撮影:鈴木 智哉

6-2 婚姻関係の破綻にどちらも責任がある場合には?

  私はリストラされて不本意な転職をしたころ、飲酒量も増えて、妻子に当たり散らしたりしたことがあります。また、病気の子どもに医療費がかかるのを不満に思って、多少きつい言葉を子どもに吐いてしまったこともあります。しかし、だからといって、妻が私に内緒で既に成人に達した子どもを妻の父の養子にする話を進めてしまって、あとから聞いた私が反対したのに、養子縁組の届け出をしてしまったことには、大変腹が立ちました。
妻が私に対して離婚だけでなく、慰謝料請求もしてきました。離婚は応じるつもりがありますが、私だけ一方的に悪いわけでもないのに、慰謝料まで払う気持ちはありません。
 
◎「どっちもどっち」?
 婚姻関係の悪化について一方に100%落ち度がある、ということはほとんどないかもしれません。そうなると、「どっちもどっち」として、慰謝料はゼロになるのでしょうか。
 DVを受けていた妻が別の男性に相談しているうちに恋愛関係になってしまい、「不貞」したということになり、「有責」配偶者とされ、離婚請求はなんとか最高裁大法廷昭和62年9月2日判決民集41巻6号1423頁の法理で認容されるとしても、慰謝料請求は退けられがちです。なお、上記の最高裁の法理とは、有責配偶者からの離婚請求であっても、①別居期間が当事者の年齢、同居期間との対比において相当長期間に及ぶこと、②未成熟子が存在しないこと、③相手方が離婚により精神的社会的経済的にきわめて苛酷な状態に置かれる等離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情の認められないことの3点を考慮した上で、容認されうるとするものです。
個人的には、著しい人権侵害である暴力が先行する上繰り返されていたのに、1回でも浮気したら、慰謝料がゼロになってしまうなんて疑問だと思うこともしばしばありますが…。

  ◎有責性の大きい方が慰謝料を払うことも
ただし、婚姻関係の破綻にどちらも責任がある場合でも、有責性の小さい方から大きい方への請求が認められるときもあります。
 問題のもととなったケース(東京地判平成9年6月24日判タ962号224頁)では、不本意な退職をした夫は妻と長男次男に再三暴言を吐くなどしていました。妻は夫に対する信頼を失い、夫に相談することなく、長男(縁組時24歳)を妻の父の養子にする話を進めました。夫はそのことを知った後反対しましたが、長男は養子縁組の意向があり、養子縁組の届け出がなされました。夫はそのことで妻に不信感を抱き、また膠原病の次男の医療費がかさむことにも不満を持ち、一方的に生活費を減額しました。その後家庭内別居状態となり、妻が夫に離婚及び財産分与、慰謝料を請求し、夫からも反訴請求がされた事案です。
 この事案では、夫婦関係悪化の責任について、比較すると夫の方により責任があるとして、妻に対する夫の慰謝料請求を退けました。他方、夫に対する妻の慰謝料請求については、妻もある程度の責任があるとして、200万円の限度で認めました(請求額は双方500万円)。なお、この事案では、夫に対し、妻へ過去の未払いの婚姻費用(1,168万円)の支払いや、病気の次男の面倒を妻がみていることを踏まえて扶養的要素も考慮して財産分与の支払い命じています(財産総額の半額2,382万5,000円に未払い婚姻費用と扶養的要素を合計して3,650万円)。その点も考慮してトータルとしてどの程度が公平かも考えられた上で慰謝料の金額が定められたのかもしれません。

 どちらも若干は婚姻関係が破綻したことに責任があるとしても、その度合いが大きい方から小さい方への支払いを命じられうる、ということです。