撮影:鈴木智哉

ケース1
私は4年ほど同棲していた相手と別れました。同居を解消したのは、彼が浮気したのが許せなかったからです。しかしその後も彼と海外旅行に一緒に行くなどしました。旅行中に、彼からプロポーズをされたこともあります。しかし、両親への挨拶その他の準備の相談をしようとしても一向に進まず、そのうちに相手から一方的に別れを告げられました。
一方的に別れを告げられて、私は円形脱毛症になってしまいました。慰謝料を請求できるでしょうか。

ケース2
 いったん婚約した男性と、婚約を破棄し、以来16年間にわたり互いの家を行き来するパートナーシップ関係を築いていました。お互い合い鍵を渡したことはなく、自分の生計をそれぞれ維持管理し、共有する財産もありません。私は子どもを持とうと思っていませんでしたが、彼が子どもを持つことを強く望み、彼が子どもの養育に責任を持つと言うので、子どもを2人出産しました。上の子は彼の母が育て、下の子は施設で育てられています。
彼から一方的に他の女性と結婚する、私とのパートナーシップ関係を解消したいと言われました。納得がいきません。

 ◎内縁・事実婚の解消の場合でも慰謝料が認められる
正当な理由がなく内縁関係ないし事実婚を解消された場合、慰謝料を請求することができます。この点は大正時代に既に判例で確立しています(大連判対称 年1月26日民録21・5・49)。大正時代のこの判例では、婚姻予約の不履行、すなわち債務不履行としての損害賠償(慰謝料)を認めていましたが、最判昭和33年2月11日民集12巻5号789頁では、不法行為責任として構成することも認めました。法律構成など法律家しか関心を抱かないマニアックなところかもしれませんが、念のため…。

 ◎婚姻予約不履行による慰謝料
 婚姻予約というのは一般には聞き慣れない言葉ですが、裁判例では、内縁あるいは事実婚とまでいえない関係について慰謝料を認める際に用いられています。
たとえば、ケース1のもとになった東京地判平成28年3月25日(判例秘書L0713831)では、原告が4年ほどの同棲やその同棲が両親の同意があったこと等を根拠に内縁関係が成立していたと主張しましたが、原告が被告の姉の結婚式に出席したものの「被告の友人」と紹介されていたこと等、夫婦としての生活実態はなかったとして、内縁関係があったということはできないと斥けられました。しかし、同棲を解消した後の旅行中の被告のプロポーズにより婚姻予約が成立したとし、その婚姻予約を被告が正当な理由なく破棄したとしました。しかし、婚姻予約からその破棄まで1年に過ぎないこと、「男女の交際は原則として個人の自由な意思によって行われるべきもの」であること等を指摘して、請求額660万円(慰謝料600万円弁護士費用60万円)のうち、慰謝料80万円、弁護士費用相当額10万円の限度で認めました。

 ◎法的保護の必要性が認められないことも
ただし、当事者間に多少のパートナー関係があったら全て法的保護の必要性がある、というわけではありません。
ケース2のもとになった最判平成16年11月18日判時1881号83頁の原審では、上告人が被上告人と話し合いもすることなく一方的に関係を解消させたとは、被上告人の関係継続についての期待を一方的に裏切るものだとして、100万円の限度で慰謝料を認容しました。
しかし、最高裁は、共同生活がなかったこと、被上告人が出産したとはいえ2人の子どもの養育に一切関わっていないこと、関係存続の合意もないことに照らし、婚姻及びこれに準ずるものと同様の存続の保障を認める余地はないこと、関係の存続に対し、上告人が被上告人に対し何らかの法的義務を負うものとは解することができないことを指摘し、慰謝料の請求を退けました。