監督も知らない、役者も知らない。  
ひと足先に試写会で、観て感じたまんまをいけしゃぁしゃぁと映画評。   
筆/さそ りさ 
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歌声にのった少年  The I dol  

言ってしまえば、少年が歌手になる夢を叶えるシンプルなストーリーだ。
となると、“苦労に苦労を重ねて”とか“努力の甲斐あって”といった形容が付きものだが、この作品は“奇跡的に”がふさわしい。

舞台は、パレスチナ・紛争の地:ガザ地区。厳しい現実のみが横たわり、夢を抱くことすら奪われた日々の暮らし。
住民は、地区から一歩も出ることを許されない。
子どもたちが地中海に面した海岸で魚獲りをする様子、街中を自転車で駆け抜ける様子は意外で、貧しく荒んだ環境下でも信じられないほど明るい。
女の子の立場もイスラム教の国ならではのものが見受けられるが寛容さも伺える。
ストーリーはともかく、見知らぬ国の状況を垣間みるだけでも、その国への近さを感じさせられる。
だが、なぜここまで熱狂的になるのか理解し難いシーンが後半に度々展開する。

少年は、エジプト・カイロでオーディション番組の予選に合格。次は、レバノンのベイルートで本戦だ。
番組は、テレビの「勝ち抜き歌合戦」でガザ地区でも放送されており、少年が勝ち抜くたびに家族や友人はもとより、
地区の住民がこぞって熱狂する。
無理な演出ではないかと思うが、この作品は現実に基づく内容だけに一概に演出とはいえない。

人は、あまりの苦しさ、厳しさが続くとそのことから逃れ忘れるために、ドラッグに心身を委ねるケースがあるという。
もうひとつのパターンもある。とりとめもない楽しみ事に過剰に反応するケースである。
後半の過剰な熱狂ぶりは、まさに、暮らしの厳しさを裏打ちするシーンであり、意味深く受けとめるべきなのだろう。

監督はイスラエル人、言葉はアラビア語、撮影はガザ地区で……こうした取り合わせのパレスチナ映画は、よほどの機会がない限り観ることはできなない。
となると、行ってしまえばいい。劇場へ。

2016.8.9試写

2016年9月24日(土)新宿ピカデリーほか、全国順次ロードショー

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