
撮影 鈴木 智哉
6-1 慰謝料を請求したい
*離婚にあたり、慰謝料を請求したいです。
酷い仕打ちを受けたので、できるだけ高い金額を払ってもらいたいです。
今回から、慰謝料について説明をしようと思います。
初回の今回は、離婚で慰謝料を請求できる根拠や時効、基準など、全般的なことをお話ししましょう。
◎ 離婚に伴う慰謝料
夫婦のどちらか一方が婚姻関係を破たんさせた場合(離婚原因を作った場合)、他方に対して、離婚することに対する慰謝料を支払う必要があります。この離婚に伴う慰謝料(離婚慰謝料)は、法的には、不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条)です。「不法行為」という響きに、「犯罪?そんなことまではされてない」と思ってしまうかもしれませんが、不法行為とは、「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害」するという程度のことで、犯罪というほどのことでなくてもあたりうる のです。この不法行為により被害者に精神的苦痛(財産以外の損害)を受けた場合でも、その苦痛を補てんし 。なければなりません(民法710条)。これを慰謝料といいます。
婚姻関係を破たんさせる原因となるのは、不貞行為、悪意の遺棄(生活費を支払わない、一方的に家を出て行ってしまい、音信不通のままにする )、暴力など様々です。
なお、離婚による慰謝料には、以上の離婚を余儀なくされたことそのものに対する慰謝料(離婚自体慰謝料)のほか、離婚原因となった個別の有責行為(不貞行為、暴力など)自体に対する慰謝料(離婚原因慰謝料)があると分類されています。しかし、実際の訴訟では、明確に意識されず主張されていることが多く、実務上は離婚自体慰謝料として一括して請求しているものとして処理されることが多いようです(神野泰彦「離婚訴訟における離婚慰謝料の動向」ケース研究322号)。
おっとなんだかマニアックなお話に入り込んだようですが、一応どちらの請求にするかは金額の評価にもかかわりますし、消滅時効にも関係します。離婚自体慰謝料の消滅時効は、離婚成立時から進行します(最判昭和46年7月23日民集25巻5号805頁)。つまり、離婚から3年間何もせず、それから請求しても、相手から時効を援用 されてしまうと、請求権が時効で消滅したことになってしまいます(同724条)。離婚原因慰謝料の場合、その個別の不法行為の翌日から3年で消滅時効となります。
◎ 慰謝料額の「相場」
ひどい暴力を振るわれてきた。長年支えてきたのに、浮気をされ裏切られた。相手に、相当高い金額の慰謝料を請求してください。
そう語る相談者に、慰謝料の「相場」をありのままにお話しするのは切ないのですが、いたしかたありません。
一応の基準として、たとえば、以下のような解説があります(二宮周平・榊原富士子著『離婚判例ガイド第3版』有斐閣、2015年)。
① 有責性が高いほど高い。
② 精神的苦痛や肉体的苦痛が激しいほど高い。
③ 婚姻期間が長く、年齢が高いほど高い。
④ 未成年子がいる方が、いない場合より高い。
⑤ 有責配偶者に資力があり、社会的地位が高いほど高い。
⑥ 無責の配偶者の資力がないほど高い。
⑦ 財産分与による経済的充足がある場合に低い。
神野前掲論文が取り上げた203事例(東京家裁における20212年4月から2013年12月までに終局した離婚事件のうち判決で判断が示された事件でかつ慰謝料について当事者間で争いがあった事件)の分析だけ紹介しましょう。203事例中、一部でも認容されたのは、75件(37%)にとどまります。平均認容額は、153万円(最高金額700万円、最低金額10万円)。主な慰謝料事由が不貞である場合の平均認容額は223万円、暴力である場合の平均認容額は123万円だとのこと。え?と差に驚くかもしれませんが、これは裁判官が暴力を不貞より違法性が低いと考えているということではなく、上記に挙げた③、④、⑤などの事情も考慮されてのことだと思います。
次回以降、どのような事情がある場合に慰謝料が認められたり認められなかったりするのか、金額はどの程度かなど、具体的なケースで確認していきます。
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