「男性支配」から脱却するために
男女平等がある程度進展し、女性の社会進出が歓迎されるように見える現在でも、世界のあらゆる場所で相変わらず男性支配が普遍的であるのはなぜだろうか。C・レヴィ=ストロースの後継者でフランスを代表する構造主義人類学者の一人であるフランソワーズ・エリチエは、その理由を人類学の手法で理解しようとする。
エリチエは人類学的な観察を通して、あらゆる社会において、集団によって形態はちがうものの、男性と女性の序列的な概念関係は、当然かつ自然であるかのようにそこにあること、また社会の源泉においてすでに存在したことを示す。本書の第Ⅰ巻『差異の思考』(近刊)で確認したこの原初的な男女の序列の存在を踏まえて、第Ⅱ巻『序列を解体する』では、現代世界における様々な事例を紹介しながら、男性支配から脱却するための有力な手段とは何かを論じる。
その主要な手段が女性の身体的自由の獲得であり、具体的には、一つには避妊の権利をはじめとする性的自己決定権の法的な確立、もう一つは女性のセクシュアリティの尊重すなわち男性の性的欲動の正当性の否認である。また、母性も父性も自らが選択する社会的状態であり、本能に帰すべきではないと論じる。
少子化の中で女性にのしかかる出産への圧力、買売春やポルノへのハードルの低さ、強姦の責任を女性に負わせる議論、働く女性と男性の育児休業の問題、家族の責任の強調と同時に介護・保育の負担が家庭の女性に押し付けられる懸念、国会議員における女性比率、高位職や専門家・技術者に占める女性の割合の低さ……。日本には男性/女性をめぐる多くの問題が存在するが、そのいずれの解決に向けても、本書は一つの理論的な土台となることは間違いない。
(編集者 吉澤あき)
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