして、問題が起これば的確な判断で対処できる部署や機関が早期に解決に乗り出す体制が、機構の一つとして組み込まれているべきなのだと思う。
これは組織マネージメントのための実用本であるが、私には、さまざまな思いを刺激されるものであった。
桂容子
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