
撮影 鈴木智哉
ケース1
夫は、私が外国人であることでたびたび侮蔑し、暴力をふるいました。最後には夫から殴る蹴る等の暴行を加えられ、顔面の3カ所の骨折の傷害を負い、入院し手術まで必要となりました。 結婚して約8年、5歳の子どもがいます。
ケース2
夫は私の使う方言が汚いから「標準語を話せ」とか、「食事は俺が帰るまで待ってろ」と命じました。私の気持ちを無視してセックスを強要されました。次女の出産直前にもです。私が教会に通うようになり、そこで知り合った人から自分の気持ちを大切にするように言われました。体調が悪いときにセックスを断ったら、夫は腹を立て、私を殴りつけたり、髪をつかんで引きずり倒したり蹴ったりしました。その後も何度も暴力をふるわれ、セックスを無理強いされました。泣きながら制止しようとした次女にも夫は暴力をふるったことがあります。
別居後、私はPTSDと診断されており、長女(16歳)も次女(14歳)も睡眠障害等で治療を受けています。
ケース3
夫は日ごろから私を叩いたり蹴ったり髪を引っ張る等暴力をふるいました。私は、夫の暴力に耐えきれず、長男(2歳)と一緒に実家に避難しました。保護命令も発令されたのに、夫は同棲中の女性と一緒に、青森県内の私の実家にいた子どもを沖縄に連れて行ってしまいました。夫は逮捕され、子どもは私のもとに戻りましたが、釈放された夫は保育園から子どもを連れていってしまいました。私が必死に止めたのにです。夫は再び逮捕されました。
ケース4
夫から暴力をふるわれ、10日間入院したこともあります。私は他の男性を好きになり、浮気をしてしまいましたが、現在は別れています。結婚25年、子ども3人のうち2人は成人し、1人は15歳です。1人は独立し、他の2人は私と一緒に暮らしています。
それぞれ、夫に離婚と慰謝料を請求できるでしょうか。
◎「相場」はわからない
暴力があり離婚が認められた事案の慰謝料の「相場」は意外に低い、しかしその金額は暴力の程度だけでなく、婚姻期間や加害者の資力などの事情も考慮してのこと、ということは、この連載の58回(6−1)で書きました。
DVがあった離婚事件の代理人を経験してきた私自身、率直にいって、裁判所は加害者が「払えるかどうか」を重視しているような気がしてなりません。たとえば、「暴力による傷害の結果が全治1週間より3ヶ月のほうが慰謝料の金額が跳ね上がる」ということはないように思います。
裁判例では、婚姻期間や子どもの有無等はわかっても、加害者の資力まではわからず、いったいどんな事情を考慮してこちらが200万円になりあちらが150万円なのかということがわからないものです。事案ごとにいろいろな事情を総合考慮する判断というのは、事案に応じた解決が図れる可能性がある一方、何か裁判官の価値観等でも左右され公平でないような、釈然としないところもあります。
◎ケースごとの慰謝料金額は
さて、ケース1の元になった神戸地裁平成6年2月22日判決(家月47巻4号60頁)は、妻からの離婚請求を認めた上、慰謝料金200万円を認めました。
ケース2の元になった神戸地裁平成13年11月5日判決(裁判所webサイト)は、離婚、財産分与100万円のほか、慰謝料800万円を認めました。
ケース3は、東京地裁平成15年2月3日判決の事案では、保護命令が発令される中での連れ去りで、未成年者略取罪で逮捕されたり起訴されたりしています。判決は、この点を、暴力が繰り返されたことのほかに認定し、夫に遵法精神が著しく欠けるとしながらも、慰謝料は150万円に限って認容しました。夫に定職がないことも考慮したのかもしれません。
ケース1から3まで比較してみても、どうしてこれが200万円、800万円、150万円なのか、今ひとつわからないですね。
◎暴力があっても慰謝料を否定されたケースも
ケース4の元になった東京地裁昭和55年6月27日判決(判タ423号132頁)は、夫からも妻からも離婚と慰謝料を請求しました。判決は、それぞれの離婚請求を認めたものの、慰謝料については、破たんに至った責任は同程度だとして、どちらかの請求も斥けました。
お互いが破たん原因について非難の応酬を繰り返した挙げ句、ゼロ円とは…。DVが「犯罪となる行為をも含む重大な人権侵害」であることを掲げたDV防止法成立以前の事案であり、今は変わった…と言いたいところですが、暴力の被害者が不貞をすると途端に裁判所の同情のトーンがぐっと下がり、離婚だけでも有り難いと思え、慰謝料なんて言うな、と言わんばかりの判断で終わるように思えてなりません。DVが「犯罪となる行為をも含む重大な人権侵害」であることがずいぶん軽く扱われているような気がします。
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