撮影:鈴木智哉

ケース1
 夫婦別姓が選択できないので、事実婚でいましたが、解消することにしました。事実婚でも、財産分与は請求できますか?

ケース2
夫に長く療養中の奥様がいる方とは知っていましたが、家政婦として雇われ子どもの面倒をみたり、家事をしたりしてきました。そのうちに夫とは事実上の夫婦として生活するとともに、お店の営業も頑張り、金策にも奔走しました。一男一女も授かりました。奥様がお亡くなりになった後も奥様のお気持ちを考え、婚姻届を出すのを控えました。そのうちに夫が私が取引先の若い男性と親しく口にするのを嫉妬するようになったり、冷たい仕打ちをするようになり、やっていけないと思い、子どもたちを連れて別居し事実婚を解消しました。「不倫」と言われる関係だった時期もあり、財産分与を請求できるか、心配です。

◎事実婚とは
事実婚を解消する場合、法律婚の解消と同じでしょうか、違うこともあるのでしょうか。
今回は財産分与を取り上げますが、その前に、そもそも事実婚とは何でしょうか。
事実婚とは、婚姻の届出がなく法律上の婚姻とはいえませんが、当事者間に社会通念上の婚姻意思があり、事実上の夫婦共同生活がある関係です。わかったような,わからないような、というところでしょうか。裁判例は諸々の事情を踏まえてこの関係を認めています。
たとえば、婚姻届をしない男性との結婚を諦めるよう親や兄弟から言われいったん交際を諦めたりしたものの、双方の家を行き来し宿泊したり夫婦としてツアー旅行に行っていた女性は、男性が病気で入院した後看護もしましたが、男性が亡くなってしまいました。その女性が国家公務員の遺族に支払われる共済金関係の支給金が供託されたので還付を求めた事案につき、内縁関係にあったとして、還付請求権が認められた事案があります(大阪地判平成3年8月29日家月44巻12号95頁)。男性が婚姻届に消極的であったとしても、「社会通念上」でみるということです。また、必ずしも同居していなくても、相互に協力的な関係があれば認められるわけですね。

◎事実婚でも財産分与は認められる
 事実婚でも財産分与が請求できるのでしょうか。
かなり前の裁判例で認められています。すなわち、財産分与が、清算的財産分与、扶養的財産分与、慰謝料といった法的性質をもつことは、既にこの連載で説明しました(5-1(53))。そのような財産分与は、現にあった夫婦の共同生活関係を最終的に調整するものであって、第三者の権利に直接影響を及ぼすものではないから、「内縁についてもこれを認めるのが相当である」として、法律婚の離婚の場合と同様に財産分与請求権を認めた判断があります(広島高決昭和38年6月19日高民26巻4号265頁)。
ですから、ケース1では、離婚と同様に財産分与を請求できます。

◎法律婚と重なる事実婚の場合には?
法律婚と事実婚が重なっている場合はどうなるのでしょう。一瞬、「不倫?そんな場合まで財産分与を請求できるなんておかしい」と思うかもしれません。しかし、法律婚だって財産分与が請求できる基準時は、原則として別居時です(連載5-3(55)を参照してください)。となると、事実婚の夫婦間で財産分与を認めなければ、元配偶者がいたのに不貞した一方が他方と一緒に築いた財産を全部自分のものにしてしまうことになりますよね。公平とは到底いえないのではないでしょうか。つまり、ケース2のような事案で、前妻の子どもの面倒もみ、家事をし、自分自身の子どもも産み育てるばかりでなく、お店の営業も仕切っていた「私」が頑張ったからこそ築いた財産を、思い込みで嫉妬した挙げ句冷たくなった夫が全部独り占めするのは、到底公平ではありません。
実際、ケース2のもととなった事案(福岡家裁小倉支部審判昭和52年2月28日家月29巻10号147頁)で、審判は、申立人(内縁の妻)と相手方(内縁の夫)の関係は相手方と前妻との離婚までの間は社会通念上許されない関係であり、双方にとって法律上保護されるべき利益はないのが原則であるとしながらも、申立人は病気の前妻に代わって妻として母として献身的に務め、財産形成に大きな寄与をしてきたこと、前妻もその状態に甘えていたこと、夫も長年申立人を妻として対外的にも認められるようにしてきたこと、それにもかかわらずささいなことから関係を断ちきり申立人と子どもたちを放置していること等を考慮して、財産分与を認めました。
不貞は許されないという社会通念を維持しつつも、夫婦の実際のあり方を踏まえてどのような解決が公平といえるか、裁判所は考えるようになっているようですね。