
撮影 鈴木智哉
ケース1
私と夫は婚姻当初仲が悪くはありませんでしたが、年に2回ほどしか性交をせず、結婚から2年ほどたった後は全くしなくなってしまいました。年齢的にも子どもを持てるどうか心配になり、夫に一緒にカウンセリングにいくことなど提案しましたが、断られてしまいました。結婚3年目のある日強く夫に子どもがほしいと言ったのですが、夫はあいまいな返事をするばかりでした。
夫はそれ以降、連日のように離婚を迫るようになり、私が子どもを持つことも諦めると謝っても、「おまえは痴呆だ」と言ったり、私の作った食事を一口食べて「うっ」と苦しそうに言って私が毒を入れたように言ったり、階段を降りるときに「押さないで。殺さないで」と何度も言うなど、異様な言動をするようになりました。今まで家計を任せてくれたのに、連日のように「俺の金をネコババした」と執拗に責めてくるようになりました。
私は急性胃炎と仮面うつ病の疑いとの診断を受けました。
夫に離婚と慰謝料を請求できるでしょうか。
ケース2
夫は性的に不能です。そのことを知らされずに私は結婚しました。結婚し同居していた3年6ヶ月の間、全く性行為がありませんでした。その間夫は治療も受けましたが、全く変化はありませんでした。夫に離婚と慰謝料を請求できるでしょうか。
◎性交拒否に正当な理由がない場合
夫婦であっても、場合によってはもちろん性交を拒否してもいいのです。嫌がっているのに性行為を強要することは、むしろ性的な暴力、DVの一形態でもあります。
しかし、正当な理由もなく、性交を拒否し、それが原因で離婚に至った場合には、慰謝料が認められることがあります。
ケース1の元となった事案(東京地判平成19年3月28日判例秘書登載)では、夫の性交拒否だけではなく、暴言を繰り返したことや離婚訴訟で解決すべきことについてまで別に訴訟を提起して妻に応訴の負担をおわせたこと、婚姻費用の分担の審判の抗告が棄却された直後に減額の調停を申し立てて婚姻費用の支払いをストップしたこと等の経過をも踏まえて、婚姻関係が破綻したことについて夫に責任があるとし、破綻により妻が受けた精神的苦痛の慰謝料として、金300万円の支払いを命じました。
ほかにも、夫が新婚旅行中から妻に対し性交も抱擁もキスもしなかったため、妻が夫婦生活を悲観し、同居して1ヶ月半ほどで実家に戻った事案では、夫に金100万円の慰謝料の支払いが命じられました(横浜地判昭和61年10月6日判時1238号116頁)。
結婚して二子をもうけたものの、夫がビニ本(ポルノ雑誌)に異常な関心を示し始め、ビニ本を買いあさっては一人で部屋に閉じこもり、自慰行為にひたり、妻との性交渉を拒否するようになった事案(浦和地判昭和60年9月10日判タ614号104頁)では、夫に慰謝料500万円の支払いが命じられました(判決時結婚から約6年、財産分与1,000万円)。
◎性的不能を告げなかったことは?
ケース2の元になった事案(京都地判昭和62年5月12日判時1259号92頁)は、婚姻関係における「性関係の重要性に鑑みれば、性交渉のないことは、原則として、婚姻を継続し難い重大な事由に該る」として、妻からの離婚請求を認めました。慰謝料に関しては、以下の通り判断しました。婚姻前には、自分に不利な事情をあえて相手に伝えないのが通常であり、一般的には事実を単に伝えないことが不法行為になることはないが、伝えなかったことが、結婚しようという決意を左右する重要な事実であり、その事実を伝えることにより結婚できないことが予想される場合には、「その不告知は、信義則上違法の評価を受け、不法行為責任を肯定すベき場合がありうると解するのが相当である。」とした上で、「婚姻生活における性関係の重要性、さらには、性交不能は子供をもうけることができないという重要な結果に直結することに照らすと、婚姻に際して相手方に対し自己が性的不能であることを告知しないということは、信義則に照らし違法であり不法行為を構成すると解するのが相当である。」として、夫に対し、200万円の慰謝料の支払いを命じました。
今回あげた事案はどちらも妻から夫への請求でした。性交拒否を理由にした夫から妻への請求で認容された例もあります。具体的には、妻が男性との性交に耐えられない性質であることから夫との性交を拒否し、夫が繰り返し性交を求めると嫌悪し暴言を吐いたり暴力をふるったりした事案(妻が前夫と離婚した原因も性交拒否にあり、このときも慰謝料を払っていました)では、妻に夫に対して150万円の慰謝料を支払うよう命じられました(岡山地裁津山支部平成2年3月29日判決)。しかし、このように結婚以来拒否し続け一回も性交に応じなかった事案ならばともかく、私の経験上、夫から妻に対するセックスレスによる破たんを理由にした慰謝料請求を認めたケースはありません。たいがい、子どもが生まれて生活パターンが変わりなんとなくセックスレスになった、とか、むしろ妻から求めても夫に断られてきた、といった経過があり、一概に妻に原因があるともいえないケースなどで、そうそう慰謝料は認められません。
さらっと読み飛ばして、夫婦なら性交は義務?なんて心配しないでください。「今日は疲れた、とか言って拒否しちゃだめなの?」「暴力を振るわれた後怖い。それでもセックスしなければならないの?」…etc. そんなことはもちろんありません。病気で性的不能となっても、それで離婚原因や慰謝料請求原因となるわけではありません(ケース2の元の事案は、そのことを結婚の際に伝えなかったことを問題視しています)。
一方的に愛情を喪失したということを裏付ける事実といえるときなどに、離婚原因、慰謝料請求原因となるだけですので、誤解しないでくださいね。
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