大学1年生の時、「ジェンダー論」に出会いました。高校までの人生で性別による制約の数々に違和感を感じていた私は、「ジェンダー論」に出会ってとてもワクワクしました。それまで自明のものとして立ちはだかっていた頑強な壁が実は意外と脆いものなのかもしれないと思った時、急に世界が広がった気がしたのです。
当時通っていた東京女子大学の英語名は「Tokyo Woman’s Christian University」。「Women’s」ではなく「Woman’s」なのは「学生ひとりひとりを1人の人格として尊重する」という想いが込められている、と入学式で学長先生がおっしゃっていました。そのような雰囲気に包まれたキャンパスの中で「ジェンダー論」に出会えたことで、大学の4年間は「自分らしく生きる」ということを模索し、実践することができました。男性に気兼ねしたり、影に隠れたりすることなく、「自分らしく生きる」という経験は、私にとってとても素晴らしいものでした。
一方で、社会では大小さまざまなレベルで性別による制約が存在しています。私自身「ジェンダー論」に出会わなければ、なぜだかよくわからないまま生き辛さを抱え、性別による制約の中で生kきていたかもしれません。こうした中から、「どうしたら誰もが性別による制限を受けること無く、自分らしく生きられる社会にできるのだろうか」という問題意識が生まれました。
そこでいろいろな研究を調べましたが、多くの研究が「すでに社会の中にできている男女間の不平等をどうしたら壊せるか」という視点に立っていることに気づきました。そうした中で、「できているものを壊すくらいなら、そもそもつくらなければ良いのではないか」と考えた私は、乳幼児期に目を向けました。
生まれた時には「男の子・女の子」という言葉自体も、それに付随する「ジェンダー」も知らなかったはずの乳幼児たちが、どうやってそれらを知っていくのか。そしてどうやって男女間の不平等が生じていくのか。その実態を把握することができれば、その先の有効な改善方法の検討にも繋がるのではないか。
そのように考えて行った研究の成果が『幼児の性自認―幼稚園児はどうやって性別に出会うのか―』です。博士論文を書籍化したもので読みにくい部分もありますが、一生懸命書きました。読んでいただけるとうれしいです。
なお、大学院生時代にゼミを受講して影響を受けた上野千鶴子先生から、次のようなツイートをいただきました。
ご本人の許可を得て転載します。
「大滝世津子『幼児の性自認』(みらい)は今年の収穫。3歳児はどうやって性別に出会うのか?を緻密なフィールドワークにもとづいて実証。性別集団化とその優位集団への自己同一化、あるいはその残余への補完的自己同一化を通じて、ジェンダーの非対称性を論じる手続きはあざやかだ。」
(著者 大滝世津子)
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