第12回全国女性史研究交流のつどいin岩手「次世代に受け渡す女性史を」の報告書が発行されました。同つどいは2010年の東京での集まりに次ぎ5年後の2015年10月9~11日、遠野、大槌、宮古の3会場で行われました。東日本大震災後の様子を全国の方々に見ていただきたい、復興支援につなげたいとの狙いで、交通の便が良くないことを承知で選ばれた会場でした。
 報告書は、基調講演・加納実紀代さん(女性史研究者)の「戦後70年;平和の礎としての女性史を」、記念講演・大門正克さん(近現代史研究者、横浜国大)「小原麗子『自分の生を編む』―「おなご」、「そして戦争」―」の講演要旨、シンポジウム「3度の津波と戦中・戦後を語る」、大槌町の鈴木京子さん(当時87)、釜石市の藤間千雅乃さん(同89、2016・1・6死去)釜石市の千田ハルさん(同91)3人の体験談の詳報をはじめ、「被災地の今」「戦後70年」「地域女性史」「労働・保育」「差別に抗して」など10分科会の報告が掲載されています。
 同報告書をあらためて開くとき、今大会は、三陸沿岸に生きる者には避けようがない津波体験と戦争を挟んでの、女性の生き方に焦点を当てつつ、女性史を通して何を誰に受け渡していくのかが、強く意識されたつどいだったと再認識されます。これは参加者のみならず、多くの人たちの関心でもあると思います。女性史研究の活動や在り方、方向性の検討はもちろんですが、地域女性史の資料やミニコミ誌、文集などの活用と、それを津波など被災からどう守っていったらいいかなどの保存をテーマにした分科会「史料(保存・公開・修復等)」では、電子アーカイブ化DOCUMENT-WAN(D-WAN)など、次世代に受け渡す女性史研究の具体的な環境整備も注目されました。
 地元の女性3人によるシンポジウムでの体験談は、壮絶なことでも、時にはユーモラスに語られる場面もあり、自分らしく生きるたくましさといくつになっても失わない輝き、豊かな表情を見せてくださいました。当日はシンポジストとして登壇できなかった中村ときさん(当時95)から寄せられた原稿も掲載されています。そこで、ちょっと胸を突かれた表現に出合いました。ときさんは今回の震災で姉と甥を失っています。生きていれば百歳になっていた姉は車椅子のまま“流れ”未だ不明、定年を3月に控えた町職員の甥は職員40名とともに“流れた”とあるのです。“流された”ではないのです。この諦観は、どう受け止めればいいのでしょうか。

 つどいから、日にちは経ちましたが報告集ができておしまい、ではないのです。開けば、さまざまなことが思い出され、考えることを忘れてはいけないと、自戒させられる一冊です。
 この報告集は、1冊2,200円(送料込)で頒布しております。ご希望の方は、〒020-0039 岩手県宮古市河南1-5-1 岩手県立大学宮古短期大学部 植田眞弘研究室「女性史のつどい」実行委員会事務局 ueda2424@yahoo.co.jp までお申し込みください。(而)